拓郎さんの終活(7月30日)

2022/07/30 09:05

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 シンガー・ソングライターの吉田拓郎さんが年内で活動に終止符を打つ。日本の音楽界を半世紀余りけん引し、後進に強い影響を与えた。青春を共有した昭和の世代は寂しさを募らせているに違いない▼大学紛争やベトナム反戦運動などで社会が騒然としていた一九六〇年代に音楽活動を始めた。「結婚しようよ」「旅の宿」「落陽」など人生の機微に触れた数々の名曲がファンや他の歌い手に愛された。ドラマやCMでも使われ、どこかで耳にしたことのある人は多いだろう▼先日、放送されたテレビ番組の最終回で久しぶりに元気な姿を見せた。細身になったが、七十六歳の今も変わらぬ独特の声で懐かしい曲を歌い上げた。闘病を重ねたうえ、コロナ禍でラストツアーを断念した。理想のステージができなくなったのが第一線を退く理由と明かした▼最後のアルバム「ah-面白かった」は、駆け抜けた人生のいろんな場面を紡ぎ、かけがえのない人たちとの出会いに感謝する楽曲だ。どんな巡り合いでも、人生において何かしらの意味はあるものだ。締めくくりに、面白かったと思える自分はいるのだろうか。この人の歌には、最後まで自問させられる。