在学生の声

三浦 瑠麗(国際公共政策コース)

1. なぜ公共政策大学院を志望したか?(なぜ、現在所属するコースを選んだのか?)

 わたくしは、東京大学の農学部を卒業して本大学院に入学した。農学部時代には地域環境工学を専攻し、卒業論文では環境法の判例を研究し、土地改良事業に今後求められる「環境」の視点を提供した。環境問題は自然科学と社会科学の両方にまたがる分野であるが、研究を進めるうちに環境問題を現実的に解決したいと思うようになり、政策に対する関心が芽生えた。その過程で、環境問題とはすなわち政治であると考えるに至った。また、政治一般に関心があったことから、法学・政治学、経済学の基礎を大学院で勉強したいと思い、本大学院を志望した。

2. 入学前と現在で、 公共政策大学院のイメージはどう変わったか?

 文科系の教育が始めてだったことから先入観は薄かった。理系出身の入学希望者にとっても特にハンディはないが、受験前に法学と政治学、ないし経済学の基礎を自習しておくことは大いに助けになろう。入学してからは、なるべく自らのオリジンを理由に境界を設けずに広く興味関心のあるところを勉強するのが良いと思われる。

 学生同士の議論は非常に活発で、時折わたくし宅でオーバーディナーやオーバーランチの議論を催しているが、時に深夜に及ぶ。大学院の雰囲気が予想以上に和気藹々としたもので、交流が盛んであったことは院生活に大いにプラスになった。

3. 公共政策大学院の魅力とは何か?

 「公共政策」を勉強する大学院を創るということは、大きな可能性を秘めている。公共政策大学院は、「スクール・オブ・ガバメント」よりも広い意味である。まず、わたくしが所属する国際公共政策のように、一国の外交のみならず国際機関などにまで照準を広げられる。次に、ある意味で「パブリック」なジャーナリズムの世界や、日本ではまだまだ発展しきっていないが、日々知的集積を行い政策に対案を出していくシンクタンクなど、すべての政策を考える職業を包含しうる。

 日本は、政治や経済、社会問題に関する市民的議論の質が低いといわれてきた。公的なるものと私的なるものの中間層が欠落しているとも解釈できる。官主導の日本の行政システムは審議会等を通じて有識者の意見を取り入れてきた。しかし、本来パブリックディベートとは、シンクタンクなどに代表される民間が積極的で野心的な対案を提出していくことで官と民との緊張関係が生まれ、政策がよりよいものになっていく過程を指すものであって、本大学院はそのような人材こそを輩出していかねばならない。その意味で、今まで余り日本においては試みられることの少なかった野心的な課題に本大学院は取り組んでいるといえる。

 もうひとつの魅力は、学問が専門化し、分野が細分化していく今日において、少なくとも社会科学における学問的基礎をきっちりと学べることである。現在、学部における授業はマスプロが多く、ゼミも教員と学生の比率からいってせいぜい一学期にひとつしか取れないのが現状であろう。学生も多様な進路希望を抱いており、資格のために民間の塾に通うなど授業主体でない場合も多い。ところが、本大学院は公共政策に興味関心を持つものが集まっており、ゼミが果たしている役割は大きい。教員と生徒の比率からいっても、ゼミをいくつもとることができるし、授業も学部と併合の授業以外はマスプロでない。要は、生徒も授業を構築していけるのである。その意味で、一期生であったわたくし達の責任は重かったが、参加し甲斐があった。事例研究は主にゼミ形式で行われるが、取得要件を超えてわたくしは4科目 16 単位履修し、非常に勉強になった。事例研究以外にも、ゼミに近い形式のものが多い。細分化された学問専攻をせず、論文が必須でない大学院であるものの、教養の基礎が広いために、実際は非常に負担が重いので、覚悟が必要である。リサーチペーパー制度もあり、単位のみならず何かを残したいという人にはお勧めである。

4. 現在主に取り組んでいることは何か?

