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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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英語で「バラの下で(under the rose)」が…

 英語で「バラの下で(under the rose)」が「秘密に」「ないしょに」との意味なのは古代ローマの習慣にもとづく。バラの花を天井につるした宴会では、そこでの会話を口外せぬという約束があったのだ▲伝説ではキューピッドが母親ビーナスの情事を隠すため沈黙の神ハルポクラテスにバラを贈ったのに由来する。今も宴会場の天井や教会の告解席にバラが刻まれていれば「秘密に」のサインである(ブルーワー英語故事成語大辞典)▲それにしても“初仕事”が天井からバラをつり下げることだったのには、びっくり仰天した。山下泰裕(やました・やすひろ)氏が会長に就任した日本オリンピック委員会(JOC)が、今まで一部を除き公開してきた理事会を完全非公開にするというのだ▲何あろう五輪招致で不正疑惑をかけられたJOC会長を引き継いだ山下氏である。加えて不明朗な組織運営に根ざした競技団体の不祥事が相次ぎ、公正・透明なガバナンス(組織統治)がスポーツ界全体に求められていたおりだった▲公開すると「本音の議論ができない」のだそうな。こと五輪をめぐり一体どんな「本音」を交わすつもりなのだろう。競技団体の不祥事では「社会常識とのずれ」が指弾されたが、JOCにして時代が見えていないのでは救いがない▲アスリート第一、世に開かれたスポーツガバナンスをこそレガシー(遺産)としてほしい東京五輪である。沈黙を強いるバラはスポーツ界に似合わない。力と技をたたえるオリーブの栄冠があればいい。

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