米で急増するイノシシ、感染症を拡大か

2011.05.04
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フロリダ州ケネディ宇宙センターで餌をあさる途中、ひと休みしているイノシシ(2002年5月)。

Photograph courtesy NASA
 アメリカではイノシシが急増し、危険な寄生虫が人間に感染する可能性が出てきているという。 イノシシ(学名:Sus scrofa)は16世紀にヨーロッパからアメリカに家畜として持ち込まれた。しかし時と共に多くの個体が畜舎から逃げ出していった。野生化したイノシシは、現在ではアメリカの39の州に計約400万頭が生息すると見られ、特にカリフォルニア州、テキサス州とアメリカ南東部に多いという。

 このほど発表された論文の共著者で、ノースカロライナ州ローリーにあるノースカロライナ州立大学(NCSU)の生態学者クリス・デパーノ(Chris DePerno)氏によれば、イノシシは非常に頑強でほとんど何でも食べることができるため、この環境で満足に暮らし、年に複数回、それぞれ数頭の子を産む。

 この野生のイノシシの集団に、養豚場から逃げ出した家畜のプタ(イノシシの亜種、学名:Sus scrofa domesticus)が混じっていく。逃げ出した家畜のブタは、通常2世代もするとピンク色が抜けて毛の粗い縞模様のイノシシに変わり、野生の群れに溶け込んでしまうという。

 今回の研究でデパーノ氏らは、ノースカロライナ州で2007~2009年に殺されたイノシシ83頭の血液中に、トキソプラズマと旋毛虫が寄生していた証拠を発見した。 テキサス州やサウスカロライナ州など、アメリカの他の地域で実施された調査でも同様の結果が得られており、イノシシによる感染症媒介の危険性があることを示しているとデパーノ氏は指摘する。

 しかし、イノシシでこれらの種の寄生虫感染が確認されたのはこれが初めてだ。トキソプラズマも旋毛虫も家畜のブタでは感染が防止されているが、近年では食用としてイノシシ狩りをする人が増えているとデパーノ氏は言う。「イノシシの肉はとてもおいしい。ブタより味わいがある」。

 寄生虫が多く含まれる肉を人間が食べると感染する可能性は高い。デパーノ氏によると、トキソプラズマも旋毛虫も、感染すると筋肉や臓器に食い込み、インフルエンザのような症状を引き起こすことがあるという。

 男性、女性、子供を含め、アメリカでは既に6000万人以上がトキソプラズマに寄生されているが、発症する人はきわめて少ない。通常、健康な人の免疫系ならば病気を抑え込むからだ。

 それでも、米国疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカではトキソプラズマ症は食物が媒介する病気による死因の第1位だ。特に妊娠中の女性や免疫系が弱っている人にとって、トキソプラズマの害は大きい。

 CDCによれば、旋毛虫による感染症も軽症から重症までさまざまで、最も重症の場合は心臓と呼吸器に障害が起こり命に関わることもあるという。中等度の症例でも、疲労、衰弱、下痢が何カ月にもわたり続く場合がある。

 イノシシの個体数が増えているため、イノシシ狩りの回数も増えているはずだと論文の著者らは推測する。そのため、殺したイノシシをさばいたり肉を食べたりすることで寄生虫に感染するリスクをハンターたちに理解してもらえるよう、教育プログラムを計画するのがよいだろうと研究チームは提言している。

 家畜のブタが寄生虫に感染したイノシシと接触すると、ふつうのブタ肉を食べた人が寄生虫に感染する可能性も出てくる。例えば、放し飼いのブタが野生の仲間と偶然接触し、病気をもらうということは起こりうる。放し飼いブタの肉は人気があるが、これは欠点になりかねないとデパーノ氏は言う。「今後の課題は、さらに多くの場所でこの種の調査を実施し、病気の広がりを、特にプタやペットや人間の健康に関連づけて確認していくことだ」。

 寄生虫に感染したイノシシについての研究結果は「Journal of Wildlife Diseases」誌4月号で発表された。

Photograph courtesy NASA

文=Christine Dell'Amore

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