【ノーサイドの精神】《ラグビーが好きや いつもありがとうな 感謝してんぞ》
今夏、SNSに投稿された一文だ。そういうファンはたくさんいるだろう。が、その投稿主の置かれた状況を知るだけに心が動かされた。
2017年度京産大ラグビー部主将、HO中川将弥(まさや)さん(24)。
同年11月25日、京都・西京極陸上球技場で行われた関西大学Aリーグ、近大戦の後半。中川さんはタックルを受け、グラウンドに倒れた。
「頸椎損傷」。首から下の感覚が無くなった。「失神するほど」つらいリハビリに耐え、杖無しで60メートルほど歩けるまでになった。が、日常生活には車いすが欠かせない。リハビリは今も続く。内定していたトップリーグ(TL)チームへの就職もなくなった。
それでも事故から3年、一度としてラグビーが嫌になったことはないという。
「ラグビー一筋で生きてきました。その中でいろいろな人との出会いがあり、僕という人格を作ってくれた。だから、感謝しかない」
小1からラグビーを始め、御所実(奈良)、京産大と強豪チームを歩んだ。「御所実の竹田(寛行監督)先生、京産大の大西(健・前監督)先生にはあいさつとか、人として必要なことを教えてもらいました」。そして、全国的にも知られる京産大の猛練習では「肉体的にも精神的にもタフになりました。だから、リハビリにも耐えられました」と笑う。
そうした縁の1人に、中川さんにタックルした近大FLの田中伸弥(24)がいる。
「あいつは僕に悪いことをしたと悩んでいたそうです。でも、僕は『そんなの嫌や』と。それで会うようになりました」
田中はあの試合からまもなく胸部にがんを患っていることが判明。化学療法、2度の手術を経て現在はTLの三菱重工相模原でプレーを続けているのだが、入院中は互いに「俺も頑張るからお前も負けんな」と励まし合ったという。
中川さんは今春、2年遅れで京産大を卒業し、精密機器大手・島津製作所(京都市)に就職。ラグビー部にも所属している。プライベートでは、事故前から交際していた同学年の結花さんと結婚し、4月には長男、誇貴(こだか)くんが誕生した。
「息子と一緒に歩きたい。リハビリ、もっと頑張らなきゃいけませんよね」
屈託なく話す中川さんの顔を見てラグビーの魅力に改めて触れた気がした。(月僧正弥)