第1節
原子力の開発、導入及び利用

1.原子力の意義と原子力政策の変遷

原子力発電については、燃料のエネルギー密度が高く備蓄が容易であることや燃料を一度装填すると一年程度は交換する必要がないこと、使用済燃料を再処理することで資源燃料として再利用できることから供給安定性に優れており、また、発電過程で二酸化炭素を排出することがなく地球温暖化対策に資するという特性を持っていることから、基幹電源と位置付け推進しています。同時に、核燃料サイクルについては、原子力発電所から出る使用済燃料を再処理し、プルトニウム等の有用資源を回収して再び燃料として利用するものであり、供給安定性等に優れている原子力発電の特性を一層改善することから、回収したプルトニウムを既存の原子力発電所(軽水炉)で利用するプルサーマルも含め着実に推進していくこととしています。

我が国の原子力開発は、1954年の保守3党による原子力予算の計上で幕を開けました。当時、我が国の原子力の開発状況は先進国に比べ著しく立ち遅れていました。そこで、できる限り速やかに原子力開発利用を推進する必要が指摘され、1955年、自主・民主・公開の三原則に従いその利用を平和目的に限ることを謳った「原子力基本法」が制定されました。

原子力開発の行政機構としては、1956年に「原子力基本法」に基づき、国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため原子力委員会が発足するとともに、総理府に原子力局が設置され、推進体制が整備されました。また、原子力委員会により、安全の確保、平和利用の堅持等の原子力に係る基本的考え方、我が国の原子力研究開発利用の基本方針や推進方策等を示した「原子力開発利用長期基本計画(当時)」が策定(以降約5年毎に改定)されました。以上のような経過を経て、我が国最初の商業用原子力発電所(日本原子力発電㈱東海発電所)が1965年5月に臨界を記録し、翌1966年に営業運転を開始しました。

第一次オイルショックにより電力危機への不安が増大したこと等を背景として、1974年、政府は、いわゆる電源三法(電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法5、発電用施設周辺地域整備法)により、発電用施設周辺地域の整備や安全対策をはじめとする発電施設の設置円滑化のために必要な交付金や補助金を交付する制度を創設し、電源立地を促進するための基盤を整備しました。翌1975年には、原子力発電の安全性に関する調査・実証実験等の委託費及び、原子力発電施設の耐震信頼性実証実験や原子力広報研修施設整備費等の補助金が新設されました。

更に、第二次オイルショックを経て、新エネルギーの開発・導入とともに原子力開発の推進が図られました。

2000年5月には、原子力発電を推進するに当たり、適切な対策が不可欠である高レベル放射性廃棄物の処分を計画的かつ確実に実施するため、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」が成立しました。これにより、高レベル放射性廃棄物の処分実施主体の設立、処分費用の確保方策、3段階の処分地選定プロセス等が定められました。

2001年1月の中央省庁再編時には、安全性の確保をより確実なものとするため、エネルギー利用に関する原子力安全規制と、電力・ガス・鉱山等に関する産業保安を一元的に担う原子力安全・保安院が発足しました。

また、2003年には、電源地域にとって一層使いやすく、効率的、有効性の高い制度となるよう交付金の一本化や福祉サービスの提供等を対象としたソフト事業の拡充等制度改正を行いました。

2005年10月には、今後10年程度の間の我が国の原子力政策の基本的考え方等を示す「原子力政策大綱(「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」から改称)」が原子力委員会により策定され、政府は、これを原子力政策の基本方針として尊重し、原子力の研究、開発及び利用を推進する旨の閣議決定を行いました。同大綱では①2030年以降も総発電電力量の30%~40%程度という現在の水準程度かそれ以上の供給割合を原子力発電が担う、②使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する、③高速増殖炉の2050年頃からの商業ベース導入を目指す、等の基本的方針が示されています。2006年8月には、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会が、「原子力政策大綱」の基本方針を実現するための以下の十項目からなる具体的方策を記した「原子力立国計画」をとりまとめ、原子力を推進する確固たる政策枠組みと具体的プランを明示しました。

