アトラスブランドの展開、そしてセガ×アトラスが生み出すシナジーとは?

 『真・女神転生』シリーズをはじめ、『ペルソナ』、『世界樹の迷宮』など多数の人気タイトルを生み出し、ゲームファンから絶大な支持を受けているアトラスブランド。そのアトラスを擁するインデックスから事業譲渡を受けた、同名の新会社“インデックス”が、11月1日に誕生した。セガサミーグループの一員となった“新生”インデックスは、どんなスタンスで経営を行っていくのだろうか? そしてアトラスブランドの人気タイトルは今後どうなっていくのか……?
 ゲームファンにとっては注目せずにはいられないインデックスの今後について、セガの代表取締役社長COOにして、新たに誕生したインデックスの代表取締役社長も兼務する鶴見尚也氏に、詳しく話を聞いた。
(聞き手:週刊ファミ通編集主幹 浜村弘一)
※本記事は、週刊ファミ通12月12日号(2013年11月28日発売)に掲載されたものと同内容です。

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“新生”インデックス、アトラスブランドの未来は!? セガ/インデックス社長・鶴見尚也氏にインタビュー_01
セガ代表取締役社長COO/インデックス代表取締役社長
鶴見尚也氏

“旧インデックス”の良質なビジネスも“新インデックス”で活かしていく

浜村弘一(以下、浜村) まず、今回の事業譲渡までの経緯を教えていただけますか?

鶴見尚也氏(以下、鶴見) セガはもともと、アトラスの商品の流通を請け負ったりしていましたので、彼らの開発やマーケティングを含めた実力は知っていて、魅力ある会社だと思っていました。そんな中で、6月に民事再生ということになり、そこで我々もスピードアップして準備をして、今回の入札に至りました。それから9月18日に落札をして、契約をしたのですが、そこからがけっこうたいへんで。10月の末までに、インデックスの既存の契約書、従業員の方々の再雇用契約などを解決して、ようやく11月1日に、事業を譲り受けました。

浜村 本当に、決まって間もないんですね。形としては、セガドリームという会社ができて、そこが旧インデックスから事業譲渡を受けるわけですよね。セガドリームは、今回の案件のために作られた会社なんですか?

鶴見 はい。変な名前だな、といろいろな人から言われましたが(笑)。

浜村 いやいや、僕らとしては思い出深い名前だな、と思いましたよ(笑)。

鶴見 じつはこれは、社内のプロジェクトコードがもとになった名前だったんです。「いっしょになれたらいいな」という思いを込めて、“プロジェクトドリーム”と言っていたんですよ。我々が勝手にね(笑)。このセガドリームという受け皿の会社を作って、そこに旧インデックスから我々が受け継ぐ事業を全て入れて、同時にこの会社の名前をインデックスに変更したのが、11月1日なんです。

浜村 今回の事業譲渡の範囲に入っているのは、ゲームにまつわるものですか?

鶴見 ゲームと、コンテンツ&ソリューション。それと、旧インデックスが立ち上げ当初からやってきたビジネスです。

浜村 携帯電話のビジネスなどですね。

鶴見 はい。それとアミューズメント関連。あとは海外の子会社などですね。

浜村 ゲームファンからすると、旧アトラスがインデックスに移って、そこから旧アトラス系のものがまた移った、と見えている人が多いかもしれませんが……。

鶴見 それだけではないんですよ。インデックスの、良質な部分は全部譲り受けています。

浜村 だから新社名も、アトラスではなく、インデックスなんですね。

鶴見 そうです。もともとインデックスには、携帯系コンテンツソリューションのブランドもありますし、いろいろな仕事をされていて、非常に優良なビジネスがあります。そこをもう一度活かしたいと。

浜村 もちろん、アトラスブランドの『真・女神転生』などのいろいろなIP(知的財産)も、新会社が引き継ぐわけですよね。

鶴見 ほとんどのIPを新会社が引き継ぎます。継続して、よりお客様が楽しめるようなコンテンツを出せるようにしたいと思っています。

新生インデックスは独自色を維持、ただしIPの乗り入れも積極的に

浜村 セガは、もともとアトラスのコンテンツを高く評価されていたんですよね。

“新生”インデックス、アトラスブランドの未来は!? セガ/インデックス社長・鶴見尚也氏にインタビュー_03

鶴見 もちろんです。セガとの歴史で言うと、アトラスとは、プリクラの時代から長いお付き合いがありましたし、ポジティブな印象を持っていました。ただアトラスも、プリクラが大ヒットしたあとに、苦しんだ時期がありましたね。それがとくにここ4、5年で、復活したと言いますか、開発力が伸びて、IPもピカピカに磨かれてきました。

浜村 こういう案件は、社内でも絶対に秘密にして進めるものですし、重鎮のクリエイターたちでも知らなかったと思うのですが、皆さんビックリされたんじゃないですか。

鶴見 役員の中でもほんの一部としか情報が共有されていませんでしたので、社内的にもとても驚かれました。ただ、非常に喜んでいる社員が多いんですよ。『ペルソナ』や『世界樹の迷宮』、『真・女神転生』のファンの人も多いですし、それが自分たちと同じグループ会社になるのですからね。

浜村 とはいえ、近年のセガの経営戦略として、“選択と集中”を進めている最中じゃないですか。スタッフとしては、作りたいのに作れないIPもあるでしょう。そんな中で、大金を投じてよそのIPを持ってくることに、違和感を持っている人はいないのでしょうか?

