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異名は「ハンマー」 囲碁・上野女流立葵杯21歳 “盤外”にも注目

上野愛咲美女流立葵杯=東京都千代田区の日本棋院で2023年6月26日、武内亮撮影
上野愛咲美女流立葵杯=東京都千代田区の日本棋院で2023年6月26日、武内亮撮影

 現在、囲碁の女性棋士は日本棋院と関西棋院合わせて104人いる。その中で、最も勢いのある棋士といえば、上野愛咲美(あさみ)女流立葵杯(21)=女流名人=だろう。相手の大石を狙って奪い取る攻撃的スタイルから「ハンマー」の異名を持ち、昨年は国際棋戦で日本勢初の世界一に輝いた。“盤外”でもユニークな言動で人気を集める「ハンマー」の素顔や強さの秘密とは――。【武内亮】

「バナナをしっかり食べる」

 6月26日の夕方、東京都千代田区の日本棋院5階の記者室に、上野が苦笑しながら入ってきた。そして開口一番、「バナナを食べなかったので、頭が急に働かなくなって。いつもなら読めるところが読めなくなってしまいました」。この日の扇興杯準々決勝の一局を振り返っての言葉だった。半目差の辛勝に少しホッとした表情を見せた後、こう付け加えた。「時間がある時にバナナをしっかり食べることは今後の課題ですね」

最大のライバル 藤沢女流本因坊

 さかのぼること約1週間前。上野は福島県会津若松市で打たれた女流立葵杯三番勝負に臨んでいた。相手は藤沢里菜女流本因坊(24)。プロ入り後、タイトル戦で何度も戦ってきた最大のライバルだ。

 前々期、前期に続いての対決となった今シリーズ。第1局は優勢に進めながら、逆転で敗れた上野。「今回は里菜先生に2連敗かなと思いました」と振り返るが、そこから勝負強さを発揮する。第2局を完勝し、第3局は中盤までリードを許しながらも、相手の一瞬の隙(すき)をついて逆転勝利を収めて2連覇を果たした。「調子が悪かったので本当に勝ったのかなって。もっといけたかなと思います」

“グランドスラム”達成

 囲碁を始めたのは5歳の時。「囲碁は頭にいい」と祖父から勧められたことがきっかけだった。間もなく師匠の藤沢一就八段(藤沢女流本因坊の父)が主宰する東京・新宿の囲碁教室に通い始める。同い年の関航太郎天元や広瀬優一七段らと勉強に励み、ぐんぐんと実力を伸ばす。

 そして小2の時に日本棋院の院生となるが、プロ採用試験で6度失敗する。「もう自分にはプロは無理かなと思いました。でも勉強も嫌いで運動も苦手な私には囲碁しか得意なことがなかったので、プロになるしかないなと」。7度目の挑戦でプロ入りを決める。14歳の時だった。

 プロ入り後は、周囲も驚くほど急速に実力を伸ばす。2018年、女性棋士としては当時、藤沢に次ぐ2番目の年少記録となる16歳3カ月で女流棋聖を獲得。19年の竜星戦では許家元九段や村川大介九段らタイトル経験者を破って、女性棋士として初めて決勝まで進出し、一力遼竜星をあと一歩のところまで追い詰めた。その後、22年の国際棋戦…

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