松井「90秒後の豹変」…広岡勲氏(下)
真相直撃インタビュー「気になるあの人、あの話題」
ヤンキース・松井秀喜外野手(34)を陰で支え続けるヤンキース広報部、広岡勲氏(41)へのインタビュー後編。松井は今年7月、医師との話し合いでいったん手術を決断しながら、突然回避。結局9月21日の本拠地最終戦までプレーを続けた。あの心変わりの裏に何があったのか。広岡氏が「1分30秒後の豹変」の真相を明かす。(聞き手=夕刊フジ記者・宮脇広久)
【突然手術を回避、7月21日の真相】
広岡氏は、松井の心が大きく揺れた7月21日の経緯を忘れることができない。この日の午前。松井、広岡氏、ロヘリオ・カーロン通訳の3人はニューヨーク市内の病院にいた。松井の左ひざ痛は限界に達し、キャッシュマンGMからも即時手術を勧められ、覚悟の上でスコット・ロデオ医師のもとを訪ねていたのだ。診断の結果は「なるべく早く手術をした方がいい。明日にしよう」という通告だった。
−−その時点では、松井自身も翌日の手術に同意していた?
「そうです。病院を出て、ニューヨーク市内の和食店で昼食の稲庭うどんをすすりながら、僕が『いきなり明日手術とは大変だな』と話しかけたとき、松井は『しようがないよ』と淡々としていました」
−−ところが、180度ひっくり返った
「3人でヤンキースタジアムに到着し、関係者入り口をくぐると、クラブハウスへ続く薄暗い通路を歩きながら、松井はなぜか屈伸をしたり、足をクネクネ動かしたりし始めました。その間、1分30秒ほど。クラブハウスに着き、自分のロッカーの前に腰を下ろしてからしばらくすると、『ちょっと、イサオちゃん』と僕を手招きした」
【目が違った】
−−何の用か、直感は?
「いいえ。松井が『イサオちゃん、まだ間に合うかな?』と聞いてきても、そのころ松井からミュージカルのチケットか何かを頼まれていたので、僕は『何が? チケット?』と聞き返したほどです。すると松井は『違う、違う。手術を受けるのをやめると言ったら、まだ間に合うかな』と言うので、びっくりしました。『なんかちょっと、歩ける気がしてきたんだよね』なんて言い始めたのです」
−−ヤンキースタジアムに入ってからの約1分30秒間に、どんな心の動きがあったのか
「『待てよ、明日手術だとすると俺はもう、この大好きなヤンキースタジアムでプレーできないのか?!』と考えたのではないでしょうか。だって、ヤンキースタジアムは今年限りで86年の歴史を閉じ、壊されてしまうのですから」
−−松井の心変わりに対して、球団首脳の反応は?
「最終的には、松井の意向を尊重してもらえることになりました。ただし、『ひざに水がたまったら即手術だからな』と念を押されました。特にキャッシュマンGMは『(手術を回避するのは)理解しがたい』という感じでした」
−−実際、松井の足の状態は?
「痛みは本人にしか分かりませんが、僕も『手術をしないって、それはお前、無理だろ』という言葉が口から出かかりました。しかし、僕は彼と付き合って16年になりますが、訴えかけてきた目がいつもと違ったんです。そこまで言うなら気持ちを酌んでやらなければ−と思いました」
≪手術を回避した松井は、リハビリを経て戦列に復帰を果たし、恩師の巨人・長嶋終身名誉監督に並ぶ通算444号本塁打も放った≫
−−松井にとって今季最後の試合は、9月21日のヤンキースタジアム最後の試合でした
「シーズン最終盤、ジラルディ監督から『何か要望はあるか?』と聞かれると、松井は『ヤンキースタジアム最後の試合には出たい』と即答していました。実際、8番DHで出場してヒットも打ちました。松井が球団首脳の意見に逆らってまで手術を回避したことは、当初は米国の合理的な考え方では理解しがたかったと思います。でも、最後はジラルディ監督が『ヒデキは“あきらめない”という姿勢を、チームへ身を持って教えてくれた』と言ってくれましたし、米国のメディアの評価も称賛に変わっていました」
【新妻も加わり、総力サポートへ】
本拠地最終戦翌日の9月22日、松井はようやく左ひざの内視鏡手術を受けた。
3月に結婚したお相手は、写真も名前も極秘のままだが、広岡氏は「すごくしっかりされていて、ルーズなところがあった松井の時間の観念が変わりました。それと栄養管理がなされたことで、食事に関してバランスが良くなり、その点でストレスが明らかに軽減された」と指摘する。
遅刻王の異名を取った松井が、結婚効果で時間に几帳面になったとすれば、微笑ましいような、なんだか松井らしくなくて寂しいような…。いずれにせよ、来年は4年契約の最終年。広岡氏を中心とした“チーム松井”に、新妻も加わって、総力を挙げてサポートすることになる。
■広岡勲(ひろおか・いさお) 1966年12月29日、東京都大田区生まれ。早稲田中学、高校を経て、ハワイ・パシフィック大学へ。卒業後、報知新聞社に入社し、巨人担当記者を7年間務め、長嶋茂雄(現終身名誉監督)、松井秀喜らから信頼を得た。ニューヨーク市立大学大学院に留学し、修士課程を修了(ジャーナリズム論、思想・哲学専攻)。03年にメジャー移籍する松井の求めに応じて退社し、ヤンキース広報部入り。現在は環太平洋担当として米国、日本、台湾メディアのパイプ役も担う。
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