イラン、中ロ主導組織加盟へ 上海協力機構が合意
【モスクワ=石川陽平、ドバイ=岐部秀光】中国とロシアが主導する地域協力組織の上海協力機構(SCO)は17日、タジキスタンのドゥシャンベで開いた首脳会議でイランの加盟手続きを始めることで合意した。イランは中ロに一段と接近し、中ロ側はユーラシア大陸での影響力を広げる狙いがある。同機構は米国への対抗軸としての性格が強まるとみられる。
SCOは中ロと旧ソ連・中央アジア4カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)が2001年、国境の安定と安全保障での協力を目的に上海で設立した。17年にインドとパキスタンが加盟し、創設20周年の今年、オブザーバー国だったイランの加盟を承認する方針だ。インドなどは実際の加盟まで2年ほどかかった。
SCOは17日、サウジアラビアやカタール、エジプトの3カ国を「対話パートナー」とすることも決め、機構としての国際的地位を高める考えだ。
SCOは軍事同盟のような国家間の強い結束はなく、安保や経済、文化など幅広い分野で緩やかな協力体制をつくっている。中ロ両国は超大国である米国の一極体制を崩し、欧米やアジアなどの有力国が連携して国際秩序を形成する「多極化世界」の形成を目指してきた。
SCOの加盟国には中ロをはじめ強権的な国家体制を持つ国が少なくない。共通の目的として「内政への不干渉」などを掲げ、世界で民主化を進めようとする米国に対抗してきた。イランも米欧と対立する強権的国家の一つとみなされており、中ロとイランの連携強化は今後、一段と欧米の懸念材料となる。
SCOにはインドも入っているが、全方位外交を掲げる同国は緩やかな協力や多極化世界の構築について他の加盟国と足並みをそろえることはできる。インドも中ロが掲げる「内政の不干渉」などの基本原則では一致できるほか、国境問題で激しく対立する中国との対話を探る場にもしている。
イランでは8月に強硬派のライシ新政権が発足し、米国に対抗するうえで中ロと協調を強める利点は大きい。ライシ大統領は就任後初の外遊先としてSCO首脳会議が開かれたタジクを選んだ。ロシア通信によると、ライシ氏は17日「SCO加盟で一方的な制裁に対抗できるようになる」と強調した。
イランの最高指導者ハメネイ師は外交の軸足を近隣国やアジア諸国、ロシアなどに移すべきだと主張してきた。21年3月には中国との包括的戦略合意に調印しており、同国の広域経済圏構想「一帯一路」の拡大にもつながりそうだ。ロシアとも今年、01年に締結した「相互関係の基礎と協力の原則に関する条約」を延長した。
イランの加盟で、SCOがアフガニスタン問題への対応でも影響力を強めそうだ。SCO加盟国とイランは17日、アフガン情勢の安定に協力する姿勢を鮮明にした。イスラム主義組織タリバンがほぼ全土を制圧したアフガンの混乱に危機感を強めており、SCO主導で少数派民族などを含めた「包括的対話」による和平を促す。
SCO加盟国とイランの領土はアフガンの周囲に広がり、テロリストや麻薬の流入、投資の減退など直接の悪影響を受けかねない。中国国営の新華社によると、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は17日、「アフガンは依然として多くの困難な課題に直面し、国際社会、特に地域の国々の支持と援助を必要としている」と訴えた。
ロシアのプーチン大統領も同日、「タリバンは破壊されたインフラの復興が重要な課題だと考えている」と指摘し、国連の主催による復興支援のための国際会議開催を支持した。アフガンの政権承認に向け、旧ソ連諸国がつくる集団安全保障条約機構(CSTO)とSCOの加盟国が立場を調整すべきだとも語った。