EPISODE3

アレルギーに有効なモウセンゴケを研究
生産方法を開発し花粉症向け創薬にも光を照らす

さらに星准教授が挑み続けているのが、食虫植物の研究だ。特に湿原にのみ生育するモウセンゴケは、アレルギーに効果のある成分を有していることが国内外の研究によって明らかになっている。湿原からの大量採取により、個体数が激減している状況の中で求められるのが、高効率に生産できる品種の選定および生育環境の開発であり、植物工場ベースで大量生産するための技術開発だ。また、湿原の再生システムや技術を核に、薬用物質生産とその大量増殖技術についても追究している。

ちなみに食虫植物のモウセンゴケ科には、北半球広域に分布し伝統的に薬用利用されていた「モウセンゴケ」、オーストラリアや東南アジアの南北にかけて自生する「コモウセンゴケ」、さらに日本の東海地域を中心に分布する「トウカイコモウセンゴケ」の3種類がある〔図:2参照〕。モウセンゴケはぜんそくを抑える植物として古くから知られていたが、近年の研究で花粉症やアトピーなどアレルギー性炎症を抑制する物質が含まれていることがわかっている。
「私たちの研究グループは、日本にのみ自生する『トウカイコモウセンゴケ』について研究し、アレルギー抑制効果が他の2種類より高いことを突き止めました。さらにゲノム構成と染色体構造に関して研究を行うと共に、ミズゴケ用に開発した人工栽培技術を応用できれば、大量増殖も可能となり花粉症などに悩む多くの人々を助けることができるかもしれません。つまり、新薬開発や医療の向上に貢献することも十分可能と思っています」。

ところで、星准教授によれば「食虫植物は文字通り虫を食べる植物と書き、一見残酷に見えますが、実は光合成を主に生きており、ハエなどを食べるとむしろエネルギーを失い徐々に枯れていきます。ただ自分が枯れながらも土壌には多様な養分を残す。自らが死んでも土壌を豊かにし、子孫と共に周囲の草花も守るわけで、自己犠牲の精神に富んだ愛すべき存在なんです(笑)」とのこと。

人と同じで、植物も外見で性格を決めつけることはできない、ということなのだろう。
「やはり生物は多様であってこそ互いに補完し合い、環境にも良い影響を与えます。希少種を残し、大切に育てていくことが、未来の良き環境につながっていくと思いますね」。

一方、ポーランドで行ったキュウリに関する研究については、ヨーロッパとの共同研究チームの一員として、ゲノム関連研究を継続。かつて留学したワルシャワ農業大学との国際交流も続いており、2011年にはピクルスタイプのキュウリゲノム解読ドラフトの公開に携わり、その成果は国際学術誌にも発表された。阿蘇キャンパスの学内農場にはキュウリやメロンなどウリ科のビニールハウス(実習温室)もあり、学生たちが星准教授からキュウリの特徴や栽培方法について学ぶ姿もあった。
「キュウリの種は何年でも保存でき、研究対象にはとてもいい植物です。これまでおいしいキュウリは病害に弱い面がありましたが、ゲノム解読された遺伝子をさらに細かく究明し、おいしくて病害に強いキュウリの開発など新たな育種の可能性を模索していきたいと思っています」。

図2:モウセンゴケ科に属する3種の特徴

図2:モウセンゴケ科に属する3種の特徴

ぜんそくなどを抑える効果があるとして、主にヨーロッパで伝統薬に利用されている食虫植物モウセンゴケは、近年、そのアレルギー抑制効果に注目が集まっている。しかし一方で、薬用目的で大量に採取されることで数が激減するという問題も発生。そこで、この代替材料としてコモウセンゴケと近縁であるアフリカに自生する種が大量に採取されている。

しかしながら代替材料種は、抗アレルギー効果があまりないことが 1)ヒトマスト細胞を用いた試験 (花粉症やぜんそくといったアレルギー疾患に関わるヒトマスト細胞は、その細胞形態が変化し樹状突起をもつことで炎症反応をおこすようになる。この樹状突起の形成を確認することで、投与した物質がアレルギーの炎症を抑制するか調べることができる。)2)ヒトアレルギー関連遺伝子のマイクロアレイ試験(ヒトのアレルギーに関連する200個の遺伝子〈DNA〉がチップ上に固定され、これを用いて発現している遺伝子の解析を網羅的に行うことができる)によって明らかになった。

これに対し、モウセンゴケとコモウセンゴケの雑種起源として近年新種発表されたトウカイコモウセンゴケは、上記試験によりモウセンゴケ以上にアレルギーの抑制効果があることがわかった。

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