電力自由化時代の原子力発電の新・増設、既設炉リプレース投資の実現

安全確保を大前提とした既設原子力発電所の適切な活用

核燃料サイクルの着実な推進とサイクル関連産業の戦略的強化

ウラン資源確保戦略

高速増殖炉サイクルの早期実用化

技術・産業・人材の厚みの確保・発展

我が国原子力産業の国際的展開支援

原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組み作りへの積極的関与

国と地域の信頼強化、きめの細かい広聴・広報

放射性廃棄物対策の強化

「原子力立国計画」は、2006年5月に経済産業省が取りまとめた「新・国家エネルギー戦略」の一つの柱として位置付けられているとともに、2007年3月に閣議決定されたエネルギー基本計画の主要部分の一つです。

2008年7月には、「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定されました。この中において、発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電は、低炭素エネルギーの中核として、地球温暖化対策を進める上で極めて重要な位置を占める、とされ、改めて環境対策としての原子力発電の重要性が認識されました。そこで、新規建設の着実な実現とともに、既設炉の有効利用にも取り組んでいくと示されています。こうした取組みにより、2020年をめどに発電電力量に占める「ゼロ・エミッション電源」の割合を50%以上とする中で、原子力発電の比率を相当程度増加させることが目標として定められております。また、核燃料サイクルを確立するとともに高速増殖炉サイクルの早期実用化を目指しています。

2008年における原子力発電所の稼働率は58%にとどまっていますが、原子力発電は我が国の総発電電力量の約3割を担っていて、エネルギー安全保障の確保や地球温暖化対策の観点からその重要性がますます増しています。このことから、我が国では引き続き、原子力発電を基幹電源として位置付け、安全の確保を大前提として、国民との相互理解を図りつつ、その推進を図っています。

2.原子力の開発、導入及び利用に関する最近の取組

(1)国民との相互理解を深めるための取組と立地地域との共生への取組

原子力政策を進めるに当たっては、安全確保を大前提として、原子力の意義・役割等について国民との相互理解を深めるとともに、立地地域との共生を図ることが重要です。

このため、「原子力政策大綱」を踏まえ、「原子力立国計画」を取りまとめました。「原子力立国計画」では、地元住民との直接対話による「顔の見える」取組の強化、より少数の住民を対象としたきめの細かい取組、地道に信頼関係を積み上げた上での責任者による国の考え方と方針の表明、地域振興の継続的な取組、国の検査への立地地域の参加等を通じて、国と立地地域との信頼関係を強化していくこととしています。さらに、2007年3月に閣議決定したエネルギー基本計画においては、国及び事業者は積極的な情報の公開・提供に努めること、情報の一方通行ではなく国民の問題意識を理解する観点から、立地地域の住民を始め広く国民の声に耳を傾けることを重視して広聴・広報活動の強化を図ること、学校教育の場においてエネルギー・原子力等の客観的知識の習得を図ること、原子力発電等と地域社会との共生を目指し、国、地方公共団体、事業者の三者が適切な役割分担を図りつつ、相互に連携、協力すること、電力供給地と電力消費地との認識の共有を図ること等としています。

これらを受けて、国等においては、国の顔の見える、きめ細かい理解促進活動として講演会・シンポジウム、少人数を対象とした座談会等の開催、小中高等学校を対象とした「原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金」の交付による原子力に関する教育活動への支援、副教材の作成やエネルギー体験学習会等の実施、原子力立地地域の振興、電力供給地と電力消費地との交流事業等を実施しています。

原子力発電に関する基本的な国民との相互理解の促進

原子力発電の必要性や安全性等に関する国民的な信頼と相互理解の向上を図るための広聴・広報活動を実施しています。

具体的な取組として、2009年度は、原子力・エネルギーに関する認知度向上と理解促進を図るため、電力消費地域の教職員、自治体職員、マスコミ、オピニオンリーダー等を対象に原子力発電所見学会を5回程度実施、消費地における原子力への関心を醸成するとともに、電力の生産地と消費地の相互理解の促進を図るため、電力の生産地と消費地で次世代層の体験型学習交流を促進する事業を7月から9月にかけ、電力の生産地と消費地にて10回程度実施、さらに、より少数の住民を対象とした座談会形式の住民と国の担当者との対話を15回程度実施する等、受け手に応じたきめの細かい広聴・広報活動を行いました。

