ゼンリン・住宅地図 「善隣」が創業者の思い
住宅地図最大手のゼンリン(北九州市)。社名は隣国や近隣と親しくする「善隣友好」に由来する。創業者の大迫正冨氏が好んだ言葉だ。
正冨氏は1948年、郷里の大分県で別府市の観光案内を手掛ける「観光文化宣伝社」を友人と設立した。湯治客らでにぎわう街の様子を見た正冨氏は、名所旧跡や旅館を掲載した観光小冊子の作製を思いついた。翌年、出版部門を引き継いで独立し「年刊別府」を発行した。
「街歩きに役立つ」と付録の市街地図が記事より好評で、商店や官公庁から地図への掲載依頼が相次いだ。「地図は重要な情報源だ」。正冨氏は本格的に地図作りに取り組むことを決意し50年に社名を「善隣出版社」に変更。居住者名入りの「新しい地図」の作製を思い立ち、自ら白地図を手に一軒一軒、表札の名前を書き込んだ。52年完成の「別府市住宅案内図」は同社初の住宅地図となり、28年後に全国を網羅した。
地図のデジタル化が進んだのは正冨氏の死去に伴い、長男忍(しのぶ)氏が社長に就いた80年以降。83年に社名を現在のカタカナ表記に変え、カーナビ分野などに事業を拡大していった。
災害支援活動にも積極的だ。2013年以降、全国約200の自治体と災害時支援協定を結び、住宅地図を貸与。熊本地震でも被災者の救援活動や被災地の復旧・復興のため、自治体に地図などを無償提供した。「善き隣人」の思いは今も受け継がれている。【石田宗久】