vol.31 昭和50年ニューミュージック誕生（1/3） - 振り返る昭和 - 地球発

週刊昭和第31号は2009年6月30日発売。定価580円（税込み）

高度成長が終わり、学生運動も過去形で語られ始めた昭和50年（1975）、歌謡曲でもフォークでもない、それまでにない新感覚のポピュラーミュージックが生まれた。

荒井由実、小椋佳、中島みゆきの世界

文：富澤一誠（音楽評論家）

「ニューミュージック」という言葉が使われ始めたのは昭和50年のことだが、その頃、この言葉には二つの意味合いがあった。ひとつは、荒井由実（現・松任谷由実／ユーミン）、*ティン・パン・アレーなど新しいタイプのアーティストが出現したことで、それまでのロック、フォークという言葉ではくくりきれなくなったので、それらに対して“新しい音楽”ということで、「ニューミュージック」という言葉が使われ始めた。もうひとつは、吉田拓郎、井上陽水らのフォークから、新しく出現した荒井由実などの全部をひっくるめて便宜的にいう「ニューミュージック」である。

ニューミュージックといっても、前者と後者とでは意味がまるで異なっているが、一般的にニューミュージックという場合、後者の意味で使われている。つまり、昭和49年まではフォークと呼んでいたものを、昭和50年以降はニューミュージックと呼ぶことになったのである。

ユーミン登場の衝撃

荒井由実学園祭でも人気
学園祭シーズンにはあちこちの大学から引っ張りだこ。エネルギッシュな動きとボーカルに魅せられ、フィナーレになるとファンがステージ前に殺到した。昭和50年11月、愛知学院大学で

ユーミンの出現は衝撃的だった。いや、正確には「異質だった」といった方がいいだろう。なぜなら、ユーミンが「ひこうき雲」（昭和48年11月5日発売）でアルバムデビューした頃は、女性シンガー・ソングライターといえば五輪真弓が代表的な存在で、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルふうの少しばかり自分の内面を表現する歌が主流を占めていて、ポップな感覚にあふれた、しゃれたセンスのユーミンの音楽は、それとは百八十度も違っていたからだ。

「五輪さんの歌は自分のことを考えながら歌にしているので、聴きながら考える音楽といえるけれども、私のは全然違うのよ。聴きながら考えるっていうよりも、軽く聴けるというか、イージーリスニングかな」

ユーミンは当時そう語り、自分の音楽は生活派フォークとは違うということを明確にするために、自らの音楽をイージーリスニングと規定した。ユーミンの音楽は、四畳半フォークと両極端をなすポップスだった。

そのポップスがユーミンの出現により初めて一般にも認知されたことで、フォークとは違う新しい道が切り拓かれ、新しいタイプのシンガーが登場する突破口が開かれたのだ。その突破口から飛び出してきたのが小椋佳、中島みゆきである。

ブームを生み出した個性

小椋佳初めてマスコミ登場
布施明が歌う「シクラメンのかほり」が大ヒットし、一躍有名になった小椋佳は、それまでテレビやステージに登場していなかったが、昭和51年10月にテレビ初出演した

小椋佳は昭和50年4月に、勤務する銀行の研修のために渡米した。彼は渡米する直前、布施明のために「シクラメンのかほり」を書いた。同時に、彼自身のシングル用に「旅仕度」をレコーディングした。そして、彼は渡米した。ところが、彼の留守中に布施明の「シクラメンのかほり」は大ヒットし、それに引っ張られるようにして「旅仕度」もヒットチャートを上昇したのだ。

特に「シクラメンのかほり」はミリオンセラーとなり、昭和50年の日本レコード大賞を受賞した。これによって、この曲の作詞作曲者である小椋は注目された。だが、その注目のされ方が尋常ではなかった。なぜなら、彼にはシンガー・ソングライターとは別に、第一勧銀の銀行マンという“素顔”があり、二足のわらじをはいた“サラリーマンの星”と英雄視されたからである。

中島みゆき
受賞の半年後に早くも「週刊朝日」（昭和51年4月23日号）の表紙モデルになった

中島みゆきは昭和50年11月に行われたヤマハ音楽振興会主催の第6回世界歌謡祭に参加し、自ら作詞作曲した「時代」でグランプリを受賞した。この世界歌謡祭で、実に印象的なシーンがある。

グランプリ受賞者にはグランプリ曲の再演がある。ふつうこの場合は、ゴールドメダリオンを首にかけて本番の演奏をそのまま再演するのだが、そのときの彼女は違った。バックのバンドとオーケストラを制して、生ギター一本だけを持って、弾き語りで「時代」をうたったのだ。これが感動的で印象的だった。

「時代」は昭和50年12月21日に発売され、ヒットした。こうして、彼女はプロとして華々しく歩み始めた。しかしながら、彼女に悲しい出来事が訪れる。「時代」がヒットしているさなかに、彼女の愛する父が逝ってしまったのである。娘の晴れ姿を見ることなく……。それだけに「時代」は彼女にとって大切な歌なのだろう。

荒井由実、小椋佳、中島みゆきという強烈な個性が相次いで出現したことにより、ニューミュージックは“ブーム”の様相を呈していくのである。