利用

501   散水によるマツタケの増産効果
    —長野県諏訪市マツタケ山の事例調査から—

            竹内嘉江(長野県林総セ)
 標高1,270mの試験地内で沢水をポンプアップしてマツタケ発生地へ散水する試験を行い、5年間調査したところマツタケ子実体個重の平均値で39%重くなるのが認められた。 連続した尾根部で20×20mのプロットを散水区と対照区の2区設定して、170〜910トン(降水量換算値213〜1,138mm)の散水を行った。収穫した子実体の5年間の平均値で、散水区では44本、個重157g、総重量5.36kg、対照区では41本、個重113g、総重量3.59kgとなり、散水することにより子実体個重が重くなる効果が認められた。子実体発生本数については、既存のプロット内シロ密度に差があり、発生にバラツキが多いため散水効果は明確にならなかった。



502   ヒラタケの育種と栽培方法について
      
                西井孝文(三重県科技セ)
 三重県では、昭和40年代半ばより、松阪地域を中心にヒラタケのビン栽培が盛んに行われてきたが、ブナシメジの進出とともに、軟らかく日持ちの悪いヒラタケの需要が低迷し、ピーク時には2,500tあった生産量が現在では200t近くに落ち込んでいる。しかしながらヒラタケは、産地が限られていることもあり未だ根強い需要があり、他のきのことの差別化が可能な、大型で日持ちの良い品種の開発が望まれている。
 そこで、林業研究部および生産者が保存しているヒラタケ菌株について、ビン栽培による発生試験を行い、優良系統として選抜したヒラタケ800号、F系統を親株に、栽培系統であるヒラタケ500号との交配株を作出し、大型で硬く、比較的発生量の多い6系統を選抜した。
 この中で、原基形成の遅いF-8005、F-5002の2系統について2.5㎏培地による菌床袋栽培を行ったところ、継続発生により1菌床当たり700gを超える発生が認められた。



503   植繊機処理したモウソウチクを利用したきのこ栽培

           ○門屋健(愛知県森林セ)・伊藤憲紀(環境ビオス)・平田和男(神鋼造機)
 昨年度の本大会で演者らは、植繊機でオガ粉化したモウソウチク、スギ樹皮がエリンギ培地基材として利用可能であることを報告した。今回、モウソウチクをヤナギマツタケ、シイタケ、ナメコに適用して利用可能性を検討した。その結果、ヤナギマツタケでは、モウソウチクを対照区のオガ粉(スギ、コナラ混合)と25%、50%、75%置換した試験区で、対照区と同程度の子実体収量が得られた。ナメコの場合は、モウソウチク単体では1回目の発生で対照区に比べ収量の低下が見られたが、2回発生との合計ではどの置換区も対照区と同等か上回る収量であった。一方、シイタケでは、25%置換区では対照区との差はなかったが、50%置換区では対照区の8割程度の子実体収量となった。このことから、モウソウチクはヤナギマツタケ、ナメコ菌床栽培の代替資材となると考えられ、シイタケについては、一部置換による利用可能性が伺えた。



利用

504   三重県内のハタケシメジ菌床栽培施設における真菌汚染問題

           ○川村幸充(三重大生資)・西井孝文(三重科技セ)・松田陽介・伊藤進一郎(三重大院生資)
 ハタケシメジ菌床栽培において、雑菌混入が見られた菌床は子実体発生処理が行われず廃菌床とされるため問題となっている。しかし、その問題に関与する真菌類に関する報告はほとんどない。そこで、本研究では、真菌によるハタケシメジ菌床栽培における雑菌混入問題に関与する真菌の分類属性を明らかにすることを目的とした。三重県桑名市、度会郡、松阪市の3施設において、目視により栽培過程における雑菌の混入の有無を判別し、汚染された菌床78個と対照菌床16個を実験室に持ち帰った。前者の菌床では雑菌混入部位、後者の菌床ではハタケシメジの菌糸体蔓延部位をそれぞれPDA平板培地に移植し、25℃暗条件下で7日間以上の培養を行った。得られた菌株の菌叢形態を記録するとともに、スライドカルチャー法による胞子や分生子柄などの観察を光学顕微鏡で行った。以上から、ハタケシメジ栽培に汚染被害を及ぼす菌種を推定し、その生息実態について考察する。



