この1品が客を呼ぶ:「はり重カレーショップ」ビーフワン

2003.04.07 267号 24面

常に人でにぎわう大阪・道頓堀にある「はり重」は、創業80年の「肉の老舗」として大阪人に愛されている店である。高級なすき焼きを提供する店として知られているが、手軽に食べられる庶民的なメニューも健在だ。はり重の洋食部門である「はり重カレーショップ」の名物「ビーフワン」(650円)を紹介する。

重厚な雰囲気の、はり重本店。現在地に移転した昭和23年当初は、すき焼きなどの日本料理にステーキなどのグリル、精肉販売の三本建てで営業していたという。その一〇年ほど後に誕生したのが「はり重カレーショップ」だ。

「高級な食事だけではなく、早くて安いメニューを提供しようと、創業者の先代社長が開店したもの。最初はカウンターのみで、メニューもカレーライスだけでした」と話すのは、二代目の藤本稔社長。手軽に食べられるカレーライスは好評を博すが、毎日食べてはもらえない。「常連にも飽きられないメニューを」と、ほかの洋食メニューとともに登場したのが「ビーフワン」だ。

ビーフワンと名前はカタカナだが、中身は和風。見た目も風味も牛丼だが、一般的な牛丼とは違う奥行きのある味わいだ。肉は、普通の牛丼と同様に薄切り肉を使用しているが、口に入れるとほんのりと甘みを感じる。肉本来のおいしさを実感させてくれる瞬間である。

また、卵とじの半熟具合も絶妙。少なめの汁に、生に近い部分の卵がからまり、独特の味わいを演出している。上に振りかけたサンショウでアクセントをつけた、品の良さも感じられる丼だ。

材料は、牛肉五〇gに玉ネギ、ネギ、卵と、いたってシンプル。作り方にも特別な仕掛けはないとか。味付けのポイントは、すき焼きで使用している割り下を煮汁として利用していること。割り下には、牛の骨とスジから取っただしに薄口と濃い口醤油、砂糖、みりんなどを加えているという。いわば伝統の味が丼に生かされているというわけだ。

道頓堀周辺ではチェーンの牛丼店も多いが、中高年には入りにくい雰囲気がある。そんな客にとってこの店のビーフワンは、気楽に食べられる牛丼といえる。

「せっかく心斎橋や道頓堀に遊びに来たんやから、おいしんもんでも食べよか、という時に利用してもらえている。デフレとはいえ、やっぱり、みんなうまいものを求めているんやね。六五〇円の価格に見合う商品を提供できていると思います」と、藤本さん。利用客は、古くからのファンや近所の商店主などのほか、若い世代も多い。とくに週末には行列ができるほどの人気だという。

「気軽に入れるカレーショップではり重を知ってもらって、次はグリルや日本料理を利用してもらいたい。はり重のステーキやすき焼きも食べてみたいという、きっかけになれば」という。

グリルは客単価三〇〇〇円、すき焼きは一人六〇〇〇円から。「いつも」はカレーショップで、「ときどき」はグリル、「たまには」お座敷ですき焼きを、と予算に合わせて三段階で利用してもらうのがねらいだ。ビーフワンは、店のファンを増やすための重要な役割も担っているといえるだろう。

カレーショップでは、ビーフワンのほか、昔風の味で人気のカレーライス(五五〇円)や、一口カツ(一〇〇〇円)、ビフカツ(八〇〇円)などの定食メニューも用意。テークアウトのカレーソース二人前六〇〇円、三人前九〇〇円も販売している。

◆「はり重カレーショップ」=大阪市中央区道頓堀一‐九‐一七、電話06・6213・4736/坪数席数=約四〇坪三八席/営業時間=午前11時~午後9時、火曜定休

◆こだわりの食材 キッコーマン特選醤油

はり重では、軟らかさと甘みが違うという和牛の牝のみを使用。店の精肉販売価格で一〇〇g三〇〇円~五〇〇〇円の商品を扱っている。ビーフワンの主役である肉には、一〇〇g四〇〇円のこま切れ肉を使用しているが、その味を引き立てるのが煮汁。煮汁は、すき焼きの割り下をベースに、あっさりとした口当たりにアレンジされるという。

割り下は、昔からのレシピに基づいて調合されるというが、キッコーマンの特選醤油も調味料の一つとして使用されている。さらに、この醤油は、カレーの隠し味としても使われているとか。ルーに醤油を加えることで味がしまり、うまみが出るという。

◆記者席からのコメント

ビーフワンの「ワン」は、お「椀」に入っているということと、ナンバー「1」をかけて先代がネーミングしたらしい。洋食メニューと思いきや、お盆に乗って登場するのは、丼と福神漬け、日本茶のセット。初めて食べる客は、その意外性にまず驚く。しかし、レトロな雰囲気の店内では、しっくりなじむのだ。

古い店に代わって新しい業態が進出するなど、最近の心斎橋周辺も変わりつつある。昭和の雰囲気を残す落ち着きがこの店の魅力であり、多くの人に愛される理由だろう。大人が楽しめる貴重な店といえそうだ。

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