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習主席:英首相と7兆円商談合意…人民元建てで国債発行へ

毎日新聞 2015年10月21日 21時42分(最終更新 10月22日 02時08分)

英首相官邸の前で手を振るキャメロン首相(左)と習近平国家主席=ロンドンで2015年10月21日、ロイター
英首相官邸の前で手を振るキャメロン首相(左)と習近平国家主席=ロンドンで2015年10月21日、ロイター

 【ロンドン坂井隆之、北京・井出晋平】英国を訪問中の習近平・中国国家主席は21日、キャメロン首相と首相官邸で会談し、英国の原子力発電や高速鉄道に対する投資など、約400億ポンド(約7兆4000億円)の商談を企業間で進めることで合意した。会談後の共同記者会見で、習主席は、中国政府がロンドン市場で人民元建て国債を発行することも表明。中国が中国本土と香港以外で国債を発行するのは初めてで、国際金融センター・ロンドンでの元建て取引を拡大することで、人民元の国際化を加速させる。

 習主席は会見で「中英関係は新しい段階に入った」と述べ、経済関係の強化を進める考えを示した。

 原発事業では、仏エネルギー大手EDFが進める英南西部ヒンクリーポイントの原発新設事業に対し、中国国営の中国広核集団(CGN)が60億ポンドを投じて事業体の株式33.5%を取得する。中国側は、英国の他の原発についても出資することで合意した。ロンドンと英中部の主要都市を結ぶ新高速鉄道(HS2)の施設建設や、通信、住宅建設などのインフラ投資事業にも中国企業が出資する。

 中国側は、出資をてこに、中国製の原発や高速鉄道の採用も働きかけている模様で、先進国の英国で実績を作ることで中国政府が力を入れる海外へのインフラ輸出に弾みを付けたい考えだ。英国では日立製作所や東芝が鉄道や原発分野での事業を展開しており、政府レベルで攻勢をかける中国勢との競合が今後激しくなる可能性がある。

 ◇ポンドと相互融通も

 金融面では、人民元建て国債の発行に加え、両国の中央銀行間で人民元とポンドの相互融通(スワップ)協定を結び、ロンドンでの元取引の拡大を目指す。中国政府は、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に、人民元を採用するよう求めている。SDRは、IMF加盟国が金融危機に陥った際に外貨を調達するために使う仮想通貨のようなもので、現在は米ドル、ユーロ、円、英ポンドで構成されている。SDRの構成通貨に採用されれば、IMFに国際主要通貨として認められたことを意味する。

 貿易などでの人民元建て取引は増加しており、国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、国際的な決済に占める人民元の割合は今年8月、円を抜いて4位に浮上した。国際金融センター・ロンドンで元建て取引が増えれば、元の使い勝手は大きく向上するため、SDRの採用に向けたアピールになる。

 英国のキャメロン政権は経済成長促進のため、中国との関係強化を最優先に掲げている。ことし3月には中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を、米国の反対を押し切って、日米欧先進7カ国(G7)の中で最初に表明。財政再建を進める英国としては、老朽化が進む国内インフラ更新の資金に「中国マネー」を期待するのと同時に、今後拡大が見込まれる人民元取引を取り込むことで、国際金融センター・ロンドンの地位強化を図りたい考えだ。

 ただ、安全保障にも関わる原発事業に中国企業が深く関与することや、人権問題などを棚上げにして経済利益を追求することに批判もある。英国内では、中国企業が鉄鋼を不当に安い価格で輸出することで英国内の鉄鋼業を圧迫しているとの批判も出ている。会見で質問を受けた習主席は「過剰生産能力を抱えているのは英国だけではない。中国は7億トンの生産能力を削減した。我々にとっても彼らの仕事を探すのは課題だ」と反論した。

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