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 マイコンや組み込み向けSoC(System on a Chip)でおなじみの英Arm(アーム)のCPUコア「Cortex-M」。そのハイエンド品になる「Arm Cortex-M85」(図1)が2022年4月26日(現地時間)に発表された ニュースリリース Arm Community blog 。スカラー演算性能は既存のCPUコア「Cortex-M7」の1.3倍、機械学習やDSP(Digital Signal Processing)の処理性能は4倍になるという(図2)。

図1 「Arm Cortex-M85」の機能ブロック図
図1 「Arm Cortex-M85」の機能ブロック図
(出所:Arm)
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図2 新製品のCortex-M85と既存品の「Cortex-M7」および「Cortex-M55」を比較
図2 新製品のCortex-M85と既存品の「Cortex-M7」および「Cortex-M55」を比較
(出所:Arm)
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 Cortex-M85は、19年2月に発表されたMプロファイルの最新アーキテクチャー「Armv8.1-M」*1を採る(図3)。Armv8.1-Mの大きな特徴は、SIMD(Single Instruction Multiple Data)プロセッサー/ベクトルプロセッサーの「Helium」をサポートしたことである。上述した機械学習やDSP処理における4倍の性能向上はHeliumによるところが大きい。Armv8.1-Mアーキテクチャーを採るCPUコアの第1弾は20年2月に発表された「Arm Cortex-M55」*2である。Cortex-M55もHeliumをサポートしているが、Cortex-M85向けにHeliumの設計を改良して、ベクトル処理性能を約20%向上させたという。

関連記事 *1 マイコンのAI処理を15倍高速に、英アームがArmv8.1-Mでベクトル演算命令を追加 *2 エンドポイントAI向けに英アームがCPUコアとNPUコア、集積SoCは21年初頭に登場
図3 Cortex-MのCPUコア製品の主な仕様
図3 Cortex-MのCPUコア製品の主な仕様
(出所:Arm)
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 性能向上に加えて、セキュリティー面でもCortex-M85は強化を図った。Armv8.1-Mに含まれるPACBTI(Pointer AuthentiCation and Branch Target Identification:ポインタ認証および分岐ターゲット識別)を、Cortex-Mコアとして初めてサポートした。これによって、リターンやジャンプを狙ったソフトウエア攻撃に対する耐性が向上し、セキュリティー基準「PSA(Platform Security Architecture) Certified Level 2」を満たすことが容易になったとする。また、台湾TSMC(台湾積体電路製造)の22nmプロセス「22ULL」を想定したPIK(Processor Implementation Kit)が、Cortex-M85には用意されている。

 Armは今回、Cortex-M85をベースにしたサブシステムのレファレンス設計として「Corstone-310」を発表した(図4)。Corstone-310はオプションでNPU(Neural Processing Unit)コア「Arm Ethos-U55」を追加可能である。同社によれば、Corstone-310は汎用(はんよう)マイコンや、音声認識などのエンドポイントAI(人工知能)処理に向けて整備した。具体的な応用先として、スマートスピーカーやサーモスタット、ドローン、工場用ロボットなどを挙げている。

図4 「Corstone-310」の機能ブロック図
図4 「Corstone-310」の機能ブロック図
(出所:Arm)
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