鶴見 我々のいまの戦略として、まず「IP中心でやっていく」ということがあって、その中での“選択と集中”を進めているんですよ。そして選択とは、“IPの選択”なんですね。新規IPのチャレンジもしますが、IPを、いろいろな“出口”でどれだけ出せるか。もしくは、その中でユーザーとIDを囲い込んでいけるか。いわゆる“IPとID”を重視する戦略ですね。その戦略において、新しいIPを持ってくるというのも、“選択”なんですよ。

浜村 確かにそうですね。

鶴見 新規のIPを作るリスクと、労力と、お金を考えると、外から調達してきてIPのレンジを増やすということは、戦略のベクトルとしてまったくぶれていないと思います。活きているIPは、あればあるほど、間違いなくビジネスを広げてくれますからね。あとは、このIPの出口をどうやって増やしていくか。そこで重要になるのはネットワークでしょうね。我々はここ3年ほど、ネットワークに傾注して、時間を費やして、それが多少なりとも開花してきました。このノウハウと、ゲームのエンジンもありますから、それを新しく獲得したIPと合わせて、より多い出口を作る。これはとてもポジティブなことだと思います。

浜村 小規模な会社だと、家庭用ゲーム機の展開だけで終わるところが、セガさんなら、アーケードも、スマホ、PCも、オンラインも、FtP(フリー・トゥ・プレイ)のノウハウもお持ちだし。ひとつのIPから、ビジネスを大きく広げられますよね。とくにアトラスには、いいIPがたくさんありますから。

鶴見 先日発売された『ドラゴンズクラウン』も、すばらしいですよね。

浜村 予想以上の勢いでしたよね。アトラスには、こうした活きているIPがすごく多い。それがセガさんと組んで広がっていくわけだ。

鶴見 ……ということを期待しています(笑)。

“新生”インデックス、アトラスブランドの未来は!? セガ/インデックス社長・鶴見尚也氏にインタビュー_02

浜村 今後のアトラスブランドはどうなりますか? 従来は、旧インデックスから、アトラスブランドとして販売されていましたが。

鶴見 新会社も、あえてインデックスという独立会社にしていますし、ブランドとしても、アトラスは、セガとは一線を画して、独立色を高めてやっていきます。我々が海外で買収したスタジオを見ていただけばわかるように、ブランドやIPはそのままスタジオでちゃんとマネージして、大きくしていく。そして売るのはセガがやりますよ、という形ですね。ですから、「皆さん、自分たちのIPに自信と誇りを持って、グングン伸ばしてください」と。

浜村 では開発体制もいままで通りですか?

鶴見 いままで通りです。インデックスの人たちはしっかりしていますから、そこにセガが余計な手を入れて、歩調を乱すつもりはありません。ただ、インデックスが持っていないもので、セガが持っていて、使いたいものがあれば、どんどん使ってください、というスタンスです。グループ会社なんですから(笑)。IPの乗り入れという可能性もあるかもしれません。

浜村 おお。ではたとえば、アトラス側がセガのIPで何かを作ったり、逆にアトラスのIPのスマホでの展開をセガネットワークスが手掛けたり、といった展開もありえますね。

鶴見 それは相乗効果の一環になると思いますので、積極的にやっていきたいですね。

浜村 ノウハウの交換もありえますよね。セガが持つFtPのノウハウは、ほかの会社からすれば、みんな聞きたいところでしょうし。

鶴見 ノウハウを得るまでに、本当に長い道のりがありましたので……(苦笑)。他社さんにはお教えできませんが、グループ会社になったからには、どんどん活用してほしいです。

浜村 逆にセガさんには、どんなハッピーなことがあるとお考えですか?

鶴見 先ほども申し上げたように、セガは、“IPとID”という戦略を進めています。そこにプラスして、“ジャンル”も非常に重要だと思うんです。とくにセガは、RPGが強くなかったんですよ。かたやアトラスの強みというと、ジャパニーズRPGの最たるものですよね。

浜村 しかも、彼らの作るJRPGは、海外でも受けているんですよね。

鶴見 そうなんです。アメリカでもファンをつかんでいるというのは、非常に大きいですよね。セガにとって大きなプラスになったのは、IPが増えたことももちろんですが、ジャンルが増えたことが非常に大きいんです。

浜村 強力なRPGを作れる人たちがグループに加わったのは、大きな武器になりますね。

鶴見 強要するつもりはありませんが、もしセガの眠っているIPを使ってできることがあるのなら、ぜひトライしてほしいですね。

浜村 確かに。『サクラ大戦』や、『ジェットセットラジオ』や……おもしろいけれど眠ってるIPが、セガにはいくらでもありますものね。

鶴見 けっこう眠っていますからね(苦笑)。新会社がスタートしたばかりなので、まだ何もテーブルに乗ってはいませんが、そういうこともぜひ、考えていきたいと思います。

ファンもスタッフもハッピーに

浜村 アトラスからは、看板タイトルのひとつ『ペルソナ』シリーズ最新作などが発表されましたね。このタイミングで発表が来てくれたことで、ファンも安心していると思います。

鶴見 ファンのみなさんを不安にさせるのが、いちばんよくないですよね。ファンに安心してもらえるような取り組みを、いちばんに考えたいと思っています。ファンが去ってしまっては元も子もないですから。ファンのみなさんも、インデックスの社員も、みんなハッピーにすることが、最終的には我々のリターンにつながると思いますから、そこはしっかりとやっていきます。

浜村 安心しました(笑)。本日はありがとうございました。今後を楽しみにしています。