朴槿恵弾劾デモ、韓国陸軍が戒厳令で鎮圧検討
文大統領、真相究明へ特別捜査を指示
【ソウル=山田健一】韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追い込んだ大規模な市民集会。朴氏が2017年3月に罷免される直前、韓国陸軍が戒厳令を敷き、デモを鎮圧する計画を策定していた疑惑が浮上した。陸軍が本来と異なる手続きで兵力を展開しようとした可能性もあり、韓国大統領府は10日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が真相究明を指示したと発表した。
発端は、革新系の市民団体が6日に「戦時戒厳と合同捜査業務の遂行方案」という題目の資料を公開したことだ。市民団体は韓国軍の監察を担う国軍機務司令部が作成した内部資料と説明。韓国国防省も資料の存在を認めた。
韓国では当時、朴氏の辞任を求め、100万人規模の大規模デモが起きていた。資料によると、仮に憲法裁判所が17年3月に朴氏を罷免せずに続投を認める決定を下し、反発した国民が暴徒と化した場合、陸軍が戒厳令の発令を目指す計画があった。14の師団と旅団が首都ソウルや京畿道などの主要地域に展開し、暴徒の鎮圧と治安維持にあたるとした。ソウルでは武装した兵士4800人以上の投入が想定されていた。
問題は計画を作成した国軍機務司令部に、戒厳令の計画策定に関する権限がないことだ。本来は合同参謀本部の管轄になる。その上、制服組のトップである合同参謀本部議長の命令ではなく、陸軍参謀総長の指示で陸軍を動かし、同議長や国防相には事後報告する手順が検討されていた。国会が計画を阻止しようとした場合の対策も練られていた。
特定の軍幹部が兵力を展開した後、事後報告で既成事実化する手法は、韓国では1979年の軍事クーデターで実権を握り、80年に大統領に就いた全斗煥(チョン・ドファン)元大統領を連想させる。全氏は80年の光州事件で軍隊を動員し民主化運動を弾圧。多数の死者が出た。16年秋から17年春に市民集会が続いた際も、朴前政権を守るため韓国軍が集会を妨害するとの噂がたびたび流れるなど、軍とデモは韓国では敏感な話題だ。
韓国大統領府によると、文氏は訪問中のインドで9日、陸軍と国軍機務司令部の影響を受けないメンバーで特別捜査チームをつくり、資料の解明にあたるよう指示した。国防省は資料の存在を認識しながら解明を怠ったとし、トップの国防相を捜査指揮から外す形で真相究明を目指すという。
「資料は誰の指示に基づいて誰がつくり、誰に報告されたのか。計画実行の準備はされていたのか。解明すべき点はいくつもある」。李洛淵(イ・ナギョン)首相は10日の閣議でこう述べた。
現時点では朴前政権と韓国軍のどのレベルの人物が関与していたのか、詳細は不明だ。陸軍のごく一部だけで検討された可能性もある。それでも30年前の軍事政権に逆戻りしたかのような計画の発覚に社会が受けた衝撃は大きく、徹底調査を求める声が強まっている。