画像提供:マイナビニュース

写真拡大

●『いいとも』後の壮絶な逆風でチーム団結

フジテレビ系平日昼の情報バラエティ番組『バイキング』(毎週月〜金曜11:55〜)が、7月6日の放送で自己最高視聴率8.0%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)を獲得し、初の横並びトップとなった。この週(7月3〜7日)の平均は6.5%となり、初めて日本テレビ系『ヒルナンデス!』を抜くなど、昼の勢力図を塗り替えつつある。

32年間にわたって放送され、お昼の代名詞だった『笑っていいとも!』の後を受けてスタートした同番組。当初は苦戦が続いていたが、ニュースや時事ネタをスタジオで生討論する現在のスタイルを採り入れてから、視聴率が徐々に上昇してきた。

そこで、ここに至るまでの経緯や今後の展望、そしてMC・坂上忍の素顔などについて、フジテレビの小仲正重チーフプロデューサーに話を聞いた――。

――『笑っていいとも!』という大きな番組の後を受け、最初は苦戦していましたが、3年たってようやく結果が出てきましたね。

正直言いますと『いいとも』の後枠だけはやりたくないな…と思ってたんです(笑)。あまりにも偉大な番組だったので。そんな中、僕に話が来たので、最初、港(浩一バラエティ制作担当常務、現・共同テレビ社長)さんに「僕よりも適任者がいると思います…」と辞退気味に答えたら、「会社がお前で行くって言ってるんだから、ここで意気に感じるのが男だろ! 何断ろうとしてんだ!」ってものすごく怒られまして(笑)。そんな中で『いいとも』は終了が発表されて以降、どんどん視聴率が上がっていき、最後は『グランドフィナーレ』でテレビ史に残るような奇跡の共演が次々に起こって。その光景を『バイキング』のスタッフルームで、翌日の初回放送の準備をしながら見ていて、あらためて「これはエラいことになったな…」と思いましたね。

――『いいとも』終了後には「タモロス」という言葉も生まれました。

もうタモリさんが神の領域に達してましたから。そして、『バイキング』がスタートするとネットニュースに「また視聴率が下がった」「2%、1%が出た」と書かれてしまい…。それはひとえに我々制作陣の力の無さが原因だったんですが、今振り返るとそういった壮絶な逆風があったからこそ、チームが団結できたように思えます。

――そんな中で、転機はどのタイミングであったのでしょうか。

まだ「生ホンネトークバラエティ」という現在のスタイルを打ち出す前、昨年の1月くらいに、坂上さんから時事ネタを扱ってみたいという提案があったんです。番組開始当初に「Yahoo!検索急上昇ランキング」という時事ネタを扱うコーナーがあったんですけど、それをもっと本格的にやろうという話になって。早速、2月上旬の金曜バイキングに東国原英夫さんをゲストに迎えてガッツリ時事ネタ討論にトライしました。ちょうど前日にある大物有名人が違法薬物関連で逮捕されたというニュースがあって、スタジオがどんな空気になるか不安だったんですが、そこで坂上さんが7分半にわたってその事件に対する持論を展開されたんです。あえて厳しいことも恐れずに言う姿を間近で見て、坂上さんの覚悟を知り、こちらも覚悟が決まりました。それが1度目の転機です。

金曜日のトライで「時事ネタ生討論スタイル」に手応えがあったので、4月には全曜日で時事ネタを扱っていくことになったんですが、7月に2回目の転機が来ました。東京都知事選の主要3候補(増田寛也氏、小池百合子氏、鳥越俊太郎氏)がスタジオに生出演したんです。これは北口(富紀子)という火曜班のプロデューサーが「都知事選の候補者で生討論をやりたい」と提案してきて、僕は内心「さすがにバラエティ班が作っている『バイキング』には来てもらえないだろ…」と思ったんですが、北口には「(ブッキングするべく)動いてみよう」と指示をしました。そうしたら北口がOA前日まで粘って、なんと3氏全員のOKをもらってきたんです。結果的に、地上波全局全番組の中で主要3候補が同時にスタジオ出演した番組はまさかの『バイキング』だけでした(笑)。

すると、翌日の『めざましテレビ』から『みんなのニュース』まで、フジテレビの全ニュース・情報番組で『バイキング』での討論映像が多く流れました。それによって、それまで『バイキング』をよく知らなかった視聴者の方にも「バイキングってこういう番組なんだ」と認知していただいたのではないかと思っています。

――「生ホンネトークバラエティ」を導入した当初、出演者の皆さんはどんな反応だったんですか?

