英下院、解散総選挙をまた否決 ジョンソン首相は再提案へ

MPs announcing the result of the vote

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画像説明, 解散総選挙の動議は必要な3分の2以上の賛成を得なかった(28日、英下院)

イギリスの欧州連合(EU)離脱をめぐり紛糾が続く英下院(定数650)は28日夜、ボリス・ジョンソン首相が提出した12月12日に解散総選挙を行う動議を否決した。299対70の賛成多数だったものの、野党議員の大半が棄権したため、解散に必要な3分の2(434票)の賛成は集まらなかった。

ジョンソン首相はこれを受け、単純過半数で解散総選挙が認められるようにする法案を提出する方針。ただし、今の保守党は少数与党のため、次の投票で過半数を得るにはなお、野党の自由民主党やスコットランド国民党(SNP)の支持を取り付ける必要がある。

ジョンソン首相は下院で、今のイギリス議会は「機能不全」に陥っており、「これ以上この国を人質にし続ける」ことは許されないと主張し、事態打破には解散総選挙が必要だと訴えた。

28日の投票では保守党議員全員が賛成票を投じたほか、無所属議員18人も支持。最大野党・労働党は、首相が信用できないと反発し、201人の議員が投票を棄権し、38人が反対票を入れたものの、1人が賛成に回った。

SNPと北アイルランドの民主統一党(DUP)は全員が棄権。自由民主党からは18人が反対し、1人が棄権した。

EU離脱期限の延期を承認

ジョンソン首相はこの採決の前に、ブレグジット(イギリスのEU離脱)期限を2020年1月31日に延期するというEUからの提案を受け入れた。

これに伴い、政府は「合意なし離脱」が引き起こすかもしれない様々な不測の事態に備えて発動していた「イエローハマー計画」を、いったん中断した。さらに、10月31日の離脱に備えるよう国民に呼びかける、予算1億ポンド規模の「ブレグジットに備えよう(Get Ready for Brexit)」キャンペーンも中断した。

EUは28日午前、ブレグジットの「フレクステンション(柔軟な延長)」を認めると通達。これにより、イギリス議会が離脱期限までに離脱協定を承認すれば、その時点で離脱が可能となる。

首相はかねて、EUとの合意のあるなしに関わらず、この日までに離脱を決行するとたびたび公約し、それができなければ「溝で野たれ死んだ方がまし」と発言していた。

しかし、イギリス議会が合意なし離脱を回避するための通称「ベン法」を可決したことで、ジョンソン首相はEUに離脱期限の延長を要請することを義務付けられていた。延期を要請するEU高官への書簡の中で首相は、延期要請は議会に強制されたもので「欲しくないものだ」と書き添えている。

総選挙はいつになる?

ジョンソン首相は12月12日の解散総選挙法案を新たに提出する方針。これについて、自由民主党とSNP、DUPなどが支持する可能性を示唆している。

保守党のジェイコブ・リース=モグ下院院内総務は、政府は引き続き12月12日の総選挙を求める法案の審議を29日に終えるよう下院に求めると述べた。通常の法案審議は数日かけて行うものだが、リース=モグ氏はこの法案は「きわめて短く簡潔で範囲も限られている」ため、即日採決が可能だと話した。

ただし下院を通過しても施行されるには、別の日に上院を通過する必要がある。

リース=モグ議員はさらに、ジョンソン首相がEUとまとめた離脱協定案を法制化するために必要な離脱協定法案を、政府が議会に再提出する予定はないと話した。

一部野党は12月9日を要求

政府とは別に、自由民主党とSNPは独自に、12月9日の総選挙を求める法案をすでに提出している。

イギリスでは、議会の解散から総選挙の投票日までに、平日が少なくとも計25日は必要だと定められている。ブレグジット中止を総選挙で訴える方針の両党は、12月9日に選挙を行えば、ジョンソン首相が議会の解散前にEU離脱協定案を承認してしまう事態が防げると主張している。

これに対し政府は、議会解散前にEU離脱協定案を法制化するための離脱協定法案の審議を進めることはしないと示唆した。議会は先に、離脱協定案の審議前に法整備を行うと定めている。

自由民主党とSNPにとって、政府のこの提案は安心材料となる。しかし、政府案に12月12日という期日がある限り、12月9日案を期限までに法律として成立させることは極めて難しいという。

首相官邸は、12月9日の総選挙は日程的に厳しいと難色を示している。12月9日を投票日とするには、総選挙法案を上下両院で通過させた後、11月1日午前0時1分までに女王の裁可を得なくてはならないという理由だ。

このため官邸筋によると、政府法案は自由民主党・SNP案に「非常に似た」ものになるが、ジョンソン首相の心変わりを懸念する議員たちを安心させるため、12月12日という選挙期日を確実に法律の条文に刻みこむつもりだという。

労働党は消極的

労働党はかねて、合意なし離脱が選択肢から除外されない限り、解散総選挙を支持しない構えを見せている。

ジェレミー・コービン党首は政府提出の新法案を詳しく吟味するとしているが、やはり合意なし離脱の除外がなければ支持できないと語った。

党内では支持率の低下に加え、党のブレグジット政策の混乱や、2度目の国民投票を求める声などが錯綜していることから、現段階での総選挙は好ましくないという意見が大半を占めている。

これに対しジョンソン首相は、コービン党首が総選挙を拒絶していることに、有権者は「まったく困惑している」と非難した。