リクルート、わずか10年で海外売上比率3.6%から55.5%へ。次々に成長事業を生む実力に「死角」はあるか

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リクルートホールディングス(以下、リクルート)は2022年3月期の決算で、「前年比125%増」と驚異的な水準となる当期利益を計上しました。

(出所)リクルート有価証券報告書および決算短信より筆者作成。

前回は、この好業績に最大の貢献をしたのが「HRテクノロジー事業」であることを見てきました。

図表4

(出所)リクルート有価証券報告書および決算短信より筆者作成。

リクルートの3事業の残る2つである人材派遣事業とメディア&ソリューション事業と比べると、HRテクノロジー事業のEBITDAマージン(キャッシュ創出力を示す指標)の高さは際立っていることが分かります(図表3)。

(出所)リクルート有価証券報告書および決算短信より筆者作成。

HRテクノロジー事業の強さの秘訣はどこにあるのか——これが前回積み残した疑問でした。そこで今回はまずこの点について分析を進めていくことにします。

Indeedが「求人版Google」と呼ばれる理由

リクルートのHRテクノロジー事業は主にIndeed、Glassdoorで構成されます。

なかでも一番の主力サービスがIndeedです。Indeedはもともと2004年に設立されたアメリカの会社ですが、2012年にリクルートが1000億円もの金額で買収しました。

なぜそんな思い切った買収を決めたのか。そこには、当時のリクルートのグローバルにおけるM&Aの戦略が大きく関係しています。

リクルートは2000年代に海外進出を進めたものの、うまくいかず撤退を余儀なくされるという苦い経験をしています。そこで2010年以降は、海外進出をする際にM&Aを軸足に置くようにしたのです。

つまり、まずは海外の企業に対して少額出資をしながら海外進出の可能性を検証し(フェーズ1)、見込みありと判断したら大型買収をして一気に成長を加速させる(フェーズ2)、という2段構えの戦略です(図表4)。Indeed買収は、まさにこの戦略に沿って行われたものでした。

(出所)リクルート「2015年3月期 第2四半期 決算説明資料」p.13より。

Indeedで何より便利なのは、検索するだけなら会員登録は不要という点。Indeedが「求人版Google」と言われるゆえんです。

多くの求人サイトは会員登録をして初めて求人情報を見られますが、IndeedはGoogleで検索するように、キーワードを検索窓に入れるだけで簡単に求人情報を調べられます。もちろん、実際に求人に応募をするとなれば登録は必要ですが、それでも求職者にとっての利便性はかなり高いです。この利便性がユーザーに広く受け入れられました。

加えて、コロナ禍の影響を受けてアメリカを中心に「大退職」と呼ばれるほどの人材の流動化が起こり、人手不足に陥った企業の間で人材獲得競争が過熱するなど、外部環境でも大いに追い風が吹きました。

その結果、HRテクノロジー事業の売上収益は2022年3月期に91.6%増収(米ドルベース)、調整後EBITDAも約4.4倍と大躍進(※1)。いまや月間ユニークビジター数は2.5億人、Indeedに登録されている履歴書の数は2.25億人、評価と口コミ数は6億件以上と、グローバルで圧倒的な数字を誇るまでになりました。

Glassdoorでもう一段の成長を狙う

HRテクノロジー事業のもうひとつのサービスであるGlassdoorについても簡単にご紹介しておきましょう。

Glassdoorは2007年にこちらもアメリカで生まれた会社の口コミサイトで、求人情報やユーザー投稿による匿名の企業レビューなど独自のデータベースを持っています。企業の給与水準や職場の雰囲気など、採用面接の場ではなかなか面と向かって聞けないような内情も知ることができるため、アメリカの求職者の間では非常に重宝されています。

リクルートは2018年当時、Indeedの貢献で育ったHRテクノロジー事業をもう一段拡大させる戦略を掲げていました。その一環として、Indeedとも相性のよいGlassdoorを2018年に12億ドル(当時のレートで約1300億円)で買収することにしたのです(※2)。

リクルートが買収した当時のIndeedの売上高は60〜70億円ほど、Glassdoorは180〜190億円程度でしたが、この2つのサービスが牽引するHRテクノロジー事業の売上高は、いまや8000億円に超えるまでに成長しました

HRテクノロジー事業の成長ドライバーとは?

では、HRテクノロジー事業はなぜこれほどまでに成長できたのでしょうか?

先ほどお話しした「会員登録をせず気軽に求人情報を検索できる」という点は、個人ユーザー(求職者)から見たときのメリットですが、Indeedは求人を出す企業側にとっても利便性の高いプラットフォームです。どういうことか説明しましょう。

一般的に求人サイトというと、よく目にするのがエージェント型のビジネスモデルです。

エージェント型とは、転職エージェント企業のサイトに登録し、エージェントと面談をしながら希望する会社を紹介してもらい、実際に転職が成立すればその求職者の年収の25〜35%程度を企業が転職エージェントに支払うというもの。これは、何よりリクルートが長年得意としてきたモデルでもあります。

この従来のエージェント型に加えて、最近増えているのがWantedlyのような広告掲載型です。広告掲載型は、企業が作成した求人募集ページに求職者がアクセスし、求職者と企業側が面談をして転職を決めるというものです。

広告掲載型はいわゆるサブスクリプションモデルになっていて、求人を掲載する企業は、広告掲載期間に応じて毎月数万〜数十万円をプラットフォーム提供企業側に支払います(ちなみに、このモデルでは成功報酬は発生せず、企業側がどれだけ人材を獲得しても掲載費用以上の費用はかかりません)。

これらに対して、Indeedが採用しているのはクリック課金型です。つまり、検索でヒットした企業の求人情報がどのくらいクリックされたかに応じて、企業側がIndeedに費用を支払うというものです。

企業側にとっては、クリック課金型なら無駄な費用の支払いが発生しないので効率がよく、Googleの検索エンジンにおけるリスティング広告のように、Indeedに追加課金すれば検索結果を上位に表示させることも可能です。

リクルートの出木場久征CEOは『日経ビジネス』の取材に対し、現在のクリック課金における採用コストは、1採用あたり給料の1%未満程度という趣旨の発言をしています。これは、求人を出す側にとってはかなり安いコスト水準と言えます(※3) 。

こうした理由から、Indeedは個人ユーザーにとっても求人を出す企業にとっても魅力的なプラットフォームになり得ているのです。

加えて、ここ数年のコロナ禍の労働環境が追い風になったことは言うまでもありません。

コロナ禍では急激に景気が冷え込み、労働の需給に大幅なギャップが生まれました。そこへ、検索エンジンだけでなくSEOも強いIndeedが求職者と企業とをマッチングさせたというわけです。もちろん、このSEOにはGlassdoorが得意とする口コミも大きな役割を果たします。IndeedとGlassdoorは2020年にパートナーシップ契約を結んでおり、これでアメリカのオンライン求職者の実に80%以上にアクセスできるようになったそうです (※4)。

HRテクノロジー事業は今後も成長するか

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