アングル:W杯でLGBTに焦点、ドーハ在住のゲイには不安も

アングル:W杯でLGBTに焦点、ドーハ在住のゲイには不安も
 11月19日、カタールの首都ドーハでは先週、この街に住むアラブ系男性の友人グループが集まり、カクテルとスナックを片手に、「ティンダー」や「グラインダー(Grindr)」といった出会い系アプリでゲイ男性のプロフィールを次々とスワイプして「品定め」をしていた。写真は人工島のザ・パール。17日、ドーハのカタラ文化村で撮影(2022年 ロイター/Fabrizio Bensch)
[ドーハ 19日 ロイター] - カタールの首都ドーハでは先週、この街に住むアラブ系男性の友人グループが集まり、カクテルとスナックを片手に、「ティンダー」や「グラインダー(Grindr)」といった出会い系アプリでゲイ男性のプロフィールを次々とスワイプして「品定め」をしていた。
ある1人の携帯電話の画面が光った。近くにいる相手からの連絡だった。その20代男性は席から飛びあがり、デート相手と直接会うため、その場から去っていった。
サッカーワールドカップ(W杯)の開幕を前に集まっていたのは、同性愛が法律で禁止され、3年以下の懲役を受ける場合もあるカタールで目立たないように暮らすゲイの男性たちだ。
「私たちは、一緒に友達付き合いもするし、ディナーにも出かける。パーティーにも参加して、ビーチにも行く」と裕福な国カタールで10年以上暮らす西欧出身のゲイ男性は話す。
「公共の場所でいちゃつくことや、(LGBTQ+を象徴する)レインボーフラッグを掲げることはしない。ただ、声を抑えようとは全くしていない」
ロイターは、4人のゲイの男性にドーハで話を聞いた。1人は西側出身、2人はカタール出身、そしてもう1人は中東地域の別の国出身のアラブ系男性だ。彼らは外国人労働者を多く受け入れるカタールで、給料の良い仕事に就き、友人や家族とともに暮らしているという。
当局から処罰を受ける可能性があるため、4人全員が匿名を条件に取材に応じた。彼らはプライベートなパーティーや、通常カタール国内では閲覧をブロックされてしまうデートアプリにVPN経由でアクセスして交際相手を探すなど、ある程度思い通りの生活を送っているという。
「苦しいことばかりではない」
ドーハで仕事に就き、10年近く生活している30歳のアラブ人男性は言う。
W杯の開催とともにカタールでの同性愛者の扱いが国際的な批判を集めるようになった。だが4人は、世界からの注目を失った時にLGBTQ+コミュニティーへの反動が起き、いま確かに謳歌している自由を失う事態になりかねないと、不安を感じているという。
「何年も、クイア(性的少数者)としてドーハに住んでいる私たちはどうなるのか。W杯が終わったらどうなるのだろうか。権利への関心もそこで終わってしまうのか」 と、アラブ人男性は不安を口にした。
彼らのような男性は、中東の国で暮らすゲイの人々のほんの一部に過ぎない。こうした自由は、一人で自立して暮らし、パーティーを開いたり、カタール社会の厳しい規則が比較的緩くなる高級レストランやナイトクラブでパートナーを探せるほどの経済力があることで成り立つ、「特権の産物」だと4人は自覚している。
全員が同じ状況にあるわけではない。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、カタール国内のLGBTQ+コミュニティーの中には拘束される人もおり、 最近では9月にも拘束されたケースがあったという。また、同団体は複数のトランスジェンダー女性が転向療法を強制されたとして当局を告発した。
カタール当局は、偽情報が含まれているとしてHRWの報告を非難。同国では転向療法を認可・運営していないと否定している。
カタール出身の医師で、米国で約10年暮らすゲイのナズ・モハメドさんは、W杯によってカタールの人権問題に関心が集まることを前向きに捉えている。こうした動きによって、より幅広い人たちに自身のセクシュアリティーについて話したくなったという。
「(カタールにいる)LGBTの当事者だった時は、本当の自分を感じることができず、自分の感覚を失う一方だった」
モハメドさんは今月、サンフランシスコにある自身のクリニックでロイターに語った。
LGBTQ+コミュニティーに対する差別を巡っては、人権団体アムネスティ・インターナショナルなどの複数の団体からもカタールを非難する声が上がっている。
カタール当局は「誰に対する差別も黙認することはなく、国の政策や手続きも全ての人の人権擁護の原則に基づいている」としている。
<公共の場での愛情表現禁止>
天然ガスの主要産出国であるカタールには、周辺地域のみならず世界中から労働者が集まる。290万人いる人口のうち、カタール国民はたった38万人に過ぎず、残りを低賃金で働く建設作業員から有力な会社役員まで、多様な外国人労働者が占める。
ロイターの取材に応じた4人の男性は、経済面やキャリア面での魅力を感じ、カタールで暮らすようになったと話す。また、ゲイにとって、カタールは中東の他の場所よりも良い場所だと付け加えた。
彼らは、同性愛によって死刑判決が言い渡されることもあるサウジアラビアとイランを例に挙げた。
「母国を出て暮らす外国人は、望むように生きていくことができる」と前出の30歳のアラブ人男性は言う。
「同時に、特権があるからこうして生活できていることも理解している。労働者のキャンプにいるゲイ男性は、同じようには生きられないことも」
カタール大会の組織委員会は、公共の場での愛情表現には反対を示したものの、性的指向やバックグラウンドに関係なく誰でも同大会に歓迎するとしている。
また、W杯で保健医療担当の広報官を務めるユセフ・アルマスラマ二氏によれば、大会期間中、医療スタッフが配偶者以外とのセックスや、宗教、その他について尋ねることはないという。
カタールは、12年前に2022年大会の開催国に決まって以来、労働者や女性、LGBTQ+の権利の扱いを巡って批判を浴びてきた。
元カタール代表選手で今大会のアンバサダーを務めるハリド・サルマン氏がドイツのテレビ局のインタビューで同性愛は「精神の傷」と発言したことなどからも、こうした反発が加熱している。
「カタールと国際サッカー連盟(FIFA)は、性的指向やジェンダー・アイデンティティーに基づく根本的な保護を導入するまでに10年以上の猶予があったが、失敗に終わった」と、HRWのLGBTQ+研究員、ラシャ・ユネス氏は指摘する。
「カタールは2020年、LGBTの渡航者も歓迎し、試合中にレインボーフラッグを掲げることも自由だと表明した。ただ、疑問が浮かんだ。既にカタール国内で暮らすLGBTの住人の権利はどうなるのか」
(Maya Gebeily記者、Andrew Mills記者)

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