また、プルサーマルについて、2009年9月福井県高浜町にてプルサーマルシンポジウムを開催、さらに、2010年1月に宮城県女川町にてプルサーマルの必要性、安全性及び耐震バックチェックに関する住民説明会を開催しました。

核燃料サイクル施設に関する広聴・広報活動

我が国において核燃料サイクルを確立するためには、国として広聴・広報活動を行うことによって、立地地域の住民を始めとした国民の理解を促進し、施設の立地を円滑に進めることが必要です。そのため、主として核燃料サイクル施設の建設計画が進められている地域において、国の担当者と直接対話する「核燃料サイクル意見交換会」の開催、定期刊行物の発行、テレビ等地元マスメディアを活用した広報の実施、電力消費地との相互理解の促進を目的とした交流会を開催する等核燃料サイクル施設の立地促進に向けた広聴・広報活動を行いました。また、2010年2月に東京都内で核燃料サイクルシンポジウムを開催しました。

さらに、2009年10月に直嶋経済産業大臣、川端文部科学大臣、平野官房長官が青森県知事と会談する等、核燃料サイクル政策推進の立場を改めて表明しました。

高レベル放射性廃棄物の処分事業については、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき設立された認可法人である原子力発電環境整備機構(NUMO)が実施しています。NUMOは、高レベル放射性廃棄物の処分施設の設置可能性を調査する区域について、2002年12月から、全国の市町村を対象に公募を行っていますが、これまで、関心を有する地域は現れているものの、最初の調査である文献調査を開始するに至っていません。

国はNUMOや電気事業者等と連携し、本事業の必要性や安全性等について、引き続き理解促進活動を行っていきます。

地域担当官事務所による広聴・広報活動

原子力発電や核燃料サイクルを進めるに当たっては、安全の確保を大前提に原子力に対する国民との相互理解を図ることが肝要です。現在、青森県、福島県、新潟県、福井県に事務所を設置し、地域の関心に沿った、一方通行ではない双方向のコミュニケーションを図る等の広聴・広報活動を行っています。

原子力教育に関する取組

国民との相互理解のもとに原子力政策を推進するためには、国民一人一人が原子力やエネルギーについて理解を深め、自ら考えて判断する力を身に付けることが必要となってきます。

そのためには、学校教育や社会教育の場において、原子力やエネルギーについて適切な形で学習を進めることが重要であると考えられ、原子力政策大綱においても原子力やエネルギーに関する教育の支援制度の充実に取り組むことの重要性が指摘されています。

学校教育においては、従来から小・中・高等学校を通じて児童生徒の発達段階に応じた原子力やエネルギーについての指導が行われていますが、平成20年3月に改訂された小・中学校学習指導要領においては、社会科や理科等の教科において、その内容の充実が図られています。

具体的な取組としては、全国の都道府県が学習指導要領の趣旨に沿って主体的に実施する原子力やエネルギーに関する教育の取組である副教材の作成・購入、指導方法の工夫改善のための検討、教員の研修、施設見学会、講師派遣等に必要な経費を交付する「原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金」を運用しました。(平成21年度交付申請数:37都道府県)

また、国民が原子力について考え、判断するための環境の整備として、簡易放射線測定器「はかるくん」の学校現場における活用の促進やポスターコンクールの開催、教職員を対象とした原子力・放射線に関するセミナーの開催を行いました。さらに、原子力副読本の制作、パンフレットやインターネットを活用して原子力やエネルギーに関する教育の支援に資する情報を分かりやすく提供するなど、原子力やエネルギーに関する教育の推進ための環境整備を進めました。

電源三法交付金による支援

電源三法交付金については、2003年度より、主な交付金を統合するとともに、交付金の使途を従来の公共用施設の整備に加え、地場産業振興、福祉サービス提供事業、人材育成等のソフト事業へも拡充する制度改正を行いました。

エネルギーに関する知識の普及(後掲 第9章3.(1)参照)

エネルギー教育の推進(後掲 第9章3.(6)参照)

(2)現行水準以上の原子力発電比率の中長期的な実現に向けた取組

初期投資負担の平準化等原子力発電の新増設投資の促進のため、2006年9月に総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の下に原子力発電投資環境整備小委員会を設置しました。

