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観光客でにぎわう輪島市河井町の朝市通りで、ひときわ看板の「永井」が目立つ永井洋服店。シャツやズボンが整然と陳列され、落ち着いた雰囲気の店内には、少し趣の異なる一角がある。同市出身の漫画家・永井豪氏(77)の作品「マジンガーZ」や「デビルマン」「キューティーハニー」のグッズで埋め尽くされた棚だ。
「実はファンが持ち込んだものです」。店主の永井哲也さん(61)が明かす。永井氏の親戚にあたる哲也さんの店は、永井作品を展示する永井豪記念館のはす向かいにある。県内外のファンが店を訪れて置いていくフィギュアや漫画は数知れず、店頭に出ているのは半分ほどだ。倉庫にはまだまだお宝が眠っている。
ファンが来店するようになったきっかけは、哲也さんについて知った金沢市の男性が、2000年頃に店を訪れたこと。その後、ファンの間で広まり、09年に記念館が開館すると、グッズを持ち込む人が現れるようになった。
元々、哲也さんが永井氏の出演したイベントや記念館PRのポスターを貼るためのスペースだったが、ファンのグッズを受け入れるようになると、その数はどんどん増えていった。今では、記念館内のマジンガーZ像と同様、ファンの撮影スポットになっている。中にはあまりの数の多さに、商品と勘違いする人も。
記念館の周年イベントに合わせて訪問する人が多く、熱心なファンが、連載中の漫画の感想やグッズの情報を店で語り合う。10回ほど訪れた関東地方の50歳代の男性会社員は、この店を「輪島を訪れた時の憩いの場所。第2記念館だと思っている」と話す。哲也さんもファンから近況を聞いたり、輪島のことを教えたりして「こうした交流は楽しい」という。
アニメツーリズムに詳しい近畿大の岡本健准教授(観光学)によると、ファンが聖地近くの店にグッズを置いていく事例はほかにもあるといい、「自分が大切にしている作品との関わりを表現しているのでは」と推測する。増えていくグッズを見るのを楽しみに再訪するファンもいるといい、「(交流できる場が)付加価値となり、旅の満足度が高くなる」と指摘する。
記念館の周年イベントはコロナ禍で20年以降実施されていない。ただ、輪島市観光課は、開館15周年の節目となる来年はイベントを再開させたい考えだ。実施されれば、ファンたちが交流を求めて、もう一つの「聖地」に集う光景がまた見られるかもしれない。(福原悠介、おわり)