流星の電波観測

第一部 流星の電波観測って何?


−電波観測の仕組み−

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第二部 「流星電波観測をはじめよう!」 >>

流星電波観測って一体何なのでしょう?第一部では流星電波観測について紹介し,流星電波観測が流星活動をモニターする上で有効な手段であることを知って頂きたいと思います。


  流星電波観測の歴史

流星電波観測は,昔からレーダー観測として実施されてきました。これは後から示す「後方散乱」による流星電波観測です。この方法で観測するには大がかりなシステムが必要でしたが,流星の位置情報をはじめ,詳細情報を得ることができます。1980年代に入り,日本の鈴木和博氏がFM放送局の電波を利用した流星電波観測を世界に発表し,ここからFM放送局の電波を利用した流星電波観測がスタートしました。鈴木和博氏は現在,日本流星研究会の流星電波観測の幹事として活躍されております。

1990年代に入り,日本では,FM放送局の増加,特にミニFM放送局の増加に伴って,FM放送局を利用した流星電波観測が困難な状況となってきました。ちょうどその頃,偶然にも,流星電波観測者とアマチュア無線家が,中村卓司氏を介して交流がもて,アマチュア無線を利用した流星電波観測の試験観測が90年代半ばに行われ,1990年代終わりには,流星電波観測の定番として確立,1998年〜2001年のしし座流星群をきっかけに,高校や大学,アマチュア無線家にも広まり,現在は日本でおそらく100地点近くが観測しているものと思われます。また,安価な専用受信機の発売や,Windows用の自動観測ソフトが開発されるなど,ここ最近の日本流星電波観測の発展はめざましいものがあります。

これまでの多くの方の努力と試験観測,協力によって現在の日本流星電波観測が成り立っています。これよりさらに詳しい事は「流星電波観測ガイドブック」をご覧下さい。


  流星は大気を電離する

流星は発光する際に,周辺の大気を一時的に電子とイオンにわける”電離”という状態を引き起こします。すると,その周辺は,瞬間的に電子の濃度が濃くなります。これを”電離柱”と呼んでいます。電離柱は,流星がそれを生成してから,わずかな時間の間に大きく変化し,時間と共に拡散して消滅します。注意していただきたいのは,流星の発光現象とはおそらく別物であるということです。難しい話になりますが,流星が発光して目で見える現象は,流星物質や大気の物質が励起されてプラズマ化し,励起状態から通常状態へ戻る際に放出されるエネルギーで光っています。従って,流星の電波観測では周辺大気の電離現象をみていますので,基本的には切り離して現象を考えた方がいいでしょう。


  電離柱(自由電子)は電波を反射させる

電波観測で使用する無線の電波領域は通常宇宙空間へ突き抜けてしまいます。しかし,流星が発光し,電子濃度が濃くなるとこの電波も反射します。そもそも,自由電子には,超短波(VHF)帯の電波(30MHz〜300MHz)を散乱させる性質があり,自由電子の濃度上昇によって電波の散乱が起こるというわけです。つまり流星が出現すると電波が反射するというシステムが完成するわけです。そして,電波が反射してきた数を数えて流星の数とするのです。その反射してきた電波を「流星のエコー」と言います。






−電波観測の特徴−


さて,ではなぜ流星の電波観測を行う必要があるのでしょう? 目的は一体なんでしょうか。それを以下にまとめてみました。さらに,電波観測のメリットとデメリットを掲げてみました。ただし,ここ数年で多くのことが研究されてきています。その研究成果や,より詳細な流星電波観測の特徴・意義は「流星電波観測ガイドブック」をご覧下さい。

   電波観測の目的
・ 突発出現を捕らえる。
・ 昼間に活動する流星群を捕らえる。
・ 天候に左右されず確実に流星群活動を捕らえる。

   利点
・ 曇りでも雨でも,日中でも観測できる全天候型。
・ 手軽で現地にも運べる。
・ PCを使えば,24時間体制で流星観測ができる。

   欠点
・ 群流星と散在流星の判断ができない。
・ Es(スポラティックE層)や飛行機のエコーも受信される。
・ 流星電波観測で観測された流星エコー数が眼視観測で言うZHRのどの程度に相当するかが不明
・ 流星の入射角によって,反射特性が出るが,その補正値が確立していない