2007年5月に取りまとめられた同小委員会の報告書において、原子力発電施設解体引当金制度について、最新の知見に基づく積み立ての過不足の検証を行った結果、当該引当金の対象項目の選定及び費用見積りの算定方法は合理的と評価され、当該廃止措置費用は世代間負担の公平の確保を図るため、発電段階で手当をすべき費用であり、既存の引当金に含めて積み立てることが適当であるとの提言が示されました。

2007年度決算から同報告書の提言内容が実現できるように原子力発電施設解体引当金に関する省令の改正等所要の措置を行いました。

(3)核燃料サイクルの早期確立とサイクル関連産業の戦略的強化

我が国としては、安全の確保を大前提に、核燃料サイクル政策を推進することを国の基本的方針としており、使用済燃料を再処理し、有用資源を回収して再び燃料として利用するプロセスの一つ一つに着実に取り組んでいくことが基本であると考えています。さらに、原子力発電全体の経済性や国民の理解の確保が重要な要素であることを踏まえ的確に、核燃料サイクルを進めることとしています。なお、長期的観点からは、エネルギー情勢、ウラン需給動向、プルトニウム利用の見通し等を勘案して、その進め方は硬直的ではなく、柔軟性を持ちつつ着実に取り組むこととしています。

使用済燃料の再処理

再処理工場は、原子力発電所で使い終わった使用済燃料から、まだ燃料として使うことのできるウランと新たに生成されたプルトニウムを取り出す工場です。青森県六ヶ所村に建設中の日本原燃㈱再処理事業所再処理施設(年間最大処理能力:800トン)では、2006年3月から実際の使用済燃料を用いた最終試験であるアクティブ試験を実施しています。同社の計画では、2010年10月に竣工の予定です。

ウラン濃縮

ウラン濃縮は、核分裂性物質であるウラン235の濃縮度を、天然の状態の約0.7%から軽水炉による原子力発電に適した3%~5%に高めることをいい、我が国では、日本原燃㈱が青森県六ヶ所村のウラン濃縮施設において遠心分離法という濃縮技術を採用しています。同社は、1992年3月から年間150トンSWUの規模で操業を開始し、1998年には年間1,050トンSWU規模で操業を行っていましたが、現在は年間150トンSWU未満で生産運転を行っています。また、同社は、2002年度から2009年度にかけて新型遠心分離機の開発を行っており、現在使用の遠心分離機を順次新型遠心分離機に置き換え、2011年9月から新型遠心分離機による濃縮ウランの生産を開始する予定です。

MOX燃料加工

MOX燃料加工は、再処理工場で回収されたプルトニウムをウランと混ぜて、プルサーマルに使用される混合酸化物(MOX)燃料に加工することをいいます。我が国では、日本原燃㈱が青森県六ヶ所村においてMOX燃料加工工場を2015年6月に竣工すべく準備を進めており現在安全審査中です。

使用済燃料の中間貯蔵

使用済燃料の中間貯蔵は、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的調整を図るための措置として、従来からの原子力発電所内での貯蔵に加え、原子力発電所外の施設において中間的に貯蔵するものであり、原子力発電所の安定的な運転継続を可能にし、核燃料サイクル全体の運営の柔軟性を高めるものです。2005年に東京電力㈱及び日本原子力発電㈱は、むつ市に計画中の使用済燃料中間貯蔵施設の運営・管理等を行う新会社(リサイクル燃料貯蔵㈱)を設立し、2007年3月に経済産業大臣に対し「使用済燃料貯蔵事業許可申請書」を提出しました。同社は2008年3月から準備工事を開始しており、現在安全審査中です。

プルサーマル

我が国は、核燃料サイクルの重要な前提である使用済燃料の再処理によって発生するプルトニウムの確実な利用や資源節約という点で、当面、プルサーマルを着実に推進していくこととしています。このため、電気事業者は、関係住民等の理解を得つつ、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが期待されています。これと併せて、国としても国民の理解を得る活動を前面に出て実施すること等により、プルサーマルの実現に向けて政府一体となって取り組むこととしています。

プルサーマルは、海外では1960年代から実施され、既に約6,300体以上のMOX燃料の使用実績があります。また、国内は日本原子力発電㈱の敦賀発電所1号機(BWR)や関西電力㈱の美浜発電所1号機(PWR)で少数体のMOX燃料を用いた実証試験において、燃料の健全性が確認されています。

