正論

成立「安保法制」 安保の歪み正した首相の指導力 杏林大学名誉教授・田久保忠衛

 ニクソン米大統領訪中の前に準備の話し合いで、キッシンジャー大統領補佐官が北京を訪れたときに周恩来首相と会談した内容が記録されている。その中でキッシンジャー氏が「私が中国と日本を社会として対比するとしたら、中国には伝統に由来する普遍的な視点があります。しかし日本の視点は偏狭です」と持ちかける場面がある。周恩来氏は「彼らは島国の集団ですね」と応じている。

 長時間にわたって多大なエネルギーや費用を使って審議した安全保障関連法案をめぐる国会内外の騒ぎをみていると、残念ながら2人の日本観察はほぼ当たっていると考えないわけにはいかない。

 ≪奇妙な意見がまかり通る日本≫

 安全保障関連法成立までにどれだけの空理空論が全国的に繰り返されたか、出るのはため息だけだ。反対デモに参加した学生たちの前で著名な元国立大学教授は「安倍(晋三首相)に言いたい! お前は人間じゃない! たたき斬ってやる」と述べたそうだ(産経新聞9月11日付、中宮崇氏のコラムiRONNA)。知識人としての枠をはみ出している。

 この人物に限らず、国会審議における野党の質問、「暴力」、一部の新聞、テレビには、世界とりわけアジアで軍事力を背景に現状を変更して憚(はばか)らない中国と、それを阻止できる実力を蓄えている唯一の国、米国の指導力低下という地殻変動が生じており、その間にある日本がいかに生き延びていくか、という戦後最大の局面に逢着しているとの意識はない。

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