感情のもつれ、貴乃花親方孤立 曲げぬ信念
あまりに突然すぎた「平成の大横綱」の退職届。貴乃花親方(元横綱)の退職表明の記者会見を見た親方衆には「先走りすぎている」「何がどうしてこうなったのか」と戸惑いが広がる。貴乃花親方と日本相撲協会、双方の感情のもつれが事態をここまで大きくしてしまったように見える。
23日に千秋楽を終えた秋場所。打ち出し後は、この時期では異例の一門会が頻繁に開かれていた。旧貴乃花一門の親方衆の受け入れ先を決める話し合いのためだ。協会は7月、全ての親方は5つある一門に所属することを決めていた。所属していないのは無所属の親方と、阿武松グループの親方、そして貴乃花親方。いずれも消滅した旧貴乃花一門のメンバーだ。
親方の所属先を決める期限が月末に迫る中、貴乃花親方以外のメンバーは二所ノ関一門や出羽海一門へと続々と内定。昨年、元横綱日馬富士による貴ノ岩への暴行問題を巡り、相撲協会と真っ向から対立した貴乃花親方にアレルギー反応を持つ親方は少なくなく、貴乃花親方だけが所属先が決まらなかった。
ただ、貴乃花親方を見かねて、仲介する親方は何人もいた。実際、ある一門への受け入れが決まりかけていたが、「貴乃花親方は自分から歩み寄ってくれなかった。それでは一門は合意できない」と中堅親方。「守ってくれる人間だっているのに、誰とも話さずに自分一人で悩んでいた」
受け入れる親方からすれば、これまでの騒動に対して頭を下げるなどの"仁義立て"は欲しかったはず。ただ、貴乃花親方は協会に迷惑はかけたが、一連の行動自体は間違っていないと思っていたのだろう。退職届の記者会見でも、暴行問題を巡る内閣府への告発状を巡って、貴乃花親方は「真実を曲げることはできない」と強調した。
「貴乃花親方は責任感がものすごくあって、信念が強い人」とある親方。直情径行的な性格も相まって、周囲の再三の説得に耳を貸さず、一気に退職という極端な方向へ突き進んでしまったように思えてならない。
相撲協会にも貴乃花親方を煙たがっている勢力は多いが、誰もこんな結末は望んでいないだろう。貴乃花親方と現役時代にしのぎを削ったある親方は「我々の時代のヒーローだもん。何とか説得したい」と言う。相撲ファンも同じ思いなのではないか。(金子英介)