我が国におけるプルサーマルは、1961年にまとめられた「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」において、プルトニウムの軽水炉での利用に関する方針が示されました。その後プルサーマル実現に向けた取組が進められましたが、1995年12月に高速増殖原型炉「もんじゅ」二次系ナトリウム漏えい事故が起こり、福井、福島、新潟の三県の知事から、原子力政策に対する国民的合意形成及び核燃料サイクルの全体像の明確化を求める提言がなされました。原子力委員会は、これに応える形で、1997年1月に「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について」を決定し、同年2月には「当面の核燃料サイクルの推進について」が閣議了解されました。この中で、「現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であるプルサーマルを早急に開始することが必要である。」との位置付けがなされ、これを踏まえ橋本総理大臣(当時)から、福島県、新潟県及び福井県の三県の知事に対し、閣議了解の説明及び協力要請が行われました。また、「原子力政策大綱」や「エネルギー基本計画」において、プルサーマルは着実に推進することとされていて、電気事業者は、2009年6月にプルサーマル計画のスケジュールを見直し、2015年度までに、全国の原子力発電所のうち16から18基の軽水炉においてプルサーマルの導入を目指すこととしています。プルサーマル実現に向けた理解促進活動等の取組を国及び電気事業者双方で行ってきています。九州電力㈱玄海原子力発電所3号機は、2009年12月に我が国初となるプルサーマルによる営業運転を開始しました。また、2010年3月には四国電力㈱伊方発電所3号機が営業運転を開始しました。今後、中部電力㈱浜岡原子力発電所4号機、関西電力㈱高浜発電所3、4号機等で順次プルサーマルが実施される見込みです。

プルトニウム利用の透明性向上

我が国は、1994年、プルトニウム利用の透明性向上のため、世界に先駆けて原子力白書等を通じ施設の区分ごとに存在するプルトニウム量の公表を始めました。2001年以降は、「我が国のプルトニウム管理状況」として、内閣府が毎年公表しています。また、1997年からは国際プルトニウム指針に基づき、国際原子力機関(IAEA)を通じて、我が国のプルトニウム保有量を公表しています。

さらに、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方について」(2003年8月、原子力委員会決定)を受け、更なるプルトニウム利用の透明性の向上を目的として、電気事業者等は2006年より、「プルトニウム利用計画」を公表しており、原子力委員会がその利用目的の妥当性の確認を行っています。

原子力発電及びバックエンド事業における経済的措置等検討

バックエンド事業、即ち再処理等の事業については、極めて長い期間を要すること等から、その事業に要する費用を確実に確保していく必要があります。そのため、バックエンド事業に係る経済的措置等の具体的な制度及び措置の在り方について、電気事業分科会等において審議が重ねられ、2004年8月に中間報告が取りまとめられました。これを受け、2005年5月に、再処理等に要する費用をあらかじめ確保するための「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」を制定、同年10月に施行しました。あわせて、内部に積み立てる方式から外部へ積み立てる方式へ改組されました。

現在、これらの制度に基づき、電力会社による費用の積立て及び管理が着実に行われています。

(4)高速増殖炉サイクルの早期実用化

高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、発電しながら消費した燃料以上の燃料を生産すること(増殖)により、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、我が国のエネルギー安定供給に大きく貢献するものです。また、使用済燃料に含まれるプルトニウムとマイナーアクチニドを燃料として再利用すること等によって高レベル放射性廃棄物の発生量を低減することが可能であり、環境負荷の低減という観点からも開発意義が高いものです。こうした特性から、高速増殖炉サイクル技術は、2006年に閣議決定された「第三期科学技術基本計画」に基づき策定された「分野別推進戦略」においても、「国家基幹技術」(国主導で取組む大規模プロジェクトで今後5年間集中投資すべき科学技術)として位置づけられており、「原子力立国計画」において、高速増殖実証炉及び関連サイクル施設の2025年頃までの実現を目指し、商業炉を2050年より前の導入を目指して開発する方針が示され、20007年3月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、高速増殖炉サイクルの実用化に向けて、「概念設計の提示後10年程度での実証施設の実現及び平成62年(2050年)よりも前の商業炉の開発を目指す」としていて、可能な限り早期の実用化に向けて、全力で取組む必要があります。

