ハト被害に悩む住民、ネズミも出没 餌やり禁止条例に効果

ハトへの給餌を禁止する看板。掲出されてはいるものの、給餌は後を絶たない=5月10日、東京都豊島区のJR大塚駅南口前
ハトへの給餌を禁止する看板。掲出されてはいるものの、給餌は後を絶たない=5月10日、東京都豊島区のJR大塚駅南口前

駅前や公園といった公共の場所で、ハトへの給餌や汚損の放置を禁止する条例が東京都内を中心に広がり、効果を見せている。ハトは羽やフンなどで衛生的な害をもたらすものの、鳥獣保護法の保護対象で簡単に駆除はできない。餌を与える人物を止めることが有効な対策で、条例により法的根拠が出来たことで自治体は指導がしやすくなったという。条例のない自治体の住民からは、制定を求める声も上がっている。

せっかくのバラが

「餌やりを注意すると『ハトがおなかすいて、かわいそうじゃないの!』と、逆に突っかかれるんです」

困り顔で話すのは、東京都豊島区南大塚に住む女性(68)。JR大塚駅南口の広場ではしばしば、高齢女性が歩きながらパンくず様のものをまき、ハトが集まっている。別の高齢男性も給餌しており、集まるハトはペットのように人に慣れている。南大塚は、地域を走る都電の軌道沿いを彩るバラの景観で知られる。住人が環境美化を目指し、10年以上にわたり育成してきたものだ。そのバラも駅前ではハトが集まり、葉がフンで汚れる悪影響が出ている。

JR大塚駅南口の広場のベンチで日向ぼっこをするハト。人にはすっかり慣れた様子だ=5月10日、東京都豊島区
JR大塚駅南口の広場のベンチで日向ぼっこをするハト。人にはすっかり慣れた様子だ=5月10日、東京都豊島区

ハトの餌の残りを求め、ネズミもやってくる。バラを植えた土に多数のネズミの巣穴が見つかり、豊島区は昨年12月、住民の訴えを受けて2回にわたりネズミの駆除を行った。現在ネズミの害は沈静化したが、ハトは相変わらず多数やってくる。女性は「条例で餌やりを禁止できるなら、それで何とかしてほしい。ベランダに巣を作られ困っている人もいる」と話し、今後陳情を行う考えを示した。

指導やりやすく

条例を設け、成果が出てきたのが大田区だ。

区内のJR大森駅付近では以前、日常的にハトに大量に給餌する男性がおり、問題視されていた。同区は昨年3月、公共の場所でハトやカラスへの給餌を禁止する条例を制定。汚損など被害を生じさせた場合には5000円の過料も設定した。職員が条例をもとに注意を重ねたところ、男性は姿を見せなくなったという。担当者は「餌をまくのは特定の人物だが、止めるのは簡単ではない。条例というルールがあることで指導がしやすくなり、悪質な事例はおさまった」と説明する。

都内では平成20年に荒川区が最も早く禁止条例を制定。世田谷区は30年度、港区は今年度から、給餌に伴う汚損などの悪影響を条例で禁止した。西日本では大阪市が令和2年、給餌自体は禁止しないものの、与えた後に清掃を行うことを条例で義務付けた。大阪市の担当者には「市民からの、フンの害などの苦情が減った」との体感があるという。各地で法令を用いた被害軽減の取り組みが進んでいる。

公共の場にこそ

「ハトの害を防ぐには、人間を止めること」。前出の南大塚に位置する天祖神社の40代男性職員は、こう話す。

同神社では以前、朝方に境内の石畳に「ピラミッドのように」山盛りのパンくずを盛る人物がおり、ハトのたまり場となっていた。拝殿の屋根の銅板はフンで浸食されてもろくなり、雨漏りが発生。約20年前に赴任したという男性職員は、境内で給餌を禁止する掲示を出し、餌をまく人物への注意を重ねた。やがて境内からはエサがなくなり、ハトは姿を消した。男性職員は「神社のような限られた場所では管理がしやすいが、公園や駅前などの広い場所では対応が難しい。条例は有効なのではないか」と話している。(織田淳嗣)

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