 現在は、修士論文に相当する研究論文を執筆中であり、藤原帰一先生の下でご指導を受けている毎日である。昨年度は茂田宏先生のご指導の下シビリアンコントロールに関するリサーチペーパーを書き、それが結局研究論文の論考を深めるきっかけとなった。単位の履修要件が厳しいので、基幹法律科目を冬学期に 1 コマ残しているが、あとは政軍関係の論文に専念するつもりである。ほかには、公共政策大学院生という立場を生かしてなるべく専攻に囚われず雑誌投稿用のペーパーを定期的に書くように心がけている。谷口先生の政治学 I のゼミでは、書評を最終課題としておられ、最終的にいくつかは『日本政治研究』に掲載可能であるし、茂田先生の外交政策ゼミや藤原先生・船橋先生の国際政治ゼミを始め、最終成果物として論文集を作っているゼミもある。

 学生の大方は一学年目に 25 〜 38 (上限)単位を平準化して履修し、就職活動のあるものは二年目の夏学期取得単位を減らすようである。研究論文を書くものはごく少ないが、リサーチペーパーを二年目に終わりまでに提出しようという人はそれなりに存在する。無論、法学政治学研究科の修士のように 1 年目に研究を始めることができる人はほとんどいず、単位取得に追われる。しかし、論文を書くためにはなるべく早めにオフィスアワー等の制度を活用して定期的に先生のもとにテーマ設定のために通うほうが良いだろう。

 基本的な生活は、わたくしが家庭を持っているためもあってゼミや論文中心となるが、冬学期は公共政策研究会などをはじめとする勉強会にも参加したし、法学政治学研究科の博士の方々との勉強会にも入れていただいた。多くの学生は、インターンを経験しているし、そのための情報共有もメーリングリストをはじめ多く行われている。

5. 公共政策大学院において今後期待することは何か?

 公共政策大学院が3.で述べたような期待される役割を担っている以上、政策に関する論議を深められる人材を輩出していくことが望まれる。そのためには、さまざまな分野に関するリテラシーをもった人材とするため、基礎学問を強化していくことが望まれる。しかし同時に、多様な背景を持った人がいるので、法・政・経のなかで少なくともひとつは基幹科目に関する履修を応用科目に振り返ることができるなどの制度設計も検討したらよいのではないかと思われる。人材輩出は卒業生がどれだけ努力するかにかかっているので、大学院ができることは限られている。しかし、英語のスピーキング能力を高めることは実際上必要であるし、単位要件が重いために学生の自主性に任せるとなかなか人材の品質保障ができないおそれがある。その観点からは、本大学院が何らかのカリキュラムを組むことは必要であろうと思われる。客観的な大学院の質は、大学院の生産物であるところの卒業生品質保証にかかっているからである。

 また、現在コロンビア行政大学院との学生交流計画が進められているが、留学生を受け入れるのみならず、本大学院生の留学制度を充実させるという方向性は学生の成長のためにも望ましいと思われる。

 これまで、日本の実務家養成システムとは、実務に投げ込まれて OJT システムと言われる実体験によって覚えていくという形をとってきたが、今後必ずしも終身雇用型の職業体系ではなくなっていく可能性が強い。そのなかで本大学院には、政策専門家や高級実務家養成という大きな役割が非常に期待されよう。官僚ひとつをとっても、各国では博士や修士号をもった人材が多い。これからは OJT システムでない実務家養成方法こそが主流となっていくだろう。現在、郵政民営化や道路公団等で政府がかなり積極的に民間の人材を取り入れてきていることからもわかるように、官民を超えた人事交流も増えるであろう。日本社会において、政策に関する有用な人材のプールはぜひとも必要であるし、公共政策大学院はそのような人材養成のための大きな役割を果たしていくことになるだろう。

6. 今後の進路の展望

 わたくしは、現在法学政治学研究科博士課程の国際政治専攻に進学を希望している。本大学院は職業大学院であるが、研究者への進学希望者も何人か居り、論文を執筆してそれが通れば博士課程を受けられるのが特徴である。

 本大学院を志望した際、実務的な関心を持った研究者を目指したいと面接で述べたが、現在もそのような興味を持ち続けている。留学も希望しており、しっかり研究を進めていきたい。

関連項目