正直、戸惑っていた出演者の方もいたと思います。元々、スタートした時はニュースについて持論を言うというコンセプトの番組ではなかったわけで、出演者・スタッフともにニュースに対して色んな意味で経験値がありませんでした。でも、時間をかけていろいろなニュースに向き合っていく中で、少しずつ今の番組コンセプトに慣れてきたという感じです。最近は特に各週刊誌さんがとんでもないスクープを飛ばされるので、出演者の方々にとっては生放送ではコメントしにくいネタもあると思いますが、皆さん、踏ん張ってコメントをしてくれています。

――最近は、放送中のトークなどを拝見しても、スタジオの雰囲気がすごく良いように見えます。

数字が悪かった時期は、みんな口には出さないんですけど、しんどかったです…。まだ1回横並びトップを取っただけですし、立場は変わらず挑戦者ですが、最近数字が上向いてきてスタジオの空気が変わったというのは、社内外から言われますね。

――先日、大相撲の懸賞幕を番組名で出すという企画もありましたが、まさにスタジオの良い空気感から出てきたアイデアですよね。

あれは事前の打ち合わせが全くなく、本番で坂上さんが突然、発案されたんです。『バイキング』には芸人さんもたくさんいて、皆さんアイデアマンですので生放送中に面白い発想が生まれるんだと思います。ちょっと硬めの情報番組では「懸賞幕を出そう!」なんていう話にはならないと思いますが、そこがバラエティ班で作っている『バイキング』のノリであり、カラーなんだと思います。

――坂上さんがライオンの担当者の人をイジるインフォマーシャルにも、そういうノリの雰囲気を感じます。

あの掛け合いの最後のオチは、ライオンさんが作ってきてくれる台本があるんですけど、坂上さんは担当の方々のキャラを見て、本番でオチのセリフを変えるんです(笑)。坂上さんはスタッフとすごく向き合ってくれるんですよ。上はうちの局長から、下は入りたてのADまで、スタッフ皆と飲みに行きます。だから自然とチームも1つにまとまりますよね。『バイキング』での坂上さんはMCであり"座長"なんです。

●小林麻央さん訃報の日に話し合ったこと

――タモリさんは『いいとも』で反省会をしなかったそうですが、『バイキング』はやってるんですか?

はい、やってます。ニュースを扱う路線になってからは特にやってますね。坂上さんは納得のいかないことに関してはトコトン話して、その日のうちにモヤモヤを解消したい方なので。坂上さんから「こういう風にしていきたい」といった要望もありますし、制作サイドから修正の相談をすることもあります。バイキングのスタジオと同じように、楽屋でもオブラートに包まず、本音で腹を割って話す感じです。

――以前、土曜の午前中に『週刊!バイキング』という『笑っていいとも!増刊号』のような番組を放送され、坂上さんの楽屋に、進行の榎並大二郎アナやスタッフの皆さんが集まって反省会をしてる場面が流れていましたが、あんな感じですか?

そうです、あれが普段のスタイルなんです。あの放送ではバカ話ばかりしてましたが、普段は真剣な話半分、バカ話半分といった感じです。

――逆に、本番前はどのような流れなんですか?

坂上さんは、毎朝起きると新聞を数紙読み、『とくダネ!』などの情報番組も見て、ニュースの中身を理解した状態で10時に局入りします。その後、当日の台本を読みながら、扱うニュースに対してどんなコメントをしようかプランを立てられるんです。それから、11時10分より打ち合わせがあって、11時40分までの間に当日のOAのことと2曜日先の内容まで打ち合わせして、本番に臨みます。この準備を毎日欠かさずやっている坂上さんを見ているので、僕らも負けないように準備しないといけない。そういった意味では程よい緊張感もありながら毎日やっています。

――最近の放送で印象的だったのは、小林麻央さんの訃報があった日(6月23日)の冒頭で、坂上さんが涙ながらに、夫の市川海老蔵さんの会見まで待とうということで、「予定通り進めさせていただいていいですかね」とおっしゃった回です。

