米最高裁、トランプ政権の入国禁止を条件付きで容認

2月4日、ロサンゼルス国際空港で抗議する人たち

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画像説明, 当初の大統領令は米国各地で大規模な抗議集会を引き起こした。写真は2月4日、ロサンゼルス国際空港で抗議する人たち

米連邦最高裁は26日、ドナルド・トランプ大統領による、中東・アフリカのイスラム圏6カ国の国民の入国を禁じる大統領令について、今年10月に最終的に判断するまでという条件付きで部分的に執行を認めた。難民受け入れ中止についても執行を認めた。トランプ大統領は最高裁判断を「この国の安全保障にとっての勝利」と歓迎した。

トランプ政権の大統領令は、ムスリム(イスラム教徒)の国民が大半を占めるイラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメン6カ国からの入国を90日間禁止するほか、難民受け入れを120日間禁止するもの。

大統領はこの6カ国を「テロ多発国」と呼び、「大統領として、我々を傷つけようとする者たちをこの国に入れるわけにはいかない」と強調した。大統領はこれに先立ち、最高裁の承認を得られれば72時間以内に執行すると表明している。

連邦最高裁の判断は、「実務上、(大統領令は)米国内の人物や団体と真正の関係があると正当に主張できる外国人に対しては執行できない」ものの、「それ以外の全ての外国人は(大統領令の)項目の対象となる」と書いている。

最高裁はさらに、「米国内の人物や団体と真正の関係があると正当に主張できる」者以外の難民申請については、120日間の受け入れ禁止を容認した。

「真正の関係とは」

最高裁は、米国内の人物・団体と「真正の関係」を持つ外国人には、(1)米国内にいる家族と共に暮らしたい、あるいは家族と会いたい外国人、(2)米国の大学の学生、(3)米国企業の従業員、(4)米国の聴衆のために招かれた講師――などが含まれると説明した。

「単に(大統領令の)適用を避けるために、関係を結ぶ者」はこれに含まれないという。

「たとえば、移民問題に取り組む非営利団体は、特定6カ国の人物に連絡し、顧客リストに加えることで、入国禁止による権利侵害を主張し、入国を確保しようとしてはならない」と最高裁は書いている。

法廷内の異論は

最高裁の判事9人のうち、保守系の3人(クラレンス・トマス、サミュエル・アリート、ニール・ゴーサッチ各氏)は、入国禁止の完全執行を支持すると書いた。

トマス判事は、国の安全保障を守ろうとする政府方針による利益は、入国を禁止された人が強いられる苦労を上回ると判断を示した。

トランプ大統領が指名したゴーサッチ判事が今年4月に就任したことで、最高裁は5対4で保守派が優勢の構成に戻った。判事9人のうち、5人が共和党大統領に指名され、4人が民主党大統領に指名された。

大統領令の執行を下級審が差し止めたことで、入国が認められたイエメン人の女性を家族が歓迎した(2月、バージニア州の空港で)

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画像説明, 大統領令の執行を下級審が差し止めたことで、入国が認められたイエメン人の女性を家族が歓迎した(2月、バージニア州の空港で)

これまでの反応は

ジェフ・セッションズ司法長官は、「我が国の安全保障に対する脅威は本物で、ますます悪化している」と述べ、最高裁判断は「連邦政府の三権分立復活に向けて重要な一歩だ」と歓迎した。

米自由人権協会の「移民権利プロジェクト」責任者、オマル・ジャドワト氏は、入国禁止が合憲か違憲かの判断はこれからだが、これまでの下級審判断はいずれも、大統領令に反対していたと指摘。「とはいえ実質的には、入国禁止で影響を受けるほとんどの人はそれでも入国が認められる」。

国際救済委員会(IRC)のデイビッド・ミリバンド委員長は、米政府に対して入国審査手続きの見直しを呼びかけた。「最高裁の判断は、危険な状態に置かれて米国入国を望む人たちに損害をもたらす恐れがある。すでに厳しい審査を経てきた、喫緊の治療を必要とする人や、行き先のない罪のない人たちだ」。

下級審の判断は

パリやロンドン、ブリュッセル、ベルリンなどでテロ攻撃が相次ぐなか、トランプ政権は国の安全保障が大統領令の目的だと主張した。しかし、大統領令を批判する人たちは、米国の価値観にもとり、イスラム教差別に根付くものだと主張し、これまでの下級審もほとんどがその立場をとってきた。

1月27日の当初の大統領令が、永住権を持つ人をも締め出すなど執行において大混乱をきたし、各地で大規模な抗議集会につながるなか、複数の地裁控訴裁が執行を停止させたため、大統領は3月6日に修正版に署名した。

入国禁止の対象国からイラクを外し、シリア難民の完全受け入れ禁止を削除した内容について、トランプ大統領は「政治的に正しくするため薄められたものだ」と不満を表明していたが、それもハワイとメリーランド両州の連邦地裁が執行停止を命じた。

バージニア州リッチモンドの連邦控訴裁は5月に、大統領令はムスリムへの「宗教的敵意」に根差すものだと批判。サンフランシスコの連邦控訴裁は6月に、「国家安全保障とは、それを根拠にありとあらゆる大統領権限の行使が許される『魔法の呪文』ではない」と批判していた。