北アイルランドDUP、EU離脱協定案は「支持できない」 交渉に暗雲

Arlene Foster and Boris Johnson

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画像説明, ジョンソン英首相(右)がブレグジット協定を成立させるには、フォスター党首(左)率いる北アイルランドの地域政党「DUP」の支持が不可欠とされている

イギリス・北アイルランドの民主統一党(DUP)は17日、イギリス政府が提示した欧州連合(EU)離脱協定案を支持できないと表明した。EUとの交渉が佳境を迎える中、国内の支持を取り付けたいボリス・ジョンソン英首相にとっては大きな痛手となる。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長によると、EU側は離脱協定の草案は「ほぼ準備が整っている」状態だとみている。

一方、イギリス政府はまだこの草案を承認していない。協定にはイギリス議会の承認が必要なため、ジョンソン首相は国内の支持固めに奔走している。

特にDUPは2017年の総選挙以降、与党・保守党政権に閣外協力をしている。現在の保守党が下院で単独過半数を得ていないだけに、DUPは今回も協定の可否の鍵を握っている。

こうした中、DUPのアーリーン・フォスター党首とナイジェル・ドッズ副首相は共同声明で、政府との協議は「進行中」だとした上で、「現状では、税関や同意に関する問題について、提案を支持できない。また、付加価値税(VAT)についても不明瞭な点がある」と述べた。

「北アイルランドに利益をもたらし、連合王国の経済的ならびに法的一体性を守る、実用的な協定を策定するため、今後も政府と協議を続ける」

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イギリスは10月31日午後11時(日本時間11月1日午前8時)にEUを離脱する予定で、ジョンソン氏は合意の有無に関わらず離脱を決行すると話している。

テリーザ・メイ前政権が合意した離脱協定は3月に英議会で否決されたため、新たな協定妥結に向けた交渉が進んでいる。

ジョンソン首相は先に、ブレグジット(イギリスのEU離脱)交渉をエヴェレスト登頂に例え、頂上は「遠くはない」ものの、まだ「雲」に覆われていると話していた。

EUは17日と18日に開かれる首脳会議(サミット)で、新たな協定を審議する予定で、ジョンソン氏もサミット出席のためブリュッセルに向かっている。

Boris Johnson leaving No 10 earlier

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画像説明, 首相官邸を出るジョンソン英首相

なぜアイルランド国境が重要なのか

アイルランドとイギリス・北アイルランドの国境は、EUとイギリスが唯一、陸上で接する場所。ブレグジット交渉では、この国境を越えるヒトやモノの移動について、長く議論が続いている。

アイルランドとイギリスの政治的、外交的、安全保障的な関係において、非常に繊細な問題をはらんでいる。イギリス国内で北アイルランドが他地域と同じ扱いを受けるかどうかも、大きな問題となっている。

ジョンソン英首相による協定案では、メイ政権が提示した「バックストップ」条項の代替案が提示された。

バックストップとは、イギリスとEUとの間で通商協定がまとまらない場合に、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。バックストップでは、北アイルランドはブレグジット後もEU単一市場のルールに従うことになるため、ジョンソン首相を含む反対派は、EU離脱後もイギリスがなおEU法に縛られるとして反発している。

一方、ジョンソン氏の示した代替案では、北アイルランドは関税同盟からは離脱するものの、農産品などの一部領域ではEU単一市場にとどまる。また、アイルランド島内に検問所を置くほか、北アイルランド議会にEUのルールに従うかどうかの決定権を委ねるとした。

EU側は、ボリス・ジョンソン英首相が提示した「バックストップ」の代替案は持続可能なもので、民主的な支持も得ていると受け止めている。

一方DUPなどは、ジョンソン氏の代替案では北アイルランドと残りのイギリスが別の扱いを受けることになるとして、かねて懸念を表明していた。

動画説明, ノルウェーとEUの国境管理、イギリスが学べることは? ブレグジット情勢

イギリス議会は緊急審議へ

イギリス議会は9月、EUからの合意なし離脱を回避する通称「ベン法」を成立させた。

この法律では、首相は10月19日までに離脱協定の議会承認を得るか、下院から合意なし離脱の承認を取り付けなくてはならないと規定。それができなかった場合、首相は離脱期限を2020年1月31日まで延期するよう、EUに要請することを義務付けている。

ジョンソン首相の報道官は、政府が19日の午前9時から午後2時までの間に緊急審議を行うための動議を提出すると認めた。この動議は17日に提出される予定。

協定がまとまれば、イギリス議会はこれを離脱協定法案として緊急審議で可否を問うことになる。協定がなくても、合意なし離脱について投票する見込みだ。

ただし、政府が動議を提出しても、緊急審議が実施されるかどうかは不確定だという。

最大野党・労働党は、ジョンソン首相が何らかの方法でベン法を回避しようとするのではないかと警戒しており、首相がベン法に従うよう裁判所にはたらきかけると示唆している。

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<分析>EUはまだホッと一息つけない ――カティヤ・アドラー欧州編集長

新しい離脱協定はほぼ出来上がっていると、EUは期待している。あとはイギリス側はこれを承認するかどうかを待っている状態だ。

しかし合意文書が出来上がり、EU各国首脳が承認したとしても、EUはまだホッと一息つくわけにはいかない。前にも同じことがあったからだ。

メイ前首相は2018年11月にEUと離脱協定を取りまとめてイギリスに戻ったが、この協定は3回にわたって下院で否決された。

新合意も同じ運命をたどるのではないか、イギリス政府がまたブリュッセルに戻ってきて、さらに譲歩を求めてくるのではないかと、EUは心配している。

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