シリーズ追跡 オーバーストア県・香川 新規出店続く小売業界
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地域一番店争い激化

 ざっと数えて120超。これは県内主要スーパーの数だ。いまや市街地では、近くに競合店がない店を探す方が難しい。オーバーストアが指摘されて久しい香川。消費不況、デフレ経済の中、「こんなに店が増えて、共倒れにならないの」。そんな声も漏れ聞こえるが、新規出店はハイペースで続いている。

食品スーパー戦争

小・中規模店が主流 生鮮特化・24時間営業・地元密着 「売り」絞り顧客獲得

県内スーパー分布図
県内スーパー分布図
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 1990年代後半からオーバーストアが顕著になった香川県。店舗面積が1千平方メートルを超すスーパーの分布図をみても、幹線道沿いに店が林立し、もはや進出の余地はないように映る。
  「いや、まだまだ余地はありますよ」。そう語るのは、広島県福山市が拠点のスーパー「ハローズ」の前田秀正取締役経営企画部長。広島、岡山を中心に展開する同社は2年前に香川に初進出。高松、丸亀両市内に4店舗を構え、今期も3店の開店を予定するなど積極的な動きをみせる。
  なぜ、オーバーストアが明らかな香川に進出するのか。「それは香川に限った話ではない。日本中どこも同じ」と前田部長。そのため土地探しに苦心するというが、香川は事情が異なる。「例えば広島は、工場跡でもないと、もう土地がない。香川はどうです? 平地が多いでしょう」。

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県内小売店舗事業所数の推移、小売店舗販売額の推移、小売店舗売り場面積の推移
県内小売店舗事業所数の推移、小売店舗販売額の推移、小売店舗売り場面積の推移
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  確かに「香川は出店しやすい」との声は、複数の小売業者から聞かれた。
  数字もそれを裏付けている。グラフを見てほしい。県内の小売店舗事業所数や販売額が減少傾向な中で、大型店はいずれも増加。2007年度の小売店舗売り場面積に占める大型店の割合は50%を超えている。
  進出しやすい理由はいくつか考えられる。04年の都市計画の線引き制度廃止により、開発して構わない土地が増えたこと。道路網が整備されており、アクセスしやすいことなどだ。
  ただ、最近の大型店の動きには変化がみられる。
  ちょっと前までは、衣料品から食料品まで何でもそろう超大型店がトレンドだった。しかし、延べ床面積1万平方メートルを超える出店を規制する改正まちづくり3法の施行(07年11月)に加え、消費低迷が追い打ちとなりブームは沈静化。代わって台頭してきたのが、店舗面積1千〜2千平方メートルの小・中規模店だ。

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  典型が、県内で8店を展開する地場スーパーの新鮮市場きむら(高松市)。
  店先にはかごに盛られた野菜がずらり。店に入ると丸ごと1尾のサワラやスズキなど新鮮な魚介が目に飛び込んでくる。きむらの「売り」は、ずばり、生鮮品。メーカー品の割合が多い既存スーパーの逆を行く。
  「毎日の生活に欠かせないのは野菜や肉、魚などの生鮮品。メーカー品は価格面で大手流通が有利だが、生鮮なら負けない」と木村宏雄社長は自信をみせる。
  店舗のコンセプトも明快で、面積はいずれも1千平方メートル程度。国道から一本外れた生活道沿いの店が多いのも、自転車でも来店しやすいようにという配慮だ。
  毎日の買い物を重視する姿勢。これが当たった。業績は右肩あがりで、09年度の売り上げは創業初の100億円超の見通しという。
  冒頭のハローズも中規模店が主力だが、一番の看板は24時間営業。「いつ来ても開いている安心感」(前田部長)を武器に、地域への浸透を図る。来年には岡山県早島町の物流センターが稼働予定で、本部機能も移転させる同社は、香川での当面の目標を17店舗とする。
  小・中規模店へのシフトは、業界最大手のイオングループにもみられる。県内では、グループ企業のマックスバリュ西日本が手がける「マックスバリュ」が店舗網を拡大中。「地域の冷蔵庫」(広報担当)を目指しつつ、既存店をディスカウント色の強い「ザ・ビッグ」に業態変更するなど、柔軟な対応が取れるのも巨大グループならではだ。