505   簡易レールによる間伐材収穫システムの開発
    -路網開設による伐出との比較検討-

  ○古川邦明(岐阜県森林研)・陣川雅樹・山口浩和・中澤昌彦(森林総研)・山田容三・近藤稔(名大院生命農)・蓬莱圭司・上田光男(藤井電工)
 急傾斜地での機械化の推進にモノレールが注目されている。最近では,林道等車道と組み合わせた複合路網としての研究もなされている。しかしモノレールは車道と異なり,軌条を走行する車両の汎用性が低い、積み込み作業が困難など急傾斜地での走行性能に優れているにもかかわらず,森林資源の搬出用としてはほとんど使われていなかった。
 そこで本研究では、新たに開発した架設撤去が容易な簡易レールと無人走行モノレールシステムを開発し、急傾斜地の間伐での実証試験と、従来の集材路と林内作業車による作業システムとの比較検討を行い、モノレールによる間伐材生産システムを構築してきた。その成果について報告する。



506   間伐材の搬出方法に関する現状と課題
  -長野県下伊那地域を事例として-

          ○田中君祐・井上裕・植木達人(信州大農)
長野県では森林資源を有効に利用するために、路網整備・団地化など基盤整備を進め、特に間伐材の搬出率を向上させることで健全な森づくりに取り組んでいる。しかし、下伊那地域では間伐実施面積に占める搬出面積は約2割と低く、地域的条件を考慮しながらその特性を活かした搬出率の向上に取り組む必要がある。そこで本研究では、地域森林組合への聞き取り調査や過去の施業実態等の分析により、下伊那地域の搬出間伐のための基盤整備の現状と搬出方法に対する特徴を明らかにし、今後の搬出率向上における課題を検討した。その結果、当地域では小規模所有者の割合が低いが、急峻な地形により林内路網密度が低く基盤整備が進みにくい傾向が見られた。そのため、搬出方法では架線系の占める割合が多く、搬出コストを押し上げていると予想された。搬出率向上を図るためには、急峻な地形に合わせたより簡易的な作業路網の整備を行い、小型の林業機械を活用した集材方法が必要と考えられた。

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507   森林施業とニホンジカによる剥皮被害との関係
    -—間伐、列状伐採後の林分において-


          ○水藤友紀・石川知明・板谷明美(三重大院生資)
 滋賀県甲賀市および日野町のスギ・ヒノキ人工林を対象に、ニホンジカによる剥皮被害の発生と森林施業との関係を解明することを目的とした。未間伐、間伐後、枝打後の各林分に斜面方向50m、幅5mの方形プロットを設定し、立木位置、剥皮の有無、林床植生、糞粒密度を調査した。被害率と、剥皮痕の巻込み度合から被害を受けて間もない被害木の全立木に対する比率(以下、新規被害率)を算出した。結果、被害率は未間伐より間伐後、枝打後の林分で高く(p<0.01)、新規被害率は未間伐より間伐後の林分で高かった(p<0.05)。糞粒密度は間伐後で有意に高く(p<0.01)、新規被害率と植被率の間に正の相関(r=0.71、p<0.05)が認められたため、間伐による林床植生の繁茂がニホンジカの生息密度を増加させ、新たな被害を発生させたと考えられた。



508   東白川村森林組合におけるフローリング流通・加工システムに関する研究

          ○宇野暁紀・山田容三(名大院生命農)
 近年、地域材利用拡大を目的として、FSC森林認証をツールとした地域連携を実施する例が見られる。こうした連携の多くでは、柱材や産直住宅などの既存製品を扱っており、既存製品以外において流通・加工システムを形成したという例は見られない。
 そこで、本研究では、新たにフローリング流通・加工システムを形成しつつある岐阜県加茂郡東白川村を対象とし、本システムが新たな事業展開となりうるかを検討するために、以下の調査をおこなった。①地域連携により生じた効果を把握する。②素材流通量とコストの面から現状を把握する。③問題点を挙げ、今後の課題を検討する。
 東白川村森林組合および本システム参加企業へ聞き取り調査をおこない、上記の点を検討した結果、本システムでは、森林資源量・フローリング販売量・利益という3つの点において課題が存在することが明らかになった。



509   作業道盛土法面におけるササの自然発生による早期緑化の可能性について

              ○山岡直樹、松本武(岐阜県森文ア)杉山正典、横井秀一、古川邦明(岐阜県森林研)
 近年、木材生産低コスト化の要請の高まりに伴い、壊れにくく低コストの作業路を開設する手法が普及し始め、全国的に広く実践されるようになってきた。その手法の中に盛土法面の支持力強化と路体維持を図る表土ブロック積み工法がある。開設時に有機質を含む地山表土を転圧しながら盛ることで、崩壊しにくく早期緑化が可能な路体を作設するものであり期待されている。一方、在来工法においても県内の林床にササが発生する地域では、開設直後から盛土法面にササが繁茂する現象が見られた。
 そこで、本研究では、作業路盛土法面のササの発生状況(被覆率、密度)を調査し、自然植生を利用したササ植生による盛土法面早期緑化の可能性について検討した。

