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風俗界の大発明『ノーパン喫茶』は、こうして男たちをトリコにした

山本晋也×みうらじゅん×イヴ

一見、よくある街の喫茶店に行列が! コーヒーを飲む以上のサービスはないはずなのに、男たちは血眼になって通った。ただ、あの子のアソコを見たいがために――。

やまもと・しんや / '39年、東京都生まれ。映画監督として「未亡人下宿」シリーズなどを手がける。出演する『甦るトゥナイト2』がCSテレ朝チャンネルにて12月25日に放送
みうら・じゅん / '58年、京都府生まれ。イラスト、エッセイをはじめ幅広い分野で活躍し、日本の性文化にも詳しい。近著に『されど人生エロエロ』などがある
イヴ / '63年、静岡県生まれ。「ノーパン喫茶の女王」としてテレビなどで人気に。'84年には日活で主演映画デビューを果たす。その後はストリッパーとしても活躍した

客の視線が一斉に動く

みうら ノーパン喫茶が登場したのは'80年頃。僕は当時大学生で、地元の京都に帰省したときに金閣寺の近くにあった『モンローウォーク』という店に連れて行ってもらったのが初めて。京都には元祖ノーパン喫茶と呼ばれる『ジャーニー』という店もありました。

山本 ノーパン喫茶の始まりには諸説あるんだよ。京都説、大阪説、福岡説、東京説といろいろあって、いまだにどれが本当かわからない。でも、最初は2〜3軒だったのが雨後の筍みたいに増えていって、あっという間に何百軒とできちゃった。

みうら 普通の喫茶店だったのに、ある日突然ノーパン喫茶に衣替えした店もありました。以前から店にいた女性がそのままノーパンでウェイトレスをやっていて驚いた。

イヴ 私が新宿歌舞伎町のノーパン喫茶『USA』で働き始めたのは'83年です。街にはノーパン喫茶が溢れていましたね。

みうら 最初はどんな店なのか想像もつかなかった。店内をノーパンの女の子がウロウロ歩いているのかと思ったら、注文をしないと女の子は近くに来てくれない。床が鏡貼りだったので、女の子が注文をとりにくると、ワカサギ釣りみたいに客は一斉に下を向いていました。

山本 自分のところに注文を取りにきたときは、対面するから顔しか見えないんだよな。でも、ほかの客のところに行くと、後ろ姿が見えるじゃない。コーヒーをテーブルに置くときに、女の子がちょっとかがむと客の視線が一斉にそっちに向いていた。

イヴ ズルズルと体をずらしていって、できるだけ低い姿勢になろうとする人もいました。なかには手鏡を持ち込む人も。そういうときは、「お客さん、ダメですよ。そこまでしなくても見えるんじゃないの?」って、やさしく注意しました(笑)。

山本 よく磨いたジッポーのライターを鏡の代わりにして、一生懸命スカートの中を覗こうとしている奴もいたな。「ああ、人間っていうのは、こういうことには頭を使うんだな」と思ったね(笑)。

 

不毛な陰毛論争

みうら でも、初期の頃はノーパンといってもパンストを履いていたので、そんなにはっきり見えるわけじゃないんですよね。

山本 そうなんだよ。女の子を横から見ると、後ろのほうのスカートの丈が前よりもちょっとだけ短かった。だから、ヒップラインは丸見えで、そこに肌色のパンストを履いていたから見ようによっては裸に見えたということ。

みうら なかには、「俺は(女性器も)バッチリ見えた」と豪語する奴もいたけど、よほど動体視力がよくないと無理。

イヴ 私の店では、上半身はトップレスで、首に蝶ネクタイ、手首にカフスみたいなものを着用。下はミニのタイトスカートで、下着は着けずにストッキングだけ履いていました。

みうら でも、コスチュームもだんだんとエスカレートして過激になっていった。後になって、パンストさえ履かず、本当にノーパンのお店も出てきました。

山本 大阪の『あべのスキャンダル』では、「前貼り」ならぬ「筋貼り」をしていたんだよ。細い布を割れ目ちゃんに貼り付けて、毛が出ているとまずいから、はみ出ている毛を全部剃っちゃうわけ。

イヴ ハハハ。毎回毛を剃らなきゃいけないなんて大変そう。

山本 でも、これに警察が文句を言い出した。「陰毛は髭と同じ。2〜3時間もすればまた生えてくるのだから、剃った部分にも陰毛はある」というのが警察の言い分。それで店側と陰毛論争になるんだけれど、あまりにもばかばかしいので結局摘発はできなかった(笑)。

みうら いい時代でしたね。それにしても、ノーパン喫茶を考え出した人はスゴいですよ。女の子にパンスト一丁でコーヒーを出させようなんて発想がそもそも狂っている。すさまじい概念の改革です。

山本 たしかに。おさわりは禁止で、体裁としては女の子側はウェイトレスをやっているだけだから、警察もどう取り締まっていいのかわからない。ホント、考えた奴は頭がいい。

みうら しかも、それをやったのが大阪じゃなくて京都だったところが面白い。えげつないことは大阪がすごく得意だけど、とんでもない発想でありえないようなことをやっちゃうのは京都のほう。京都には平安の昔からそういう革新的なところがあるんですよ。

イヴ 「ノーパン喫茶」というネーミングもインパクトがありましたよね。「喫茶」に「ノーパン」を付けるなんて普通は考えられない。

みうら 『学生街の喫茶店』に象徴されるように、喫茶店は'60年代を過ごした人にとって青春の匂いのする場所。そこに「ノーパン」をくっつけた。「ノーパン」と「喫茶」の組み合わせなんて、「アップル」と「ペン」をくっつけた「アッポーペン」よりもすごい。(ピコ太郎の人気に火を付けた)ジャスティン・ビーバーだってビビりますよ。

山本 笑っちゃうよ。それにしてもイヴちゃんは、どうしてお店で働こうと思ったの?

イヴ 高校卒業後、地元の静岡でデパートガールをやりながらときどき東京に遊びにきていたのですが、出費が嵩むのでそう頻繁には出てこられなくて。そんなとき、友達から「ウェイトレスなんだけれど、すごく時給がいいの」と紹介されたのが『USA』でした。

試しに1日だけ働いてみたところ、2時間だけ働いて6000円。そんなにもらっちゃうともうダメですね。その3日後には今度は新幹線に乗って遊びに来て、新幹線代を稼ぐために働いていました(笑)。

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