アメリカ各地で抗議6日目、暴力も続く 警官による黒人男性死亡で
黒人男性のジョージ・フロイドさんが中西部ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に押さえつけられて死亡したことに抗議して、全米各地で31日夜から1日にかけてもデモが続いた。40近い都市で夜間外出禁止令が出されていたが、大勢の抗議者がそれを無視し、警察や州兵と衝突した。
ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、ロサンゼルス、ワシントンなどの大都市では、機動隊がデモ隊に催涙ガスやこしょう弾、閃光弾などを使用した。複数の都市でパトカーが放火され、店舗から商品が盗み出される略奪が起きた。
アメリカで国内の危機対応を任務とする州兵(ナショナル・ガード)は5月31日、15の州と首都ワシントンで現場に投入されたと明らかにした。州兵はさらに、「治安維持の責任は引き続き、州と地元の法執行機関にある」と述べた。
一方で、フロイドさんの弟、テレンス・フロイドさんは米ABCニュースに出演し、暴力的な抗議を非難した。
自分の兄は平和を大事にしていたとテレンスさんは言い、「自分も激怒している。暴れたくなる。でもうちの兄はそうじゃなかった。僕の兄さんは、平和の人だった。『穏やかな巨人だった』とたくさんの人が言うとおりだ」と述べた。さらに、「言わずにはいられない。みんなに知ってほしくて。ともかく、怒りは違う形で表してください。自分の住む街をボロボロにしないで」と呼びかけた。
大統領は地下壕に
首都ワシントンでは31日夜にも、大勢がホワイトハウスの近くに集まり、建物に放火したり、機動隊に石を投げたりした。これに対して警察は、催涙弾や閃光弾を使った。
ホワイトハウスに近い「大統領の教会」としても知られる、セントジョン米聖公会教会にも火がつけられた。
ホワイトハウス前では29日夜から30日にかけても、デモ隊がシークレットサービスがもみ合い、ホワイトハウスへの出入りが禁止された。31日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、この時、ドナルド・トランプ米大統領は一時的にシークレットサービスによって、ホワイトハウス地下の防空壕に連れて行かれ、警備されていたという。
BBCのニック・ブライアント記者は、1968年にマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された直後の騒乱に匹敵するほどの、人種問題を機にした大規模で激しい騒乱が、全米に広がっていると指摘する。
フロイドさんが亡くなるまでは、新型コロナウイルスの感染対策でがらんとしていた各地の通りで、大勢が肩を並べ、ひしめきあって人種差別と警察暴力に抗議している。
東部フィラデルフィアでは、大勢が警察車両を破壊したり、少なくとも1カ所の店舗から商品を盗んだりする様子を、地元テレビ局が伝えた。
これを受けてトランプ氏は、「フィラデルフィアにただちに法と秩序を! 連中は店から物を盗んでる。素晴らしい州兵を投入しろ」とツイートした。
4000人以上が逮捕
カリフォルニア州サンタモニカでも、商店からの窃盗が相次いだという。
AP通信によると、5月25日にフロイドさんが死亡して以降の各地のデモで、少なくとも4400人が逮捕されている。逮捕容疑は窃盗や道路の通行妨害、外出禁止令違反などさまざまだ。
CNNによると、ミネアポリスでは幹線道路を行進するデモ隊に向かってタンクローリーで突進した運転手が、暴行罪で起訴された。
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Twitter の投稿の終わり, 1
ソーシャルメディアに投稿された映像では、停止したタンクローリーを大勢が取り囲み、運転手を引きずり出す様子が見える。運転手は軽傷を追い、病院に運ばれた。他の死傷者はいなかったもよう。
ミネソタ州のティム・ウォルツ州知事は、運転手の動機は不明で、「大勢が死亡しなかっただけでも、まったく驚異的だ」と述べた。