このため、高速増殖炉サイクルの実用施設及び実証施設の概念設計並びに実用化に至るまでの研究開発計画を2015年に提示することを目指す「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」を本格的に開始しています。本研究開発では、主概念を中心に研究開発を進め、高速増殖原型炉「もんじゅ」における成果をも反映し、安全性、経済性、資源有用利用性、環境負荷低減性、核拡散抵抗性に係る研究開発目標を達成できる高速増殖炉サイクルの実用施設及び実証施設の概念設計並びに実用化に至るまでの研究開発計画を2015年に提示することを目指して研究開発を進めています。

また、研究開発側と導入者側等関係者が一体となって、研究開発段階から実証・実用化段階への円滑な移行を図るため、2006年7月に文部科学省、経済産業省、電気事業連合会、日本電機工業会、及び日本原子力研究開発機構の関係者からなる「高速増殖炉サイクル実証プロセスへの円滑移行に関する五者協議会」を設置し、所要の検討を開始しました。当該協議会は同年12月に、明確な責任体制の下で効率的に研究開発を推進できるよう、中核メーカー1社に責任と権限及びエンジニアリング機能を集中する方針を決定し、我が国における高速増殖炉の研究開発体制が整備されました。さらに、2007年4月、同協議会において、2015年までの「高速増殖炉の実証ステップとそれに至るまでの研究開発プロセスのあり方に関する中間論点整理」を取りまとめ、原子力委員会に報告しました。

2009年7月には、2010年の革新技術の採否判断、2015年の実用化像の提示等に向け、高速増殖炉サイクルの実用化を一層円滑に進めていくために、将来の製造者であるメーカーや最終的なユーザーである電気事業者が研究開発に対して積極的参画を行う体制を構築すること等を合意した「高速増殖炉実証炉・サイクルの研究開発の進め方について」を取りまとめました。

(5)原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組に係る取組み作りへの積極的関与

原子力を巡る国際的動向(第2部第2章第2節2.(1)(イ)参照)

原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組に係る取組

このように世界的に拡大する方向にある原子力発電を核不拡散と両立していくためには、核不拡散体制の維持が安全確保とともに極めて重要であり、これまで核兵器不拡散条約(NPT)や、それに基づく国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置協定及び追加議定書、核物質の防護に関する条約、包括的核実験禁止条約(CTBT)等、種々の国際的枠組みが創設されてきました。我が国は、非核兵器国の原子力平和利用のフロントランナーとして、引き続き厳格な輸出管理、保障措置、核物質防護措置等を講じていくことにより、原子力発電拡大と核不拡散との両立に向けた取組を世界に示していきます。

特に、保障措置については、従来から、IAEAと締結した保障措置協定に基づき厳格な適用を確保しているほか、より効果的・効率的に実施するための保障措置技術の開発を進めてきています。1999年12月には、IAEA保障措置の強化のための追加議定書を締結し、拡大申告の提出や補完的アクセスの実施等、その着実な実施を図っています。その結果、「すべての核物質が平和的活動の中に留まっている。」との結論をIAEAより毎年得ています。この結論により、査察を無通告で実施すること等によりIAEAの査察の効率化が期待される「統合保障措置」の実施が2004年より開始され、さらにその効果及び効率を一層進化させるため、同一サイト内の複数の施設を対象とした「サイト統合保障措置手法」を開発し、2008年8月よりJNC-1サイト(原子力機構)において実施されており、2009年11月よりJNC-4(もんじゅ)においても実施されています。その他、保障措置上重要な、六ヶ所再処理施設及び六ヶ所MOX燃料加工施設については、IAEAと共に厳格な保障措置の実施及び準備を行っています。

また、国際的核不拡散体制に貢献するため、アジアの国々を対象にした保障措置に関するトレーニングコースをIAEAと連携して毎年実施しています。

(6)次世代を支える技術・産業・人材の維持・発展

今後、我が国における原子力発電所の新規建設需要は当面低迷する一方、2030年頃からは大規模な代替炉建設需要が見込まれています。将来にわたって我が国におけるエネルギーの安定供給を確保する観点から、この大規模な代替炉建設需要を乗り越え2030年以後も総発電電力量の30~40%程度以上の供給割合を原子力発電が担うためには、我が国原子力産業の技術・人材を維持・向上していくことが喫緊の課題であり、2030年頃の代替炉建設を見据えた技術開発を早期に実施する必要があります。

