現存橋の載荷実験(1号橋) This content is Japanese page only. 2000/01/31作成。

ボンゴシ材を使った公園用木橋の落下について

農林水産省森林総合研究所 木材化工部 鈴木憲太郎

農林水産省森林総合研究所 木材化工部 軽部正彦、宮武 敦、加藤英雄


写真1. 落橋した4号橋(中央部は撤去されている)

はじめに

1999年9月、愛媛県北宇和郡津島町にある、南予レクリエーション都市4号公園内の、トラス木橋が落下する事故が起きた。
前日に異常が認められ、通行禁止措置がとられていたため、人的被害はなかった。
本橋には、耐朽性が高いとされているアフリカ産のボンゴシ材とステンレスの接合具が使用されていたため、建設当初では長期の耐用性が期待されていた。
しかし、建築後10年という木橋としては比較的経過年数が短いのに落下したため、その原因と対策について分析を要請された。
これらについて、実地調査を通じてのアドバイスをするため、森林総合研究所の各分野の専門家が、愛媛県林業試験場の協力を得て、平成11年10月22〜24日に実地調査を行った。
なお、今回の調査者の一部は、9月時点で事前調査を行っており、その報告に基づいて、今回の本調査計画は立案された。
以下にその概要を報告する。

写真2. 移動後の4号橋落橋部分

1. 当該木橋の履歴

当該木橋の設計は平成元年度、完成は平成2年3月であった。構造形式としては、ポニートラス(橋両側のトラス構造が床版とその下部構造のみによって連結され、トラスの上部には連結する構造部材がない)であった。トラス部材は全てボンゴシ材(ドイツ系の呼称、英国系ではエッキ、フランス系ではアゾベという。学名はLophia alata Banks ex Gaertn.)、また接合具はステンレス(DIN ST 37-2)製の締め付けボルトとダウエルピンであった。
竣工時に行われた塗装とその後の簡単な部分補修を除き、橋の維持管理は、特に行われていなかった。
同公園内には、橋長15.4mの1号橋、15.4mの2号橋、1mの3号橋、42mの4号橋(いずれも人道用の木橋)があったが、このうち落下したのは、4号橋の中央部にある支間長21.4mの部分であった。(写真1, 写真2)

写真4. 破壊した4号橋下弦材の接合部とその切断面

ポニートラスの上下弦材は各々二枚合わせの軸材により構成されていた。ただ、継手部の構成は上限材と下弦材で異なり、上弦材では一枚の添え板を二枚の軸材が挟み込むような形態、一方下弦材では三枚の添え板が二枚の軸材を挟み込むような形態となっていた。4号橋の落橋は、下弦材の接合部近傍における軸材の破断によって生じたものと思われる。

2. 使用材料

まず、使用されていたボンゴシの厳密な樹種鑑定が必要と思われたため、落橋した部分の一部を森林総合研究所木材利用部組織研究室で調査したところ、確かにボンゴシであることが判明した。材の密度は1.07g/cm3であり、文献値1)(最小0.95-平均1.06-最大1.10) の平均値に近い値であった。なお文献1)によると、ボンゴシの耐朽性は5段階の高い方から2番目に位置づけられているが、個体差は大きいとされている。なお、水中での使用に対しては、耐用性が高いと記述されている。

3. 調査団の構成

調査は、現地管理者である、愛媛県宇和島地方局建設部建設第3課の立ち会いのもと、森林総合研究所の鈴木憲太郎、宮武敦、加藤英雄、軽部正彦が行い、腐朽判定と各種破壊及び非破壊診断測定と載荷実験を愛媛県林業試験場の協力を得て実施した。

第1表
調査項目 手法
腐朽度 目視・打音による判定
切断破壊面観察
非破壊検査 超音波伝播速度
打撃音周波数成分
固有振動数
ピロディン
弾性的反発力
局部破壊検査 木ねじねじ込みトルク
ボアホールカメラ観察
構造安全性 載荷実験

4. 調査項目

現地での調査項目を第1表に示す。まず、別の場所に保管されていた落橋部分について、用意した非破壊検査手法が適用可能かどうか、またその腐朽度判定基準が適切であるかどうかを、切断等の破壊検査で検証した。
この結果、有効性が確認された非破壊検査手法については、現存する1号橋と2号橋に適用し、劣化度の判定を行った。またこの2橋については簡単な方法で載荷実験を行った。

写真3. 4号橋の下弦材断面(内部のみが腐朽している)

5. 調査結果の概要

5.1 腐朽の状況

調査した3橋の、落橋部(No.4)、現存部(No.1, No.2)全体を含めて、接合部付近で腐朽度が高い傾向が見られた。また、高欄、床板といった部材では、床板とトラス縦部材の干渉部分など、横梁のような受け材があって水はけの悪い部分で腐朽が大きい傾向があった。(写真3, 写真4, 写真5) さらに、支承上部の受け材など、水たまり部分のかなり多くの箇所で、同一菌種と見られる子実体が認められた。一方、横梁直上でない部分など水はけの良い箇所では、新品同様に健全な材も多く見られた。

