衝撃事件の核心

被災地の「救世主」だったバングラデシュ人、犯罪者に転落 同郷の部下をこき使っていた手口 

経営するホテルを東日本大震災の避難所として開放して感謝されていた人物は、4年後に不正を暴かれて逮捕された。警視庁は7月、不法入国した外国人を都内に住まわせたとして、入管難民法違反幇助(ほうじょ)の疑いで、バングラデシュ国籍の男(48)=東京都港区港南=を逮捕した。多くの人を救った「救世主」の心温まるストーリーの裏には、パスポートの偽造や賃金不払いといった実態があったようだ。

「日本に恩返ししたい」

栃木県日光市。中禅寺湖畔の「アジアンガーデン」。風光明媚(ふうこうめいび)な土地にあるこのホテルは、平成23年3月の東日本大震災発生から間もなくして、避難を余儀なくされた福島県民を受け入れる1次避難所となっていた。特に介護が必要な高齢避難者を多く受け入れ、経営する男はボランティアとともに懸命な支援を行った。

「バングラデシュが洪水の被害に遭ったとき、一番先に支援の手を差し伸べてくれたのは日本でした。自分ができることで恩返しがしたいんです」

男の善行は多くのテレビや新聞で報道された。寝たきりの高齢者を抱えた家族は当時、なかなか避難先が決まらなかったことなどから、「本当にありがたい」と深く感謝されていた。

親子装い在留資格を取得

警視庁が入国管理局から情報を受けたのは昨年5月。男について、「嘘の書類をつくり、たくさんの身内を偽装家族として入国させている」といったものだった。

捜査を進めると、男は17年からホテルやレストランを日光市や都内などで展開。その従業員を、不法入国の外国人らで賄っていたことが判明した。

手口は悪質で、入国させる外国人について、すでに入国している従業員らの親子と偽る出生証明を現地で作成。それを基に取得した偽造パスポートで不法入国させ、「家族滞在」の在留資格を得させていた。入国した外国人は、男が契約した、都内のアパートなどに住まわせた。

出生証明の偽造など細かい手続きは、男の弟が手伝っていたという。外国人らの供述では、1人の不法入国につき、弟は60万~120万円を受け取っていた。この手口で少なくとも10人の外国人を入国させたとみられる。同法違反の時効に達していない外国人もすでに同容疑で逮捕、強制送還された。

従業員から不満も

逮捕で美談が台無しとなった男だが、外国人従業員らからは、以前から不信感を抱かれていたらしい。

「植木に水をやって根を切る」

彼らは「偽善者」を意味するバングラディシュのこんなことわざを挙げ、男の経営手法を非難した。従業員であるネパール人やインド人、バングラデシュ人は安い給料で働かされ、不払いもあったというのだ。

警視庁によると、経営を始めたころ、系列のレストランやホテルなどは12店舗あったとみられる。しかし今年7月には焼き鳥屋など、日光市の飲食店2店舗しか実態は確認できなかったという。従業員とのいざこざなども関係していたのだろうか。逮捕は経営に窮していたころとみられる。

逮捕当時、男は容疑を否認。不正は許されないが、せめて日本への思いに嘘はなかったと信じたい。

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