新潟県村上市で最大震度6強を観測するなどした新潟・山形地震は、18日で発生から1年となった。不幸中の幸いで死者はいなかった。ただ、全体としては被害が比較的小規模だったため激甚災害に指定されなかった。こうした中、被害の大きかった山北地区では、天井が落下した総合体育館なども復旧され、被災住民の生活再建は進みつつある。
地震は山形県沖を震源とし、昨年6月18日午後10時22分ごろ発生。総務省消防庁の集計では、宮城、秋田、山形、新潟、石川の5県で計43人が重軽傷を負った。新潟、山形両県を中心に計1654棟の住宅が被災した。
県によると、県内の重軽傷者は計7人。建物被害は村上市を中心に住宅の大規模半壊3、半壊21、一部損壊639棟が確認された。
村上市によると、公共施設の被害は87カ所に上ったが、17日までに83カ所が復旧。市による被災住宅へのリフォーム支援では、屋根瓦の修繕など106件の利用があり、交付決定額は1835万円となっている。
また、同市には各方面から義援金などが659件、計約2400万円寄せられたという。
高橋邦芳市長は取材に対し、地震発生時を「被災者が避難所で肩を寄せ合い、耐えているのを見るのは本当につらかった」と述懐。「職員が昼夜を分かたず市民に寄り添った頑張りは今、新型コロナウイルスへの対応にも生かされている。市民の声を聞き、対策を練っていきたい」と述べた。
◎保健師奮闘、住民に笑顔戻る
新潟・山形地震から18日で1年。屋根瓦が崩れ落ちたり、ブロック塀が倒れたりといった被害が大きかった村上市山北地区の府屋集落では、今では多くの住宅で復旧が完了した。がれきが散乱していた軒先や道路脇も片付けられた。余震などに不安を抱いていた住民にも「元気、元気。心配ないよ」と笑顔が戻った。これまでの日常を取り戻すための努力の日々には、住民が「顔を見るだけで安心できた」と信頼を寄せる保健師たちの存在があった。
地震発生から約2週間後の昨年7月初旬、村上市は府屋集落住民の心身への負担を軽減しようと動き始めた。市内の保健師や看護師らがチームを組み全戸訪問を実施。調査した503人のうち、61人が不眠や疲れなどの健康被害を訴えた。
このうち、特にケアが必要だと判断されたのは19人。保健師が中心となり、不安や不調の軽減に努めてきた。府屋集落を担当していた保健師の鈴木友希さん(28)は「自宅の屋根や壁が崩れたことで、精神的にも崩れかけていた人が目立った」と振り返る。
「夜が怖い」「列車が通るたびに目が覚める」といった不眠の訴えが多かった。余震への恐怖のほか、自宅の修理費など経済的不安を持つ人もいたという。
全戸訪問以降、鈴木さんを中心に市山北支所の保健師4人が住民の自宅を訪ねるなどして、生の声に耳を傾けた。被災直後は、ある住民の自宅に週に3回訪ね、1時間以上、悩み相談に乗ることもあったという。
こうした取り組みもあり、特にケアが必要とされた19人も、今年2月ごろまでにはほぼ全員が落ち着きを取り戻したという。
「しっかりと耳を傾け、悩みを一緒に整理することを心掛けた」と鈴木さん。住民が少しずつ前向きになり、表情も和らいでいく様子に「自分自身も勇気づけられた」と笑う。
新潟・山形地震は、全体としての被害が比較的小規模だったため、時間とともに“風化”を心配する声も聞こえた。80代女性は「地震後、家に状況を尋ねに来る政治家はいなかった。集落が忘れ去られている気がした」とこぼした。
こうした中、保健師の訪問を受けたある女性(80)は「玄関で保健師さんの顔を見ただけで、安心できた。近所の人には話せないこともたくさん聞いてもらえた」と明かす。自営業の男性(76)も「日ごろから住民との信頼関係を築いていた。よく頑張ってくれた」と感謝する。
一方、多くの住民が立ち直りつつあった時期に発生した新型コロナウイルスにも、保健師たちは危機感を持って対応してきた。
4月から府屋集落の担当保健師となった田嶋真理子さん(49)は約2カ月間、住民の自宅を訪問できず、心苦しかったという。
外出自粛による身体機能の低下や、人と会う機会が減ったことによる精神面への悪影響を懸念してきた田嶋さん。住民とのコミュニケーションは電話に頼り、「会って話せば、表情や雰囲気から健康状態がより詳しく分ることもあるだけに、心苦しかった」と語る。
ただ、6月からは徐々に訪問を再開している。「地震発生から『まだ1年』とも言え、気を抜けない。今後もじっくりと住民の話を聞き、気持ちに寄り添いたい」と気を引き締めた。
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