47NEWS >  スポーツ >  格闘技 >  野性に加わった理性 柔道の松本薫
格闘技
野性に加わった理性 柔道の松本薫

2010年07月06日

2度目の世界選手権に挑む松本薫
2度目の世界選手権に挑む松本薫

9月に東京で開かれる柔道の世界選手権57キロ級代表、松本薫(フォーリーフジャパン)は、昨年8月のロッテルダム世界選手権で、自分にほとほとあきれてしまった。

準々決勝で右手の甲を骨折しながら、痛み止めを打ってその後も2試合に出場したが、いずれも敗れてメダルには届かず、初めての世界挑戦は5位に終わった。

試合中に骨折したのは3度目。いいかげんにケガの多い自分をどうにかしたいとも思ったが、何よりも松本があきれたのは、「気持ちが無駄に熱くなり過ぎた」自分だった。

「うまくいかないことがあるとすぐに頭にカーッと血が上ってしまう。骨折したのならしたなりの戦い方があったのに、そんなことは思いもつかず、ただ勝ちたいという思いだけで試合をしていた。こんなことで世界で勝てるはずがありません」

石川県出身の22歳。何事も直感で決める直情型の松本は、柔道も超攻撃型。時おりセオリーから外れたひらめきの攻めを見せるのも魅力で、全日本女子の園田隆二監督には「野性児」と呼ばれている。

しかし、その性格は弱点にもつながっている。何かの拍子で、本人が言うところの「頭に血が上る」状態にスイッチが入ると、相手の動きをまったく考慮に入れない、独りよがりの柔道に陥ってしまうからだ。それがロッテルダムでも松本をあきれさせた「野性」のもう一つの顔である。

「こういう自分が問題だとはうすうす気づいてはいたんです」と素直に認めるのだが、世界で勝つためには、自らのコントロールは避けて通れない課題なのだ。

そのために昨年来、心がけているのは「キレそうになったら一歩引いて客観的になること」。感情にまかせて生きてきた松本にとっては、難しくてなかなか身につかないというが、それでも少しずつ成果を実感できてもいる。優勝した5月の国際大会では相手の動きがよく見えて、試合が楽になったと感じた。

「大学の先輩に『苦しいときこそ冷静にならなきゃいけないだよ』って何度も言われていたんです。その意味がようやく分かるようになりました」

野性が代名詞の松本に理性が加わり始めた。2度目となる世界選手権ではどんな試合を見せてくれるだろうか。(スポーツライター・佐藤温夏)