激戦地を歩く

千葉5区 不祥事の自民、追撃するはずの野党乱立

衆院千葉5区補欠選挙で、街頭演説を聞く有権者ら=11日午前、千葉県浦安市(鴨志田拓海撮影)
衆院千葉5区補欠選挙で、街頭演説を聞く有権者ら=11日午前、千葉県浦安市(鴨志田拓海撮影)

「頑張ります! ありがとうございます!」

自民党公認で公明党の推薦を受ける新人、英利アルフィヤは11日、千葉県市川市内のホテルで出陣式を開き、来場した支援者とグータッチを交わしながら、お辞儀を重ねた。初陣で身にまとったのは白色のジャケット。「クリーンな政治を強調した」(陣営)という。

衆院千葉5区で補欠選挙が行われるのは、長年同区で議席を維持してきた自民前職が昨年末、政治資金規正法違反事件で議員辞職したためだ。こうした経緯から、自民内では当初「厳しい戦いになる」(幹部)との見方が支配的だった。

だが、蓋を開けると野党が候補を一本化することなく、7人が乱立する混戦となった。不祥事を巡る自民批判票も分散されることから、陣営は一転して「勝てる選挙だ」(関係者)と手応えを感じつつある。

もちろん楽観論ばかりではない。統一地方選や衆参補選の支援で全国を奔走している自民重鎮は「あれだけ野党が分裂している割には、いまひとつ突き抜けていない」と首をかしげる。

英利は福岡県生まれで千葉5区に縁が薄く、知名度の向上は大きな課題だ。辞職した前職は党副総裁、麻生太郎の側近でもあり、「いずれ前職がこの選挙区に戻ってくるのではないか」(自民県連関係者)との見方もくすぶる。前職に近い一部の地方議員が候補者のポスター掲示に難色を示すなど、自民も一枚岩になり切れていない。

とはいえ、党本部は当選を狙える位置まで浮上したとみている。出陣式に来援した幹事長、茂木敏充は「即戦力として活躍が期待できる」と支持を訴えた。

同じころ、千葉県浦安市のJR新浦安駅前では、立憲民主党の新人、矢崎堅太郎の第一声に駆け付けた党代表、泉健太が声を張り上げていた。

「政治パーティーで(得た)4千万円を記録も残さず懐に入れる。今どき、そんな政治を許していいわけがない」

選挙区を構成する市川、浦安両市は「千葉都民」とも呼ばれる無党派層が多い土地柄だ。事前の情勢調査では優勢ともいわれ、自民の不祥事が発端の選挙でもあり、幹部は「ここで落としたら執行部の責任論に直結しかねない」と語る。

懸念材料は、選挙直前に同県選出の参院議員、小西洋之の「サル発言」が飛び出したことだ。県選出の衆院議員は「支持層はともかく、無党派層の投票行動には影響する」と気をもむ。

何より、野党間の候補一本化の失敗は誤算だった。当初、陣営関係者は「共産党は降ろす気がある」と楽観。県連幹部は「千葉5区は立民、和歌山1区は日本維新の会」という「すみ分け」に期待を込めていた。しかし可能性のあった共産との調整も不調に終わった。

「こっちから頭を下げる話ではない。維新と国民民主党が候補を立てている中で『立・共』と映るのは今後によくない」。立民関係者はそう強がった。一方の共産陣営関係者は「今は一緒にやろうという前提が崩れている」と静かに語る。

11日には、他の野党幹部も千葉5区に入り、公認候補の応援演説に臨んだ。

「今回の戦いのテーマは既存政党、古い政治への挑戦だ」

新人の岸野智康を擁立した維新の幹事長、藤田文武はJR市川駅前でそう演説。同じく新人の岡野純子を立てた国民民主の代表、玉木雄一郎は、東京メトロ浦安駅前で「政治とカネは争点だが、どの党もいう。ポイントはその先だ」として「給料が上がる経済の実現」を訴えた。

元職の斉藤和子を擁立した共産の委員長、志位和夫はJR本八幡駅前で「第一は何といっても大軍拡ストップ」と声を張り上げた。

補選には、政治家女子48党の新人、織田三江と無所属の星健太郎も出馬した。(児玉佳子、大橋拓史)=敬称略

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