エジプト・シシ政権、経済を最優先 クーデターから1年
エジプトで軍によるクーデターが起きてから3日で1年がすぎた。今年6月に発足したシシ政権は低迷する経済の浮揚を最優先課題に据える。治安改善策が一定の効果をあげ、いったん逃避した海外からの投資がエジプトに戻る兆しもある。一方で政権の強権体質は強まっており、民主化への期待はしぼんでいる。
格付け会社のフィッチ・レーティングスは6月、エジプトの国債格付け(シングルBマイナス)について「政治面で前向きな発展があり、現時点が底だろう」という見通しを示した。軍出身のシシ氏が大統領に就任したことを評価し、格上げに含みを持たせた。
シシ氏は国防相として昨年7月のクーデターを主導し、イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」出身のモルシ大統領(当時)を解任した。シシ氏は同胞団を徹底的に弾圧し、同組織を警戒するサウジアラビアなどから援助を引き出した。一時は枯渇しかけた外貨準備高は最低限必要な額といわれる150億ドル(約1兆5300億円)を安定して上回る。
デモの取り締まりなどテロ対策の強化を背景に海外直接投資も復調しつつある。6月には食品世界最大手のネスレの新工場が稼働。英BPも地中海沿岸でのガス田開発に乗り出すと決めた。政府はエジプトへの直接投資額が2014年度(14年7月~15年6月)に100億ドルと、前年度の2倍に増えると見込む。
一方、令状なしの身柄拘束が常態化するなど政権の強権姿勢は強い。6月23日には政権に批判的なカタールの衛星テレビ局アルジャズィーラの記者3人にカイロの刑事裁判所が懲役7~10年の判決を言い渡した。
11年2月、独裁のムバラク政権が崩壊した直後はエジプトで民主化の期待が高まった。だが、国民は、その後の政変や社会不安で疲弊し、経済を含めた「安定」を重視するようになった。
11年の反体制運動で若者の組織を率いたターリク・ホーリ氏は、5月下旬の大統領選でシシ氏の支援団体に所属した。「エジプトは民主化への過渡期にある」と述べ、シシ政権の強権に対する批判は口にしない。
シシ政権は同胞団を「テロ組織」に指定。だが同胞団の支持者は100万人以上とされ、政府機関を除けば最大の政治勢力だ。同胞団弾圧に反発するイスラム勢力はシシ政権打倒を掲げる。最近ではカイロで爆弾テロが続発。3日には親同胞団のデモ隊と治安部隊が衝突し、死傷者が出た。
同胞団への弾圧は国内外の過激なイスラム勢力にシシ政権を攻撃する口実を与えかねない。複数の過激派組織がエジプトへのテロを予告しており、対テロ策はシシ政権にとって大きな課題だ。(カイロ=押野真也)