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日本医療研究開発機構4月発足 末松誠理事長に聞く

 ■希少疾患の研究・創薬を支援

 日本発の医薬品・医療機器の創出を支援する独立行政法人「日本医療研究開発機構(AMED)」。そのトップである理事長に就任する予定の末松誠氏(57)は4月の同機構発足を前に産経新聞のインタビューに応じ、創薬研究の事業では希少疾患に力を入れ、新薬開発のきっかけをつくりたいとの構想を明らかにした。超高齢者の医療問題では「健康の物差し」にあたるデータを集め、高齢者にふさわしい医療モデルをつくり、世界に発信したいと意欲を語った。

 ◆患者に最新情報を

 末松氏は慶応大医学部長の職から同機構理事長に就任する予定。同機構の狙いは縦割りの官僚組織を改め、医療の研究・開発の権限を同機構に集約させることにある。

 医薬品創出、医療機器開発、がん研究、再生医療の推進、希少疾患への取り組みなどの重点プロジェクトを進める。この中で特に難病である希少疾患の研究に力を入れたいという。

 希少疾患の研究は米国や英国はそれぞれ、名前すらついていない疾患を解明するUDPやSWANというプロジェクトをすでに本格化させ、そこから新しい治療薬研究の可能性が開かれている。

 「先進国でやっていないのは日本くらいだ。ゲノム(全遺伝情報)解析を行い、未診断疾患や希少疾患の原因を探っていきたい。そうすれば、世界にいる同じ病気をもつ患者さんの情報収集が可能になり、患者さんやその家族の方にも貴重な情報を提供できる。しかも新薬研究によって希少疾患にとどまらず、他の疾患に応用が期待できる新たな創薬につながるチャンスがある」

 ◆超高齢者データ集積

 もうひとつ力を入れたいのは、世界一のスピードで進んでいるわが国の高齢化社会を逆手にとって高齢者の診断データを集積して、新たな医療モデルをつくる構想だ。

 「人間ドックや健診で戦略的に収集しているデータはたかだか70歳代までだろう。超高齢者の健康指標は盲点であり未開拓の分野だ。致死性の病気を経験していない超高齢者を対象とした研究はより若い世代に起こる生活習慣病の仕組みを理解するためにも重要だ。日本発で世界に新しい健康長寿の指標やモデルを示したい」と話す。

 末松氏は「文部科学、厚生労働、経済産業の各省にはそれぞれ個性がある。その個性を生かしながら、新しい組織を運営したい」と指摘する。

 しかし、従来の医薬品開発をめぐっては、「経産省が予算をつけて開発を支援してきた創薬研究の成果が、研究開発当初から厚労省所管である薬事承認のプロセスを念頭に置いていなかったため、結果として実用化が遅れてしまった」ことも。縦割りの弊害の例だ。

 こうした例を踏まえて「PMDA(医薬品医療機器総合機構)の努力で審査ラグ(遅れ)は解消された。これからは研究開発当初から生じうる開発ラグを解消すべく、実用化プロセスに新機構が伴奏して医療研究を推進させたい。3省が合体して取り組むことによって円滑に推進させたい」と期待を込める。

 こうしたことに加え、同機構の肝はその組織の仕組みにある。プロジェクトを推進する産学連携部や創薬支援戦略部を横軸とすると、縦軸に戦略推進部の医療研究課や難病研究課などを組み込んだ=イラスト。「これによって各部・各課の研究を交差させ、活気ある研究を目指す」という。さらに医薬品、医療機器の研究・開発のプロセスにPD(プログラムディレクター)という目利き役を配置して、スムーズな開発を支援していく点だ。PDの下にPS(プログラムスーパーバイザー)やPO(プログラムオフィサー)を配置して事業運営を行う予定だ。

 末松氏は座右の銘に慶応義塾の福沢諭吉の「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」という格言を挙げる。

 「止まっていると、そこにとどまることはできず後退してしまう。常に前進あるのみという意味で、医学生たちにもこのことをしばしば説いてきた」。この言葉を胸に秘めて日本の医療発展のために邁進(まいしん)する覚悟だ。

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【プロフィル】末松誠

 すえまつ・まこと 千葉県立千葉高から慶応大医学部へ。慶大で内科医として8年勤務。米カリフォルニア大サンディエゴ校応用生体工学部に留学の後、慶大医化学教授を経て平成19年、医学部長就任。専門はガスバイオロジー研究。

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 医療・健康情報の総合サイト「産経health」http://www.sankei-health.com

 次回掲載は3月下旬を予定

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