がん患者の不妊治療費に支援求める動き 卵子や精子の保存に100万円超えも  

2020年11月12日 05時50分
 がんを患った子どもや若年世代が、将来的に子どもを産む選択ができるよう、治療前に精子や卵子などを凍結保存する場合の公的支援を、国に求める動きが強まっている。凍結保存の費用は全額自己負担で、厚生労働省は高額のため断念する患者が一定数いるとみて月内に実態調査を行う。自民党の議連は2021年度の公的支援実現を目指し、12日に政府に要望書を提出する。(坂田奈央)

◆「なぜ妊娠する能力の保存は適用外」

 「失うものを1つでも減らしたかった」。正常な血液細胞がつくられず、白血病にもつながる「骨髄異形成症候群」を患い、34歳の時に骨髄移植を受けた高松市の後藤千英さん(43)は、主治医の勧めで術前に卵子を凍結保存した。
 医師から「子どもを産めなくなるかもしれない」と聞きショックを受けたが、病院と不妊治療専門のクリニックが連携していたため安心して採卵できた。卵子は今も保存されている。
 費用の約50万円は自費負担した。後藤さんは「不妊リスクはがん治療の副作用。抗がん剤による吐き気を止める薬は保険適用なのに、なぜ妊娠する能力の保存は適用外なのか」と疑問を投げかける。
 抗がん剤や放射線の治療を受けると、生殖機能が影響を受け、不妊になる場合がある。将来に子を産む可能性を高めるには、がん治療の前に精子や卵子などの凍結保存が必要だが、費用の目安は30万円程度。医療機関によっては100万円を超える。毎年の保存更新料もかかる。がん治療費も支払う患者の負担は重い。

◆独自に支援の自治体も

 厚労省の研究班の試算では、未成年者から39歳までのがん患者のうち、経済的支援があれば凍結保存を希望する人は、女性が年間約4000人、男性が約3000人。全額を公費助成した場合の予算規模は年20億~40億円。不妊に悩む夫婦に対する特定不妊治療費助成事業(年約300億円)の約10分の1に当たる。独自に支援する自治体も増え、現在は21府県と4市に助成制度がある。
 同省研究班の調査は、15~39歳のがん患者やがん治療の経験者約500人が対象。凍結保存の経済的負担や、保存しなかった理由を調べる。研究班代表の鈴木直・聖マリアンナ医科大教授は「凍結保存を望むがん患者に、国は不妊治療の助成金と同様の支援をしてほしい」と話す。
 自民党内にも支援の動きがある。甘利明税調会長や野田聖子幹事長代行らでつくる議連「不妊治療への支援拡充を目指す議員連盟」は12日、政府に要望書を提出し、小児・若年がん患者の支援を訴える。

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