HPVワクチン正しい理解を 県議会で質疑 和歌山

藤野隆晃
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 子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンについて、和歌山県内で定期接種の対象者に広く情報が届くよう議論が重ねられている。接種後に体の痛みなど様々な症状を訴える声が全国で相次ぎ、国が積極的に接種を勧める対象から外して約7年が経つが、その後国内外で安全性などについて調査が進んでいることが背景にある。

 9月23日の県議会本会議。一般質問で、山下直也県議(自民)からHPVワクチンの周知について問われた仁坂吉伸知事は「市町村と協議しながら、希望者が適時接種できるように取り組みたい」と答えた。現在、県では基本的な情報をホームページに載せているが、今後はさらに踏み込んだ対策をとる意向を示した。

 日本では、新たに年間約1万人が子宮頸がんにかかり、約3千人が死亡している。感染した場合、早期に発見しても子宮摘出を迫られるなど、深刻な影響を受ける。

 HPVワクチンは2010年に接種の公費助成が国内で受けられるようになり、13年4月には小6~高1の女子を対象に定期接種が始まった。子宮頸がんの原因となるHPVのうち、ワクチンは5~7割を占める二つのタイプ(16型・18型)を予防することができ、検診と併せて用いることで感染者の減少が期待された。

 だが、接種後に体の痛みや、力が入らないといった様々な症状を訴える報告が相次ぎ、国は同年6月、接種の積極的な勧奨を中止した。16年7月には、健康被害を訴える女性63人が、国と製薬会社を相手に集団訴訟を起こした。現在もHPVワクチンは接種できるが、県健康推進課によると県内での接種数は13年以降大幅に減ったという。

 一方、日本産科婦人科学会でHPVワクチンに関する委員を務める和歌山県立医科大の井箟(いのう)一彦教授は、国内外で実施された調査からは、ワクチンと接種後に報告のあった症状の間に因果関係は示されていないと話す。世界保健機関(WHO)は、HPVワクチンについて「優れた安全性と有効性を有している」とし、「国家の予防接種プログラムに組み込まれるべきである」と勧める。

 ワクチン接種後に報告されたものと同様の症状が、ワクチンを接種していない人にも一定数みられたという調査結果が出たことや、最新の知見、議論などを踏まえ、厚生労働省は18年、ワクチンに関するリーフレットの内容を更新。接種後に起こりうる症状を紹介しながらも、接種の意義や効果を伝える。昨年には岡山県が独自に、ワクチンと検診の重要性を紹介するリーフレットを作成。8万5千部を県内の中学・高校などに配布するなどの動きも見られる。一方、健康被害を訴えて提訴した女性たちの弁護団などからは、慎重な対応を求める声も上がる。

 井箟教授は、接種後に報告があった症状が詐病というわけではないとも説明する。接種への恐怖、注射の痛み、ストレスなど、様々な要因によって症状が引き起こされた可能性があるとし、「接種時の丁寧な説明やコミュニケーションが必要」と指摘。また、接種後に何らかの症状が出た場合の対策として、県立医大などが中心となって相談・診療態勢を整えているという。井箟教授は、かかりつけの産婦人科医や小児科と相談することを勧め、「親子で考える機会をもってほしい」と促す。

 県産婦人科医会では、ワクチンについて親子で知ってもらおうと、独自にリーフレットを作成した。ワクチンのメリットやデメリット、子宮頸がん予防のためにはワクチン接種と検診が重要であることなどを紹介する内容だ。今後、県内の医療機関へ配布を進めるという。

 県は、接種後に様々な症状を訴えた人がいたことや、国が積極的な勧奨を中止していることから、県としての情報発信は「慎重にならざるを得ない」という立場だ。今後について具体的な検討はまだ進んでいないとするが、健康推進課の担当者は「そもそも、HPVワクチンの注射を打てるということや、正しい知識を知ってもらえるようにしたい」と話している。藤野隆晃

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