中西部コロラド州デンヴァーでは、州議会前に数千人が集まり、地面にうつぶせになり両手を後ろ手に、「息ができない」と繰り返しながらフロイドさんが死亡した際の状況を再現する、平和的な抗議行動を行った。
ほかにも、アトランタ、ボストン、マイアミ、オクラホマシティなどで大規模デモが行われた。
平和的デモに機動隊が過剰に反応したという報告も相次ぎ、南部ジョージア州アトランタでは、大学生2人にテイザー銃を使うなど過剰な威力行使をしたとして、警官2人が解任された。
長年の隔離と格差
アメリカは、長年にわたる人種間の緊張や社会に組み込まれた人種隔離による社会経済的な格差、黒人に対する警察暴力の問題を抱えてきた。最近ではジョージア州で住宅地を走っていて白人親子に射殺されたアマード・アーバリーさんや、ケンタッキー州の自宅で警察に射殺された救急スタッフのブリオナ・テイラーさんなどをめぐり、怒りと苛立ちが高まっていた。
ミズーリ州ファーガソンのマイケル・ブラウンさん、ニューヨークのエリック・ガーナーさんなど、各地で相次ぎ黒人が犠牲になる事件を機に、「黒人の命は大切」(Black Lives Matter)運動が繰り返し展開されてきた。
フロイドさんが死亡したミネアポリスでは黒人住民と警察が長年の緊張関係にある。2016年7月には、自動車の後部ライトが壊れていたため警察に呼び止められた黒人男性フィランド・カスティールさん(32)が、警官に撃たれて死亡している。
また、この前日には南部ルイジアナ州で黒人男性が警察に射殺されていた。また1ヵ月後の8月半ばには、中西部ウィスコンシン州で黒人男性が警察に射殺され、続く同年9月下旬には南部ノースカロライナ州でも黒人男性が警察に射殺された、激しい抗議が市内で起きた。
フロイドさんの死因は
郡検視官の正式な死体検案書はまだ発表されていないが、検察の起訴状によると検視の結果、窒息が直接の死因ではなく、心臓疾患のあったフロイドさんが「警察に取り押さえられたことと基礎疾患の組み合わせ、体内にもし酩酊物質があったならそれも合わせて」、死因になった可能性があるとしている。
検視官によると、チョーヴィン元警官は8分46秒にわたり、フロイドさんの首を膝で押さえつけていた。フロイドさんが反応しなくなった後も、3分近く、そうして押さえ続けていた。
膝をどかす2分近く前に他の警官がフロイドさんの右手首をとったが、脈拍は確認できなかったという。救急車でヘネピン郡病院に搬送され、搬送中に心停止に陥った。その約1時間後、病院で死亡が宣告された。
ミネソタ州の警官服務規程によると、容疑者の逮捕術として、相手の気道を直接圧迫しない形で容疑者の首を押す技術の訓練を受けた警官は、体を使って抵抗する相手に限り、膝の使用を認められている。これは、容疑者制圧のための致命的ではない方法とされている。
現場で撮影された複数の映像では、フロイドさんが体を使って抵抗している様子はうかがえない。
白人警官が地面にうつぶせになったフロイドさんの首に膝をのせて押さえつけている様子や、フロイドさんが「お願いだ、息ができない」などと繰り返す様子は見てとれる。
現場では何が
フロイドさんが死亡した経緯について、フロイドさんが偽造20ドル札を使ったという通報を受けた警官たちが、パトカーに乗せて職務質問しようとしたところ、フロイドさんが地面に倒れこみ自分は閉所恐怖症だと主張したと、ミネアポリス市警は説明している。
市警は、フロイドさんが抵抗したため警官が手錠をかけたとしている。
複数報道によると、フロイドさんはレストランで働いていたものの、新型コロナウイルスの影響で失職していたという。
地元ナイトクラブの元オーナーによると、起訴されたチョーヴィン元警官とフロイドさんは昨年まで同じナイトクラブで、警備係として働いていたという。ただし、面識があったかは明らかになっていない。
チョーヴィン元警官は第3級殺人罪などで起訴された。ミネソタ州法の第3級殺人罪は「殺害の意図はないまま、不道徳な考えから人命を無視し、著しく危険な行為で他人を死亡させた」場合に適用される。
これについて遺族は弁護士を通じて、殺人は計画的なもので、量刑のより重い第1級殺人罪に相当すると主張している。