熱血漢という言葉はこの方のためにある。13日、J2栃木が1968年メキシコ五輪銅メダリストでもある松本育夫監督(71)の就任を発表。Jリーグ史上最高齢の70代監督が誕生した。また強化部長に就いた上野佳昭氏(72)とあわせ143歳の現場トップという布陣は、世界でも例がないはずだ。
J1、J2は現在40クラブ。その監督には日本サッカー協会が発行したS級ライセンスを持っている人しかなることができない。約400人の所持者の中から選ばれし40人だ。栃木は71歳の松本さんを選んだ。
熱い人である。私は1979年のユース代表の時にお世話になった。あのころは午前、午後の2部練習は常識で、早朝のランニング、夜の室内練習をあわせた4部練習を1カ月続けた。嘘ではない。本当の話である。後にも先にもあれだけの量の練習をしたことはなかった。当時、松本監督が「オレがもう少しサッカーを勉強していたら、おまえたちにもっとよく指導することができたのに」と話したのを、今でも覚えている。
2009年、当時J2だった鳥栖のGM時代には、スタッフの更衣室をつくるため170万円も自腹を切った。サッカーにかけてきた情熱は限りない。今回、栃木からの監督のオファーを受けたのは、きっと最後のご奉公と思っていらっしゃるはずだ。
就任後、15日の札幌戦にむけた練習日数はわずか2日だった。初采配となった試合はホームゲームにもかかわらず2度追いつかれた。雨の中でずぶぬれになりながらの采配となったが、最後は5分のロスタイムで突き放し4−3で勝利した。
こんな試合は今季の栃木にはなかった。もう一度みたい。そんな試合だった。「こういう試合を何度もしてきた。僕はもう慣れっこですよ」。そう振り返った松本監督は、熱い気持ちの大切さをいくつになっても教えてくれる方である。
■水沼貴史(みずぬま・たかし) サッカー解説者。1960年5月28日、埼玉県生まれ。FWとして日産の黄金時代を築く。日本代表として32試合に出場、7得点。95年横浜マリノスの前期優勝後に現役引退。2006年には横浜Fマリノスのコーチ、同監督も務めた。