木枯し紋次郎の風景・・・上州長脇差のダンディズム

紋次郎が永遠に追い求めている姉は「お光」。全くの別人「おみつ」でやってます。

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閑話休題④・キャステイング

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ただ一人の主役、紋次郎のキャステイング

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「木枯し紋次郎」の製作に当たって、このドラマのただ一人の主役「紋次郎」に当時の有名俳優、田宮二郎、沢田研二ら数人が名乗りを挙げた。

原作の評判は良く、既に人気を得ていて、大映でも企画にあがったが、製作まで至らなかった経緯があった。TV局側は「木枯し紋次郎」が殺伐とした暗い内容で、主役がただ一人と今までにない時代劇であったため尻込みをしていたが、俳優達はこのドラマは「当たる」と勘が働いたのではないかと、中村敦夫は「俳優人生」で述懐している。

そもそも原作者の笹沢左保は、当時大スターであった田宮二郎をイメージして木枯し紋次郎を創作した。原作の「渡世人は長身であった。青白い顔色で、暗い眼差しと虚無的な無表情さが、その渡世人の冷たい凄みになっていた。彫の深い整った顔立ちは、笑うということを知らない感じだった。」の描写は、より田宮二郎に近いかもしれない。

故田宮二郎氏は、1960年代の大映の看板俳優であり、1966年の映画「白い巨塔」の財前五郎役で名声を決定的なものとし「昭和のクールガイ」と呼ばれた。しかし大映の当時の永田社長と衝突、大映を一方的に解雇され映画界から干されてしまう。その後1969年TVの「クイズタイムショック」の初代司会者で人気を得て、TV界のスターとなった。

その後は精神的に不安定な中、多くの事業に手を出して失敗、1977年日英合作映画の「イエロードッグ」の失敗で多額の負債を背負い、次第に精神を病み、躁うつ病と診断される。1978年12月28日の衝撃的な自宅寝室での猟銃自殺により、その劇的な人生を終えた。

後年、ご子息がTVのトーク番組で「父親が自殺する数日前、久しぶりで実家に寄った帰り、玄関先まで両親が見送ってくれた。遠ざかる車の中から両親を振り返えると、父親の足だけが何故か透明になったようで、見えなかったのが不思議だった。」と話していたのを、今でも忘れられない。合掌。

因みに、1973年の映画「必殺仕掛人」で緒方拳に続く、二代目藤枝梅安を演じている。

さて木枯し紋次郎の主役に、中村敦夫が抜擢されたのは、市川監督の考える「それまで演じた役のイメージが付いて回らない新人である事。長い合羽と大きく深い三度笠の似合う、長身で面長である事。」が大きな要因のようだ。

36年前の残暑の厳しい九月のある日、中村敦夫は電通本社隣の喫茶店で市川監督や当時の大物プロデューサー松前洋一と待ち合わせていた。喫茶店のガラス扉を開けて一直線に歩いてくる中村敦夫の姿を見た瞬間、市川監督は彼を「紋次郎」に決めたという。

この時すでに、タイトルバックで雄大な山々を背にして歩いて来る紋次郎の姿を、市川監督は思い描いていたのかも知れない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※本文中敬称略