多重防護

 原子力発電所の安全対策は「多重防護」を基本に考えられており、「異常発生の防止」「異常拡大の防止」「放射性物質の異常放出の防止」の三段階の安全対策を講じています。

放射性物質の異常放出を防止するための対策

1.非常用炉心冷却装置(ECCS)

 原子力発電所では一次冷却系主配管の瞬間的破断により原子炉の水がなくなるという事故などを想定し、非常用炉心冷却装置や原子炉格納容器が設けられています。まさかの事故の場合でも、燃料を水づけにして冷却するとともに、格納容器スプレー系によって、格納容器内に漏れた蒸気を冷却、凝縮させて格納容器内の圧力を下げ、気体状となっている放射性物質を大幅に減少させます。さらに残留している放射性物質は、非常用フィルターをとおして低減させるようにしています。
(ECCS:Emergency Core Cooling System)

2.五重の障壁

 原子力発電所では環境への放射性物質の放出を極力抑制するため「五重の障壁」によって放射性物質を閉じこめています。

a.ペレット(第1の壁)

 核分裂はペレットの中で起こります。核分裂によってできる核分裂生成物(放射性物質)もペレットの中にできます。ペレットはウランの酸化物という化学的に安定したものを高温で陶磁器のように焼き固めたもので、大部分の放射性物質はペレットの中に閉じ込められるようにしています。

b.被覆管(第2の壁)

 さらにペレットをジルコニウム合金製の被覆管で覆います。この被覆管は気密につくられていてペレットの外部へ出てきた少量の放射性物質(希ガス)も被覆管の中に閉じ込められ、被覆管が健全であれば外には出ないようにしています。

c.原子炉圧力容器(第3の壁)

 数万本ある燃料棒(110万kWの沸騰水型原子炉の場合、約55,000本)のうち、何らかの原因で被覆管が破損し相当量の放射性物質が漏れた場合には、弁と閉じることにより、冷却材中に漏れた放射性物質を燃料全体を収納している鋼鉄製の圧力容器(厚さ約16cm)とそれにつながる配管内に閉じ込め、外部へ出さないようにしています。

d.原子炉格納容器(第4の壁)

 圧力容器の外側には、さらに鋼鉄製の格納容器(厚さ約3cm)があり主要な原子炉機器をスッポリと包んでいます。これは原子炉で最悪の事態が発生した場合でも、原子炉から出てきた放射性物質を閉じ込めておくとともに放射能を減らし、周辺における放射線の影響を低く抑えるためのものです。

e.原子炉建屋(第5の壁)

 格納容器の外側は、二次格納施設として約1〜2mの厚いコンクリートで造られた原子炉建屋で覆い、放射性物質の閉じ込めに万全を期しています。