他方で、世界では、エネルギー安定供給の確保や地球温暖化対策の観点から、原子力発電の規模を増大していこうとする国々が増えており、近年新規建設が見られなかった欧米諸国や新たに導入を目指そうとするアジア・中東諸国等も含め多数の新建設の計画があります。世界市場で通用する規模と競争力を持つよう体質を強化するためには、国内に留まることなく、当該国の核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保を大前提としつつ、我が国原子力産業の国際展開を進めることが重要です。

このような状況を踏まえ、2008年度から、国内の代替炉建設需要に対応でき、世界標準を獲得し得る高い安全性と経済性、信頼性等を有する次世代軽水炉の技術開発を進め、また、2009年度より原子力関連の素材・部材メーカーの国際競争力強化に資する技術開発を進めています。

(7)我が国原子力産業の国際展開支援

アジア諸国における原子炉導入可能性調査支援事業の実施

日本の原子力産業の国際展開を目的に、アジア諸国の中で電力需要の高く、かつ、現在、原子力導入を検討している国(ベトナム社会主義共和国、インドネシア共和国及びカザフスタン共和国)に対し、原子炉導入に関する調査及び支援事業を実施しました。

ウラン探鉱開発事業の推進

世界的な原子力回帰の動きから、原料のウラン価格が急騰するとともに、世界的なウラン資源の獲得競争が激化するようになってきたため、2007年度に独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によるウラン探鉱事業へのリスクマネー供給制度を創設しました。同制度では、民間企業の行う海外でのウラン探鉱支援事業に対して資金面での支援を行うほか、海外の、有望であると考えられるが初期探鉱であるためにリスクが高い、あるいは、カントリーリスクが高い等の、何らかのリスクを有するウラン鉱山での探鉱を、JOGMEC自らが行い、適切な段階で我が国民間企業にJOGMECの地位を引き継ぐことになりました。現在、同制度を活用することにより、我が国民間企業によるウラン探鉱権益参画を促進しています。

また、JBIC(日本政策金融公庫 国際協力銀行)を活用したウラン資源開発プロジェクトに対する資金の融資や、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)を活用した保険制度、資源エネルギー統合等、ウラン資源確保案件に対する資金面での支援を図っています。

(8)放射性廃棄物対策の着実な推進

原子力政策大綱では、放射性廃棄物については、「発生者責任の原則」、「放射性廃棄物最小化の原則」、「合理的な処理・処分の原則」、「国民との相互理解に基づく実施の原則」の四つの原則のもと、安全に処理・処分することが重要であるとしています。

これらの原則に沿って、我が国では、発生する放射性廃棄物を適切に区分し(第331-2-1)、各種の放射性廃棄物の処理・処分に関する方針の決定や安全規制等の整備を進めています。また、放射性廃棄物の合理的な処理・処分の実施に向けた効果的な技術の研究開発を推進するとともに、広聴・広報活動による国民との相互理解促進活動にも取組んでいます。

低レベル放射性廃棄物の処理・処分

(ア)原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物

原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物は、2008年3月末現在、全国の原子力発電所内の貯蔵施設で容量200ℓドラム缶に換算して約60万本分貯蔵されています。これら低レベル放射性廃棄物の一部は、青森県六ヶ所村の日本原燃㈱低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて埋設処分が行われています。

(イ)ウラン濃縮施設やウラン燃料成型加工施設から発生する放射性廃棄物(ウラン廃棄物)

民間のウラン燃料加工施設、ウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物については、現在、各事業所において安全に保管されています。

(ウ)再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する放射性廃棄物(長半減期低発熱放射性廃棄物:TRU廃棄物)

TRU廃棄物は、再処理施設やMOX燃料加工施設等の操業や解体に伴い発生します。これらの中には、半減期(最初にあった放射性核種の量が半分になるまでの時間)の長い核種が一定量以上含まれるため、高レベル放射性廃棄物と同様に、わたしたちの生活環境から長期間にわたり隔離するため、深い地層へ処分(地層処分)することが必要なものがあります。

