内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

デジタル時代に生き残る情報システム子会社とは - (page 2)

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2018-05-30 06:00

情報システム子会社はどこへ進むべきか

 情報システム子会社の事業形態および業務領域をポートフォリオで表すと図1のようになります。現時点において、ほとんどの情報システム子会社が左下(第3象限)の従来型機能子会社に位置します。一方、グループ内でのシステム構築や運用で培ったノウハウや経験を生かして外販を推進し、左上(第2象限)の従来型事業子会社となった企業もいくつかはあります。データセンター運営、ERPパッケージを活用したインテグレーション、DBMSやツールを活用した受託開発などを事業化し、グループ以外への販売に成功した企業です。

図1:情報システム子会社のポートフォリオ(出典:ITR)
図1:情報システム子会社のポートフォリオ(出典:ITR)

 これまでこうした企業は、独り立ちした情報システム子会社として成功モデルといわれていました。しかし、前述のようなITインフラや社内システムのコモディティ化とクラウドシフトによって、先行きが不透明になっています。得意技と呼べるような技術力や、スケールメリットが享受できる卓越した製品・サービスを持っていなければ今後の成長は厳しいといわざるを得ないでしょう。

 外販をするしないに関わらず、情報システム子会社が今後強化していかなければならない領域は、図1の右側に位置するビジネスITおよびデジタルビジネスの領域であることは間違いありません。そもそも、情報システム子会社が、外部のSIベンダーやソフトウェア開発会社よりも唯一優位な点は、親会社およびグループ会社が属する業界における業種・業務知識を持っていることに他なりません。

 これを生かして、親会社およびグループ会社のデジタル・イノベーションを実現することが期待されます。特に、従来型機能子会社は、デザイン思考やアジャイル開発などの新規の手法や、クラウドやAI、IoTなどの技術を活用して、グループ内のデジタル・イネーブラーとしての地位を確立することが求められます(図1の矢印A)。また、その取組みが成功すれば、そこで得た経験や培った技術をグループ外に提供したり、親会社やグループ会社と共にデジタルビジネスを提供する戦略的な事業会社に転身することも可能となるでしょう(図1の矢印B)。

 既に、デジタル化に積極的な企業では、親会社側のデジタルイノベーション人材の中途採用や情報システム子会社からの転籍などが進められています。また、従来の情報システム子会社とは別に、デジタルイノベーション専門組織や子会社を立ち上げる例も出てきています。一方で、ITベンダーとの資本提携などにより情報システム子会社の再編を進める動きもあります。組織文化の変革や人材育成には時間を要しますので、早期の取組みが求められます。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。

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