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超絶テクの盲目のギタリスト 田川ヒロアキ

「キッス」のサウンドに衝撃

 ピアノを学んでいた田川だが、テレビ番組の歌謡曲やラジオから聴こえてくるギター、それもひずんだエレキギターの音に心を奪われた。「11歳か12歳だったと思うんですが、レンタルレコードとかラジオからエレキギターのひずんだ音(ディストーションサウンド)が聴こえてきて、9歳ごろから手にして遊んでいたフォークギターじゃこんな音は出ない。何なんだこれ、という感じでした」。田川はクッキーの空き缶に瓶のふたを入れ、フォークギターの上に乗せて、手製の「ロックサウンド」を楽しんでいた。

 本格的なハードロックとの出合いは1983年。「ラジオからキッスの『デトロイト・ロック・シティ』が流れてきて、何だこれは! と。最初のギターのフレーズにやられました」。13歳の時に兄と一緒にお年玉で通販のストラトキャスターのコピーモデルを買い、そこから風呂や食事とトイレの時以外はずっとギターを弾いている日々が始まった。「イエス、ジャーニー、ナイトレンジャー、兄とレンタルレコード屋さんに行って、どっちがかっこいいバンドのアルバムを借りてこられるか競争しましたね」

 ◇「ジューダス」で一気にメタル

 「最初にガーンと脳天に来たのは、ジューダス・プリーストとヴァン・ヘイレンですね。一気にメタルの方へ持っていかれました」。譜面や教則本が読めない田川はピアノのレッスンでも先生が弾いた音を耳で聴いて学んでいた。ヘビーメタル・ハードロックの華と言えば、流れるような指の動きで速弾きをするギターソロだが、ピアノの訓練を受けた田川はどんどん難曲を耳で聴いてコピーしていく。ただ、ギターの形はおろか、演奏する姿も見たことがないので、フレットを押さえる左手は通常とは逆で、それが今も続く田川の演奏スタイルになっている。

 そんな時、田川に最高のギターの師匠が現れる。戦後の日本のロック草創期から活躍した伝説のギタリスト成毛滋。成毛がさまざまなエレキギター奏法を解説する深夜ラジオ番組「パープルエクスプレス」を偶然聞いた田川は弦を弾く側の右手を使うタッピング奏法、ハーモニクス奏法などの高度なテクニックを次々にマスター。「あ~そうだったんだ、ということがたくさんありました。私は視覚の情報がないですから。ラジオなら、ギターを学ぶ者としては(晴眼者と)同じですから」と懐かしそうに笑った。成毛の番組をテープに録音して何度も繰り返し聞いては練習した。

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