−電波観測の種類−


さて,流星の電波観測がどういうものかは,おわかりいただけましたでしょうか? それでは,実際流星の電波観測はどのような種類があるのかご説明したいと思います。

  散乱の種類

流星は電離柱で反射すると説明しましたが,厳密には,散乱が起こっているわけです。みなさん次のような経験はないでしょうか。「強力な懐中電灯を夜に外でつけたら,光の帯ができた」これは,光が大気中の粒子によって散乱しているのです。流星が発光した際に電波があたると,電波もそこで散乱が起こります。その散乱には二種類あります。

   前方散乱 (HRO, FROはこちら)
電波を送信している送信局と,受信局が異なる位置になります。つまり,電離柱に対する入射角で受信地が決まります。現在日本で主流になっている流星の電波観測 (HRO) はこちらの散乱を利用しています。海外では,日本で従来盛んであったFM放送局を利用したFROや,TV放送のFM音声を利用したTROが行われています。世界的にも,観測地が多く,現在の流星電波観測は主にこちらが表立っています。前方散乱は英語ではForward Scattering 。

   後方散乱 (レーダー観測はこちら)
電波を発信して自ら受信する,送信局と受信局が同じになる散乱です。昔からレーダー観測として世界で行われてきました。近年は,前方散乱を利用した流星電波観測が主力なってきていますが,チェコやオーストラリア,日本の信楽にあるMUレーダーなどは有名です。この観測では電離柱に対して垂直に当たることが条件です。電波を発信してから,その電波が戻ってくるまでの時間を測定することによって,その物体への距離を測定することができます。英語ではBack Scattering。



  流星の電波観測の種類

上記のように,電波の散乱の種類は二つありますが,今回みなさんが行う流星の電波観測は,前方散乱による観測を行います。さて,そのような中で,流星の電波観測は,以下の3種類があります。それぞれ特徴があります。しかし,これから流星の電波観測を始める方には,HROをお勧めします。なお,各観測方法について,実施の仕方は別ページにて詳しく解説します。

   HRO(Ham-band Radio Observation)
現在日本で,高校生からプロまで広く使われている観測方法です。用いる周波数は53.750MHzで,福井工業高等専門学校の前川公男氏が24時間休みなく発信して下さっています。自動観測ソフトも開発されており,初心者でも観測は容易です。この観測方法は,1996年に,流星電波観測者とアマチュア無線家の交流会で試験観測の計画がなされ,その後の試験観測の後,現在の安定した観測がなされるようになりました。日本の流星電波観測の主流はこのHROです。また現在は,28.208MHzの観測もなされており,比較による新たな研究も始まっています.

   FRO(FM Observation)
HRO以前に行われていた観測方法で,みなさんがラジオで聴く,FM放送局の電波を用います。最近は放送局の多局化で観測が難しくなってきました。しかし,条件さえ整えば実施は可能なため,現在も観測を続けて見える方もおられます。この観測方法はFM放送局を使用するからといって,お手持ちの普通のラジオではまず聞こえません!きちんとした受信機とアンテナが必要です。念のため....。

   MURO(MU Radar Observation)
中・高層大気を観測する目的で用いられていますが,流星の電波観測としても用いることができます。周波数は46.500MHzです。出力が大きく,多くの流星数を捕らえることが期待されますが,毎日発信されていないため注意が必要です。

   VOR (VHF Omni directional Range)
この観測方法は2002年より本格的に行われるようになってきました。HROの53.75MHzに比べて周波数が108MHz〜118MHzと高めになっています。このVORは,超短波全方向式無線標識施設の略で,航空機に対してこの施設からの方位情報を提供するための施設です。周波数の安定性があまり良くないのが欠点ですが,HROとの比較観測としては良い試みといえるでしょう。


  日本は既にHROの時代
日本での流星電波観測は,このページの先頭の歴史にも記述したように,FM放送局が増えたことから観測は困難な状態です。また新たにはじめようとする方には,受信機や記録器が高価で入手しにくいことから,もはやHROの時代です。HROは安価で手軽にはじめられるのに加えて,FROより捕らえられる流星数が格段と多いです。そのため,これからはじめる方にはHROをお勧めします。







これで流星電波観測についての知識は最低限は学びました!


次はいよいよ観測だ!
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