写真6. 現存橋の床板下部に認められたシイサルノコシカケの子実体 写真7. 4号橋ポニートラス柱材(上弦材との接触面が腐朽している)

上記の子実体を持ち帰り、(写真6) 森林総合研究所森林生物部腐朽病害研究室阿部恭久室長に鑑定を依頼したところ、この菌は子実体の形態及び分離した菌糸の形状から、白色腐朽菌シイサルノコシカケ(Loweporus tephroporus)であることが判明した。なおこの菌は、広葉樹の病害菌として知られているもので、特に分解力の高い特殊な腐朽菌ではない。
横梁を吊る部材は、他の部材が集中しているため、雨水が集中しやすく、腐朽の確率が高かった。この部材は、材長が短い上、構造上も重要な位置を占めているため、落橋の引き金になった疑いがあった。

写真5. 現存橋上弦材の超音波伝播速度測定

5.2 非破壊および破壊検査手法の適用性

ピロディンは、材の表面が硬く、内部が腐朽している材ではその差がつかめないため、ボンゴシ材の腐朽判定には適さないことがわかった。
同様に、シュミットハンマーは、内部が空洞であっても、反発力の変化が少なく、今回の腐朽度判定には適さなかった。
実施した非破壊手法のうち、木ねじねじ込みトルクによる判定と超音波伝播速度による判定が比較的容易に適用可能と考えられた。
ただし、前者は、部材に傷を付けるので、現存する他の2橋については、今回、測定可能な木質部材について、目視・打音による評価と超音波伝搬速度による判定を中心に腐朽度を判定した。(写真5)

写真8.現存橋の調査(2号橋)

5.3 載荷実験

現存する2橋について、調査参加者と軽トラックを順次橋の中央部に積載し、徐々に鉛直荷重を増加しながら、水準測量によって橋中央部のたわみを測定した。参加者と軽トラックは、あらかじめ重量を測定し、鉛直荷重と中央部たわみが比例的な挙動を起こすかについて調べた。
2橋とも、荷重とたわみの間で比例的な挙動を示し、2号橋は除荷後も元のたわみにほぼ戻ったので、現時点では試験した荷重の範囲内では通行禁止措置を行う必要はないと判断した。(写真8)
1号橋は除荷後たわみが完全に回復しなかったために、2度目の荷重負荷を行った。2度目は除荷後に弾性回復した。この橋については、直ちに通行禁止とするほどではないが、今後の重点的な監視が必要と考えられた。(写真9)
なお、今後も継続的に載荷実験が行われ、データを蓄積することが望ましい。

写真9.現存橋の載荷実験(1号橋)

6. 落橋の原因

事故の主因は耐久設計上の弱点である接合部の木材の腐朽であり、それによる断面欠損や接合部の強度低下が落橋の引き金となったと思われる。
ボンゴシは腐りにくい樹種である。ただ、絶対腐らないと言う思いこみ(設計上の配慮不足)が、部材を過酷な環境に追い込み、今回の事態(耐久設計上の弱点である接合部の腐朽による断面欠損、落橋)を招いたと考えられる。
雨ざらしで10年経っているにもかかわらず、接合部等水たまり部分を除けば、全く変化していないものが多いことでそれが証明されているともいえる。

7. 今後の管理について

補強方法として、下弦材を支えるような鋼材を通すことが考えられるが、接合部の水切りを良くするような手直しをすることによって、状況が改善されるのではないかと考えられた。落橋した部分でも、接合部を解体すれば、ボンゴシ材の腐朽部が簡単に見分けられるので、健全材については、再利用可能と考えられた。できれば、部分的な補修材の原材料として保管され、腐朽程度が高く、今後の使用が危ぶまれるような部材についての、今後の交換部品として必要な形状に再加工し、再利用されることが望ましいと考えられた。

今回、載荷実験を行ったが、これを含めて、年1回以上の定期的な点検が必要と考えられた。そのための手法としては、載荷実験のほか、材色観察、子実体の有無、打音など、簡単な腐朽判定と、超音波伝播速度による腐朽度判定の組み合わせなどが考えられる。
超音波伝播速度による判定手法の有効性やしきい値など、詳細な調査結果については、結果をとりまとめ中であり、今後学会等で順次報告する予定である。

8. 終わりに

本調査は、愛媛県宇和島地方局建設部建設第3課の深い理解と協力によって実施することができた。また愛媛県林業試験場からは、調査に同行するなど全面的な協力を戴いた。ここに深甚なる感謝の意を表す。

9. 文献

1)ヨーロッパ規格EN 350-2英語版, BS EN 350-2, Durability of wood and solid wood - Part 2: Guide to natural durability and treatability of selected wood species of importance in Europe. May 1994, pp.36


現存橋の載荷実験(1号橋)
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Masahiko KARUBE, Ph.D.
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