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  こうしてみると、各社個性を出しながら、戦略は「毎日来てもらえる店」で共通する。だが、以前からそれを旗印にしてきた地場スーパーには脅威だ。
  「味と鮮度にこだわった毎日の食材を提供するしかない」。県内で22店舗を展開するマルヨシセンター(高松市)の小比賀吉男副社長は気を引き締める。
  いち早くプライベートブランドの開発などに取り組んできた同社は、食品特化の方向性をあらためて徹底。衣料品の扱いを縮小し、一律だった価格設定は競合店の状況に応じて地域ごとに変え始めた。
  県内で60店舗以上を抱えるマルナカ(高松市)はどうか。既存店を閉鎖しようとすると、存続の要望が出るほど地元に密着しているのが強みだが、現状にあぐらをかいてはいない。ディスカウント系店舗をオープンするなど知恵を絞る。
  いまやライバルはスーパーに限らない。代表格がチェーンドラッグストアだ。レトルト食品や飲料品はもちろん、野菜を取り扱う店まで登場。スーパーとの垣根はないに等しく、“異種格闘技戦”の様相を呈している。新たな競合相手に気を配りつつ、消費者ニーズをどう察知し、客の来店頻度を増やすのか。「地域一番店」の称号を手にするための戦いは激しさを増すばかりだ。

 

買い物難民の出現

商圏細分化の一因に

 「米や醤油(しょうゆ)などの重いものを買いに行きにくくなって」。お年寄り世帯が多い郊外の団地では最近、こんな悩みを漏らす人が増えている。通い慣れた店がなくなってしまったからだ。
  香川は全国有数のオーバーストア県だが、その利便性を享受できるのは、車があってこそのこと。大型店進出のあおりを受けて身近な店が減ったため、車を持たないお年寄りの不便は増すばかり。いわゆる「買い物難民」が、県内でも増えているらしい。
  お年寄りの中には、ほんの数キロ先の大型店にも行く手立てがない人が多く、これは、決して過疎地だけの問題ではない。経済産業省によると、買い物難民は全国で600万人程度はいると推計されている。
  内閣府が昨夏行った「歩いて暮らせるまちづくりに関する世論調査」で、徒歩や自転車で行ける範囲に必要な施設・機能を聞いたところ、病院・福祉施設が80・3%と最も高く、以下は日用品・食料品などを販売するスーパーマーケットが76・1%、郵便局・銀行が71・3%、学校が56・4%の順だった。スーパーは世代を問わず高く、学校などを抑え、2番目にランクされたことに、日々の買い物で感じている不便さが表れている。
  県内での大型店時代は1995年の高松サティ(高松市)開店以降に本格化した。その後、10年間くらいで現在のような激戦エリアが出来上がってしまう。急激な環境の変化に対応できず、地域で数店舗を展開していた地場スーパーや、個人経営の八百屋、魚屋は次第に姿を消していった。
  全国平均を上回る高齢化の進展や、車社会を前提とした大型店進出による県内小売業界の激変。これがオーバーストア状態が続く香川であっても、買い物難民が出現している背景だ。
  そう考えると、自転車で来られるエリアを対象とした小・中規模店が主流となっている、現在の県内への出店状況はうなずける。
  モノが売れない時代の到来や買い物難民の出現。市場のニーズに敏感な業界だけに、これらの変化をとらえ、地域内に小さな商圏を見いだし、「毎日来てもらえる店づくり」へシフトしているとも受け取れる。
  出店余地がまだあるとみられている県内では、買い物難民の出現も、商圏を細分化する小・中規模店の出店競争につながっているようだ。

【取材】 金藤彰彦 福原健二 山田明広

(2010年5月30日四国新聞掲載)

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