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510   作業路における土砂移動の実態について

            ○松本武・山岡直樹(岐阜県森文ア)・杉山正典・横井秀一・古川邦明(岐阜県森林研)
 林業生産・森林管理において林内道路網は不可欠の基盤施設である。この林内道路網の中でも,近年,作業道・作業路についてはその重要性が改めて認識され,森林作業の低コスト化のためには不可欠の基盤として非常に注目されている。岐阜県においても昨年度より「新生産システム事業」,本年度より「健全で豊かな森づくりプロジェクト」に取り組み,作業路網の整備と機械化によって低コスト木材生産に重点的に取り組んでいる。一方で,制約・規制条件等は林道に比べ非常に低い基準となっているために安直な施工による山地の荒廃を懸念する声もある。こうした状況下で,環境に負荷をかけず災害に強い作業道・作業路開設のための技術指針を求める声は多い。
 本研究では,環境に調和した作業路網開設のガイドライン作成のための調査研究の一環として,新規に開設された作業路を対象に,路面上,切土法面,盛土法面における土砂移動の実態について調査したので報告する。



511   作業路網計画支援ツールの作成

             ○ 松本武(岐阜県森文ア)・古川邦明(岐阜県森林研)
 近年,高密作業路網の開設と機械化による施業集約化・林業生産の低コスト化に取組事例が増えつつある。このためには,作業システムに合わせた路網配置計画を行う必要があり,路網計画理論では,コストミニマム方式もしくはMatthews方式よりも集材方式が道路間隔を決定するという中欧方式もしくはPestal理論が中心的な考え方となる。この考え方では集材距離もしくは開発率といった概念が非常に重要な指標となる。しかし残念ながら,研究分野では平均集材距離という指標はごく当たり前に扱われているが,実際の林業生産の現場では路網の指標としての平均集材距離や開発率は必ずしも一般的な指標ではない。
 今回,都道府県の普及担当職員,森林組合の職員を主なターゲットとして基本図上での長さの計測,面積の計測,平均集材距離や開発率の計測機能を実装し,路網計画の支援を行えるツールを開発したので報告する。



512   三重県津市の都市近郊林における竹林の分布

            ○恒川浩一(三重大生資)・板谷明美・石川知明(三重大院生資)・村山顕人・清水裕之(名大院環境)
燃料革命や人々の生活様式の変化によって、さらに低価格のタケノコの輸入や労働力不足によって、多くの里山や都市近郊の竹林が放置されている。これらの放置竹林は分布域を拡大しており、様々な環境への影響が懸念されている。また、里山や都市近郊林の景観の変化や公益的機能の低下をもたらす可能性、さらに、土砂災害の危険性も指摘されている。そこで、本研究では広域の竹林整備を効率的、効果的に行うための管理計画モデルを立案することを目的に三重県津市の都市近郊林における竹林の分布を調査した。自然環境情報GISの植生データからモウソウチクを1/25000地形図上にマッピングし、それをもとに現地調査を行ったところ、自然環境情報GISの植生データ上では示されない多くの竹林が存在していることが明らかになった。竹林の広域的な分布を明らかにするためには、空中写真や衛星画像などのリモートセンシングデータを使った解析が必要であることがわかった。

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513   子供たちの身近な森林環境
    -都市近郊林へのアクセシビリティの評価-


            ○ 澤美怜(三重大生資)・板谷明美・石川知明(三重大院生資)・村山顕人・清水裕之(名大院環境)
 燃料革命や生活様式の変化により放置される里山や都市近郊林が増加している。放置されて荒れた里山や都市近郊林は、景観的価値の低下、土砂災害の危険性などに影響を与えると考えられる。一方で、里山や都市近郊林のレクリエーション利用、景観的価値、水源涵養機能などの様々な公益的機能が注目されている。そこで、本研究では、子供たちの森林レクリエーションの場としての里山や都市近郊林の機能に注目し、小学校から里山や都市近郊林へのアクセシビリティを評価した。そして、子供たちの身近な森林環境について考察した。津市北部において自然環境GISの植生データを用いてGIS解析を行なった結果、小学校の1kmバッファ内には森林が少ないことがわかった。しかも、その森林はアカマツ、スギ・ヒノキの人工林が多くを占めていた。



514   森林の音環境と人の心理的効果への影響

           ○政木志帆・北原曜・小野裕(信州大農)・小山泰弘(長野県林総セ)
 保健休養機能の一つとしての森林の持つ癒しの効果については、研究が進みつつある。今後は森林浴を行う環境をとらえ、人との関係を整理する必要がある。これまでに、温熱環境などの研究例はあるが、森林の音環境と人への効果との関係については研究事例が少ない。そこで、森林の音環境と人への心理的効果との関係 を研究目的とした。筆者らはこれまでの調査で、森林内に滞在した場合に、音圧レベルが高くても心理的に「騒がしくない」とする評価が得られた。この原因として、人間の五感として最も大きな感覚とされる「視覚」の影響が大きいと考えられる。そこで、森林内に滞在する被験者を対象として、視覚情報の有無によって、森林内 に滞在する被験者が、「静かな」といった音環境についての心理的評価がどのように変化するのかを検討したので、その結果について報告する。



