帰還困難区域の鉄スクラップ 作業員が無断で持ち出し売却

東京電力福島第一原発の事故による「帰還困難区域」での建物の解体工事で、放射能濃度を測定していない鉄スクラップなどが無断で現場から持ち出され、業者に売却されていたことが分かり、環境省は警察に相談するなどの対応を進めています。

帰還困難区域の福島県大熊町では、「特定復興再生拠点区域」として先行して除染やインフラ整備が進められています。

環境省によりますと、国が大手ゼネコンに発注した「大熊町図書館・民俗伝承館」の解体工事について、ことし2月から下請けの地元の土木工事会社が、除染や建物の解体作業を進めていますが、この現場で出た鉄スクラップなどを作業員が放射能濃度を測定しない状態で複数回にわたって無断で持ち出し、業者に売却していたことが確認されたということです。

本来、解体工事で出た廃棄物は指定の仮置き場に集め、放射能濃度が1キロ当たり100ベクレル以下などの基準を満たせば、公共事業などで再利用されますが、それ以外は中間貯蔵施設などの専用の施設で保管することになっています。

環境省は発注元の大手ゼネコンに指導の徹底を伝えるとともに、警察への相談を進めているということです。

伊藤環境大臣は、19日の閣議後の記者会見で「このような事案が発生したことは誠に遺憾だ。適切に管理されるよう、環境省としても強く、指導・監督していきたい」と話しています。

下請けの土木工事会社「現在 調査中なので答えられない」

問題があった解体工事に下請けとして作業を行った福島県大熊町の土木工事会社は、NHKの取材に対し、従業員が鉄スクラップなどの持ち出しに関わっている疑いがあるとして、元請け業者の調査に応じたことを認めたうえで「現在、調査中なので答えられない。環境省に聞いてほしい」としています。

鉄スクラップ 価格は4年前の2倍以上に高騰

鉄スクラップは近年、価格の高騰が続いています。

金属の買い取り業者などでつくる団体によりますと世界的に高まる脱炭素化の潮流を背景に鉄鋼メーカーによる鉄スクラップの需要が高まっているといいます。

1トンあたりの買い取り価格は東北地方で2019年の8月はおよそ2万3000円でしたが、ことし8月には4万9000円ほどと2倍以上にはねあがり、高値で取り引きされる状態が続いています。

事業を受注した鹿島建設「社内で調査し警察に相談」

この事業を受注したJV・共同企業体の大手ゼネコン「鹿島建設」は「社内で調査し警察に相談しているが、個別の事案のため詳細は控えます」とコメントしています。

警察 工事請け負った建設会社から事情聞く

捜査関係者によりますと、これまで被害届などは出ていませんが、警察は、現場に置かれていた資材の状況や管理体制などについて、工事を請け負っていた建設会社の関係者から事情を聞くなど、調べを進めているということです。

松村国家公安委員長は19日の閣議後の記者会見で「福島県警が請負業者から事情聴取をするなど、必要な対応を取っていると承知している。福島県警が法と証拠に基づき、適切に対応されるものと考えている」と述べました。