【2月18日 東方新報】日本や米国などの映画、ドラマ、バラエティー、アニメ作品に中国語の字幕をつけてインターネットに違法アップしていたサイト「人人影視字幕組」の運営者ら14人が、上海市の警察に逮捕された。中国では「字幕組」といわれる海賊版グループが無数にあり、違法ながらも「海外文化の伝道師」と評価される側面もあったが、国内最大規模の字幕組の逮捕は「知的財産権を軽視した混沌(こんとん)時代の終わり」を象徴している。

 上海市公安局によると、運営者らは海外の海賊版サイトなどから作品を入手。翻訳スタッフに1作品400元(約6533円)の報酬で字幕を付け、2万点以上のコンテンツを違法にサイトやアプリにアップしていた。800万人以上が会員登録し、会費や広告収入などを得ていた関連金額は1600万元(約2億6133万円)に上るという。運営者らは全国に散らばっており、上海市公安局は山東省(Shandong)、湖北省(Hubei)、広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)の警察の協力を得て3か月にわたり捜査した。中心メンバーの梁容疑者ら14人を逮捕し、携帯電話20台とサーバー12台を押収した。

 中国で「字幕組」と呼ばれるグループは1000とも1万以上ともいわれ、実数は不明。その大半は、少人数で自分たちの好きな作品に字幕をつけてアップする趣味のグループだ。日本関連でいうと以前はアニメ作品の海賊版が多かったが、近年は日本のテレビ局が中国のネットテレビ局と提携して正規の放映が増えたため、ドラマやバラエティーなどの字幕組が増えてきた。「マツコ・デラックス(Matsuko Deluxe)専門字幕組」「嵐(Arashi)メンバーの桜井翔(Sho Sakurai)専門字幕組」「大河ドラマ専門字幕組」などグループも細分化している。

 あるグループは、日本にいる中国人留学生が番組を録画して中国本土の仲間にデータを送信。「生肉」と呼ばれる字幕なしの番組を数人が分担して翻訳し、まとめ役が全体のセリフを調整・編集する。徹夜で作業を続け、日本で夜に放映された翌日の午前中には字幕付き番組がアップされる。メンバー同士はネットで知り合ったので、お互いに顔も本名も住所も知らないグループも多い。

 こうした字幕組を、ネットの世界ではギリシャ神話のプロメテウスにちなみ「盗火」と呼ぶこともある。ゼウスの反対を押し切り、天界の火を盗んで人類に与え、文化の創始者となった神だ。中国で海外作品の輸入が制限される中、字幕組は海外文化を国内に伝える伝道師の役割を果たしてきた。「日本のアニメやドラマが好きで日本語を勉強するようになりました」と話す中国の若者は、多かれ少なかれ字幕組の作品を見ている人が多い。日本でも好きな音楽や番組の違法アップ作品をユーチューブで検索して鑑賞するのと基本はそう変わらない。自分が「推し」ている人物や作品のため、愛と情熱の力で、無償で翻訳した字幕作品は、たいていオープニングに「学習やコミュケーションのためにお使いください。商業利用は固く禁じます」というクレジットが登場する。

 しかし、老舗の「人人影視字幕組」が逮捕されたことは、「一時代の終焉(しゅうえん)」のように映る。インターネット上では「字幕組は日陰の存在であるべきなのに、多くの会員を募り、利益を上げる方法がまずかった」と批判しつつ、字幕組の存在自体は擁護や同情の声がある。一方で「字幕組自体がもはや時代遅れになっている」という指摘もある。「中国版AbemaTV」といわれるネットテレビ局「マンゴーTV」が多くの正規コンテンツを提供して人気となったり、ショートビデオを投稿する「抖音(Douyin)」がブレークしたりなど、ネットを巡る娯楽は多様化してきた。また、長期化する米中貿易摩擦の中で、米国は常に「知的財産権が侵害されている」と中国を非難しており、中国政府にとっても海賊版は野放しできない情勢になっている。

 ある中国メディアは「海賊版行為は『盗火』ではなく、『盗っ人』にすぎない」と指摘。今回の摘発で「知的財産権を無視した『野蛮な時代』は終わらないといけない」と訴えている。(c)東方新報/AFPBB News