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ヒット速報

木村拓哉と松たか子の黄金コンビができるまでのウラ事情 


 テレビ業界を仰天させたのが、『ラブジェネレーション』(フジテレビ系)の大ヒットだ。木村拓哉と松たか子が、広告代理店の同じ部署に勤めるサラリーマンとOLに扮した恋愛ドラマである。

 10月13日スタートの初回でいきなり31・3%(ビデオ・リサーチ関東地区調べ)の高視聴率を記録した。これはフジの連続ドラマの初回では、『ロングバケーション』(30・6%)を抜いて歴代1位。しかも、2回目以降はガクンと視聴率が落ちるドラマが多いなかで、翌週も30・1%と高視聴率を続けている。視聴者の期待度だけでなく満足度も高かったようだ。人気が社会現象化して、今年最大のヒット作になるのは間違いない。
個人視聴率で分かった
月9に起きた異変とは? 
 
 フジの山田良明・第一制作部長は、ヒットの理由について、木村拓哉と松たか子という超人気者が共演する話題性に加えて、「月9に久しぶりに登場する純粋なラブストーリーへの期待感が強かったのではないか」とみている。

 『ラブジェネ』を放送しているフジの月曜夜9時枠(通称:月9)では最近、ある異変が起きていた。
 「月9を見るのは若い女性」といわれ、長い間、個人視聴率ではF1(20〜34歳女性)が最も多く、次がティーン(13〜19歳男女)という構成だった。それが昨年秋あたりから、ティーンがF1を逆転したという。今年もホームドラマ『ひとつ屋根の下2』、男の友情もの『ビーチボーイズ』と恋愛色が薄いドラマが続いたこともあり、傾向は変わらず。視聴者層の低年齢化が進んでいた。
 逆に、トレンディドラマ以来の月9ファンであるF1層の”恋愛ドラマ飢餓感”は飽和点に達していたとみられる。そこに小岩井宏悦プロデューサーが「完全にF1狙い」と言うラブストーリーの直球を投げ込んだので、OLや主婦がドッと月9に戻ってきて、人気が大爆発したようなのだ。
 こうみると、フジのマーケティング戦略の大勝利ということになる。だが舞台裏を明かせば、それほど計算づくで事が運ばないのがテレビの世界。『ラブジェネ』も誕生までに紆余曲折があった。
キムタクと松たか子を
結びつけた”ある男”は誰? 
 
 当初、10月スタートの月9は田村正和と松たか子が共演する企画が進んでいた。ビックコミックオリジナル(小学館)に連載中の漫画『じんべえ』のドラマ化で、親子の役を演じるはずだったのだ。『ひとつ屋根の下2』などを手がけた杉尾敦弘プロデューサーのもと、吉田紀子氏による1話の脚本もできていたという。

 ところが夏に、田村が体調不良を理由に降板。主演は木村拓哉と松たか子の組み合わせに変わり、プロデューサーは小岩井氏、脚本は浅野妙子氏と尾崎将也氏という『ミセスシンデレラ』のチームが手がけることになった。そして生まれたのが『ラブジェネ』である。
 一方、杉尾プロデューサーと脚本の吉田氏は、水曜夜9時の枠に回り、草なぎ剛と瀬戸朝香の共演で『成田離婚』の企画を立ち上げた。
 そんなアクシデントがあり、2本とも放送開始まで数カ月しかないというハードなスケジュールで制作が進んだ。もし田村が降板しなかったら、『ラブジェネ』も『成田離婚』も存在せず、フジは俳優の顔合わせもスタッフもまるで違うドラマをつくっていただろう。だが、『成田離婚』も21・5%の高視聴率をあげ、結果として2本とも二重丸以上の成果をあげた。
小岩井宏悦プロデューサーは
どこで作劇術を学んだのか? 
 
 今回のケースでわかるように、フジのドラマのつくり方はキャスティング優先といわれ、まず局として主役級の俳優のスケジュールを押さえ、担当プロデューサーや企画は後から決まるケースが少なくない。

対照的なのがTBSで、プロデューサーが自らキャスティングに動くことが多い。だからTBSでは、プロデューサーと俳優の組み合わせが固定化しがちになる。
 逆にフジのプロデューサーは、与えられたキャスティングで最良の企画をつくれるタイプが育つ。TBSが”作家主義”とすれば、フジは”職人主義”といえる。
フジ第一制作部の山田部長は常々、「うちは個人プレーではなくてチームプレー。個々人が与えられた役割をきっちりこなすことで、局全体としてドラマが強くなることをめざしている」と語っている。『ラブジェネ』と『成田離婚』のヒットは、臨機応変なフジのドラマづくりの強さを示す好例といえよう。
 では、『ラブジェネ』のプロデューサーは、どんな人なのか。小岩井氏は、京都大学法学部を卒業後、新日鉄に就職。3年間勤めた後、ニューヨークにあるセイントローズ大学に2年間留学。帰国してフジに入社した。
 第一制作部では、『東京ラブストーリー』などを手がけた大多亮氏や『ロングバケーション』などの亀山千広氏の共同プロデューサーとして修業を重ね、昨年の『Age,35』で一人立ちをした。
 「自分は感性ではなくて理屈でドラマをつくるタイプ。大多さん、亀山さんの下で学んだ通りにつくっているだけです」(小岩井氏)
『ラブジェネ』をつくる上で参考にしたのは『東京ラブストーリー』と『男女7人夏物語』だった。そういえば、別の女を想っている男(木村)をヒロイン(松)が片想いするという構図は『東京〜』、木村と松のキャラクターや会話は『男女〜』の明石家さんまと大竹しのぶの関係をほうふつさせる
男だけの劇団カクスコは
なぜ『ラブジェネ』に出たのか? 
 
 ストーリーも、前半で2人の気持ちが高まり、中盤で恋が成就、後半は2人が別れて、もう一度くっつくかどうかという興味で最終回まで引っ張るという。ラブストーリーの定石通りの展開である。

ヒットの方程式をきっちり押さえる一方で、大学時代に劇団そとばこまちで演出や俳優をしていた芝居人間らしく、男だけの劇団カクスコ(71P参照)のメンバーを『ラブジェネ』で連ドラ初出演させたり、さりげなく小岩井色を織り込むことも忘れない。
フジの新ヒットメーカーの座についた小岩井氏。その手腕で今後、どこまで視聴率を伸ばすのか。
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