地層処分が必要なTRU廃棄物については、2007年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が改正され、最終処分の対象廃棄物に地層処分が必要なTRU廃棄物等が追加されました。また、この法律に基づき、NUMOがこの廃棄物の処分事業を進めています。

 

一方、研究機関や大学における原子力分野の研究開発や医療分野等での放射性同位元素の利用等に伴って発生する低レベル放射性廃棄物(研究施設等廃棄物)の処分については、研究施設等廃棄物の発生量が最も多く、技術的知見を有する日本原子力研究開発機構を、これらの廃棄物の埋設処分の実施主体として明確に位置づけるため、2008年6月に独立行政法人日本原子力研究開発機構法が改正されました。これを受けて、同年12月に文部科学省及び経済産業省が「埋設処分業務の実施に関する基本方針」を策定しました。そして、この基本方針に沿って、2009年11月に日本原子力研究開発機構が「埋設処分業務の実施に関する計画」を策定しました。現在、研究施設等廃棄物の処分の実施に向けた準備が進められています。

【第331-2-1】放射性廃棄物の種類と概要

高レベル放射性廃棄物6の地層処分事業

高レベル放射性廃棄物は、低レベル放射性廃棄物に比べてその発生量自体は少ないですが、長期間にわたって放射能を有する核種を比較的多く含むため、この放射能が生活環境に影響を及ぼさないよう長期間にわたって生活環境から隔離する必要があります。そのため、高レベル放射性廃棄物は、ガラスと混ぜて高温で溶かし、「キャニスタ」と呼ばれるステンレス製の容器に注入したあと、冷やして固めます(ガラス固化体)。このガラス固化体は熱を発生するため、30~50年間程度一時貯蔵して冷却し、最終的に地下300mより深い安定した地層中に処分することとしています。

高レベル放射性廃棄物の処分については、これを計画的かつ確実に実施するため、2000年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(2007年6月改正)が制定されました。これにより、処分実施主体の設立、処分費用の確保、三段階の処分地選定プロセス等が定められました。また、同年9月、同法に基づき閣議決定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」(2008年3月改定)では、平成40年代後半を目途として地層処分を開始するとされています。

同法に基づき設立された原子力発電環境整備機構(NUMO)により、高レベル放射性廃棄物の処分事業が進められています。NUMOは、高レベル放射性廃棄物の処分施設の設置可能性を調査する区域について、2002年12月から、全国の市町村を対象に公募を行っています。

これまで、関心を有する地域は現れているものの、最初の調査である文献調査を開始するには至っていません。これを踏まえ、2007年11月には、総合資源エネルギー調査会原子力部会放射性廃棄物小委員会において、処分事業を推進するための取組の強化策がとりまとめられました。

この強化策の中では、①処分事業の必要性等に関する国民全般の広報の拡充、処分の安全性や処分地選定手続き、地域振興等に関する地域広報の充実、②国が前面に立った取組として、NUMOの公募による方法に加え、地域の意向を尊重した国による文献調査実施への申入れを追加、③都道府県を含めた広域的な地域振興構想の提示、④国民理解に資する研究開発及び国際的連携の推進等が示されています。

国においては、本強化策を踏まえ、現在、以下の取組等を実施しているところです。

○国民全般への広聴・広報活動として、「放射性廃棄物処分広報強化月間」(2009年10月)を設定し理解促進に向けたキャンペーンを実施するとともに、全都道府県単位での説明会やNPOと連携したワークショップの開催、地層処分模型展示車の運用や各種相互理解促進のための広報素材等の作成をしています。

原子力の推進に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の処分は、我が国の総発電電力量の約3割を担っている原子力の便益を受ける我々国民が、自分自身の問題と考え、必ず解決しなければならない課題です。国としては、一刻も早く文献調査に着手できるよう、NUMOや電気事業者等と連携しながら、国が前面に立って、引き続き取組を進めていきます。

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平成19年4月1日に「電源開発促進対策特別会計法」は廃止され、同様の業務は「特別会計に関する法律」に引き継がれました。
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高レベル放射性廃棄物とは、再処理施設で使用済燃料からウランやプルトニウムを分離・回収した後に残る、放射能レベルの高い廃液またはそれをガラスと混ぜて固めたガラス固化体のことをいいます。