515   広葉樹天然林と針葉樹人工林における森林散策による生理的効果の比較

           ○井川原弘一(岐阜県林政課)・太田陽子(岐阜県森文ア)
 森林浴には生理的にも心理的にもストレスを緩和する効果があることが,最近の研究の蓄積から証明されつつある。しかしながら,森林タイプの違いによるストレス緩和効果の違いについては,明らかになっていない。そこで,本研究においては広葉樹天然林と針葉樹人工林における森林散策による生理的効果の比較を行った。
 調査は,2006年9月5〜8日に20 代の男子学生10 人(平均年齢21.5±1.0歳)を対象に実施した。測定指標には唾液中のコルチゾール濃度を用いた。広葉樹天然林と針葉樹人工林の散策の直前と直後,比較対照として日常生活においても唾液試料を採取した。
 広葉樹天然林と針葉樹人工林における散策では,散策後の値が散策前と比較して有意に低く,日常生活では,値に差はみられなかった。このことから,森林タイプを問わずに,森林を散策することが,生理的にもストレスを緩和する可能性があることが示唆された。


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516   森林浴効果の季節変化と日変化に関する研究

           ○井賀幸一・山田容三(名大院生命農)
 森林の保健休養効果に対する国民の関心や期待が高まる中、森林浴については心理的・生理的効果が科学的に証明されつつある。今後は、森林浴の効果をいかに高めていくことができるかが課題となる。そこで本研究では、森林環境の季節変化と日変化に着目し、森林浴効果の高い季節と時間帯を明ら かにし、森林浴効果が異なる原因について気象因子等の森林環境による影響を分析した。
 本研究では、春、夏、秋の3つの季節、朝、昼、夕の3つの時間帯で実験を行うことによって、季節や時間帯によって森林浴による心理的・生理的な効果が異なり、高い森林浴効果が期待できる季節・時間帯、森林に入ることでマイナスの影響を受ける季節・時間帯が明らかとなった。今後は、心理的・生理的効果に違 いが出る要因についてさらなる解明が必要である。



517   森林ワークショップにおける生理、心理変化
    —東京都分収林を利用しての事例—

                  上原巌(東京農大)
 東京都高尾の分収林(主に約50年生のスギ・ヒノキ林のほか、広葉樹林)を利用して、16人の参加者を対象に、森林でのリラクセーション、歩道作り作業等の1泊2日のワークショップを行った。ワークショップによる生理変化の指標として、参加者には計13回の唾液アミラーゼの測定、心理指標として、「興奮と緊張」「爽快感」「疲労感」「抑鬱感」「不安感」の5つのカテゴリーからなる気分評価表(坂野雄二 1994)の記入を計7回行ってもらった。調査の結果、休養や作業に伴って、生理、心理変化がそれぞれ認められ、トータル的に休養効果が示された。



518   森林公園を利用した森林療法ワークショップの事例
    —都市部ビジネスマンを対象としてー

              上原巌(東京農大)
 都市部で働くビジネスマンを対象とし、都市近郊の公立森林公園を利用して、リラクセーション、自己カウンセリング、グループワークなどの森林療法のワークショップを行った。参加者は森林での休養を希望する12名。心理指標として、「興奮と緊張」「爽快感」「疲労感」「抑鬱感」「不安感」の5つのカテゴリーからなる気分評価表(坂野雄二 1994)の記入と、ワークショップに対する評価として、自己の悩みや問題、体調の変化などを±2対のそれぞれ4段階で評価をしてもらった。ワークショップの結果、心理的には特に不安感の減少が著しく、ワークショップに対する評価では森林環境下での話し合い、コミュニケーションの活発化などが高く評価される結果となった。

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519   地衣類を指標とした森林保養地の大気汚染度指診断の試み

                  上原巌(東京農大)
 森林環境を利用した健康増進を図る保養地が全国の各地で企画、形成されてきている。しかしながら、その大気環境指標については明確な共通評価項目が作られていないのが現状である。そこで今回は大気中の二酸化硫黄濃度などに敏感なことから大気汚染の指標ともされるウメノキゴケ科(Parmelia)の出現度および被度を、大気汚染を推察する1つの判断尺度とし、長野県内数箇所の森林保養企画地における散策路において、大気清浄度の考察を試みた。