現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. ステージレビュー
  5. 記事

ステージレビュー

「吉本新喜劇」の始まりを内場と千原コンビで描く

2012年10月17日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業拡大吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業

写真:吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業拡大吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業

写真:吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業拡大吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」より=写真提供・吉本興業

 昭和34年に「吉本ヴァラエティ」として民放テレビ局の舞台中継が始まり、今もお茶の間で愛され続けている「吉本新喜劇」。その始まりの物語が、大阪・なんばグランド花月の「吉本百年物語」シリーズで上演中だ。タイトルは「これで誕生!吉本新喜劇」。独特のしゃべりと“間”で笑わせる花紀京と、「奥目の八ちゃん」と親しまれた岡八郎。二枚看板として吉本新喜劇の礎を築いた2人を、吉本新喜劇座長の内場勝則と吉本芸人の千原せいじが演じている。内場とせいじ、見た目もキャラクターも好対照な2人のコンビが光る力作だった。(フリーライター・岩瀬春美)

 幕開けは、落語家で喜劇役者でもある笑福亭松之助本人が登場し、口上を述べた。現在87歳。吉本新喜劇立ち上げの頃に、台本を書いた思い出などを本人が語り、10月公演の背景がぐっと身近に。続いて本作で松之助を演じる金山一彦が登場。狂言回し役で物語の世界へといざなった。

 10月公演の舞台は昭和30年代後半。演芸小屋「うめだ花月」を再開して1年、新たな出し物「吉本ヴァラエティ」の勢いが出始めた頃、吉本興業は自社の芸人を育てようとしていた。人気漫才師、横山エンタツの息子、花紀京は、研究生として吉本入りした岡八郎と出会う。今作は、コメディアンとして駆け出しの2人が、苦悩しながらも良きライバルとして切磋琢磨し、やがて吉本新喜劇の屋台骨を背負うようになるまでを描く青春物語だ。

 内場とせいじが演じる花紀と岡コンビは、自分に無いものを映し出す合わせ鏡のような存在だ。内場は「変な顔も声もない。際立った特徴がない僕が選んだのは『間』でした」と朝日新聞デジタルのインタビューで話していたが、舞台上の花紀も同じようなことで悩み、呼吸と間で笑わせる喜劇役者を目指していた。内場は、サラブレッドと呼ばれることに息苦しさを感じ、父とは違う自分の芸を見出そうと葛藤する「京ちゃん」を手堅く演じた。芝居の筋をきっちりと見せながら、予想外の身のこなしなどでぱっと笑わせ、すぐに引き戻す。緻密な演技は、職人技のようで見事だった。

 対するせいじはオモロイ顔、大きな声、存在自体で笑いを誘う岡を豪快に演じた。その反面、アガリ症で純情という、キャラクターもぴったり。内場が役柄に自身を近づけるように演じていたのに対し、せいじは自分が主体で役を引き寄せているように見えた。舞台では、2人が互いの才能を羨みながらも、自分の武器を見出していく過程が、全く違う空気感を持った2人が演じるからこそ、鮮明に伝わってきた。

 今作では、喜劇女優を目指す白鳥しのぶ(小西美帆)という架空の人物が登場する。しのぶ役の小西は、花紀と岡のマドンナ的存在。キャラの濃い2人の間にいても自然体で演じていた。3人がよく行く喫茶店のママ(末成由美)とマスター(おかゆうた)は、どんな状況でも同じやりとりを繰り返し、ほのぼのと笑いを誘う。おかゆうたと共に、岡八郎氏の弟子だったおかけんたは、演出家の岡崎役で花紀と岡を見守る。

 また、当時の吉本興業が他にはない新しい笑いを模索していたことが、林正之助(島田一の介)や八田竹男(荒谷清水)ら経営陣の会話から分かる。朝日新聞の短期連載(1999年5月)で花紀京はこう書いていた。「当時の吉本は新喜劇に社運をかけてましたから、会社の意気込みは大変なもんでした。ああいう気迫がなかったら、今日の新喜劇はなかったかもしれません」。

 内場は朝日新聞デジタルの単独インタビューで、花紀師匠を演じることの怖さや舞台へのこだわりを、深く語っていた。二大スターと同じ舞台に立ってきたからこそ、今回の役を重く受け止めていた内場。劇中で、花紀が若くして座長に抜擢されたシーンでは、自分たちがこれから作り上げていく気迫が伝わってきた。それは、怖さを乗り越えて「やるしかない」という内場自身の芝居に対する覚悟にも感じられた。

 花紀&岡コンビのうどん屋台での漫才の再現シーンでは、客席が大いに沸いた。当時の映像を何度も見て、花紀の“間”を習得したという内場。酒をめぐって「ぬるいわ」「あつっ」というおなじみのやりとりを繰り返し、その度に客席からどっと笑いが起こった。一升瓶の栓を目元で開ける岡の定番のギャグをせいじが披露すると、客席では「やった、やった!」と手をたたいて懐かしそうにはしゃぐ姿があちこちにあった。「2人ともよう似てるわ」と感慨深げに舞台を眺めている観客もいて、会場は当時にタイムスリップしたような高揚感に包まれた。

 吉本新喜劇の伝説の二枚看板、花紀京と岡八郎の知られざる青春時代を描いた「これで誕生!吉本新喜劇」。キャストたちの熱演が会場内の一体感を生み出し、観客とも呼吸の合った芝居だった。

【内場勝則インタビュー全動画はこちら】

◆吉本百年物語10月公演「これで誕生!吉本新喜劇」
2012年10月7日(日)〜31日(日) なんばグランド花月
⇒詳しくは、吉本百年物語公式サイトへhttp://www.yoshimoto.co.jp/100th/monogatari/

《筆者プロフィール》岩瀬春美 福井県小浜市出身。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。シアトルの日本語情報誌インターン、テクニカルライター等を経て、アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当。2012年1月よりフリーランスのライターとして活動。


検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介