海老蔵さんは麻央さんのがんを公表した当初から、マスコミに「とにかくそっと見守ってほしい」というメッセージを出されていましたし、あの日の朝も同じで、海老蔵さんが「のちほど(14時の)会見の場ですべてご報告します」という趣旨のメッセージを出されました。そんな中、本番前の打ち合せで「この件をどこまでお伝えするべきか」ということに関して坂上さんと話し合ったのですが、情報が入ってきたのが放送直前ギリギリの時間帯だったということもあり、結論まで至らず「どこまでやるかはスタジオの空気をみて判断しよう」ということになったんです。そういった状況の中、坂上さんがOA開始直後に「海老蔵さんがご自分の言葉で話すと仰っているのだから、その前にまわりの人間が何かを言うべきではない」と感じて、麻央さんのことには触れないという判断になりました。

――レギュラーメンバーにお姉さんの小林麻耶さんがいるということも、大きかったのでしょうか。

そうですね。坂上さんは麻耶さんから直接報告を受けていたようで、そういった意味で海老蔵さんや麻耶さんへの思いが、他の人よりも近い感覚だったんだと思います。

――あの判断は、『バイキング』という番組の芯がぶれない姿勢を象徴したと思います。

確かにすごく反響は大きかったです。放送後に視聴者の皆さまから「海老蔵さんが語ってから…という坂上さんをはじめ出演者、スタッフの判断に良心を感じました」といった称賛の声を、本当にたくさんいただきました。

●サンドウィッチマンもスタッフも"地引き網中継"復活に意欲

――まだ「立場は挑戦者」とおっしゃっていましたが、今後の番組の展望を教えてください。個人的には、サンドウィッチマンさんの「生中継!日本全国地引網クッキング」がまた見たいのですが…。

そうですね。番組が一番しんどかった時期に、あのコーナーは面白いと評判になって、心の支えでした(笑)。確かにサンドさんもスタッフも地引き網中継は復活させたいのですが、やっとのことで今の番組のスタイルが定着し始めたところなので、今は我慢してるんです。この前もサンドさんに「この夏休みにやりたいという気持ちはあるんだけど、今はニュースに対するコメントで頑張っていただきたい」という話をしました。

――あのコーナーで素人さんをイジるスタイルは、フジテレビ全盛期の『27時間テレビ』を思い出しました。

いつか『バイキング』チームで『FNS27時間テレビ』をやらせていただける時がきたら、地引き網中継を全国10カ所くらいでやりたいですね(笑)。サンドさんの素人さんイジリは、最高なので!

今、フジテレビは逆風の中にいますが、『バイキング』を担当していることによって、視聴率という数値的な反応も含めて、視聴者の方々と日々向き合えているというのはすごくいい経験だと思っています。今思えば4年前、本当に辞退しなくて良かったです(笑)

フジテレビのバラエティは伝統的にディレクターが自分のやりたいことをバーンと提示して、視聴者に「ついてこい!」という作り方をしてきましたが、今はもっと視聴者の方々の声に耳を傾けたり、視聴者の方々のニーズを感じ取る意識が必要だと感じています。小池都知事流に言うと「視聴者ファースト」という言い方になるのだと思いますが、特に「情報バラエティ」をやる時には、どこまで「視聴者ファースト」を徹底できるかが重要です。数字が上がったネタ・下がったネタを検証して、今世間はどんなことに関心があるんだろう?といった議論をトコトンするべきですし、視聴率以外にも世間の関心を探るためのリサーチを日々していかないと生き残れないと思っています。

ただ一方で、坂上さんとも話しているのは、そういった地道な作り方を基本としながらも、1回のOAで何か1つリスク覚悟の「冒険」をして、もしそれがうまく行ったら新しいルールにしていくということ。そういった試みが番組のオリジナリティを生み、同時にマンネリ化を防ぐためにも重要だと思っています。

――視聴率は、地方からどんどん上昇してきています。

関東以外では、月間平均で横並びトップをとっている地区が結構あるんです。まずは『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)に追いつくのが目標だったのですが、最近はその上にいる『ひるおび!』(TBS系)にも勝つ地区が出始めたという報告が続々と入ってきています。過去に『めざましテレビ』が地方から数字を上げてきて、その後、関東もトップになったという実例があるので、スタッフにはずっと呪文のように「数字は地方から上がってくる!」と言ってきたのですが、ようやくそれが少しずつ現実になり始めているので、これからもっと頑張っていきたいですね。